第2話 プロローグ 2

 CMをしていた事務所に電話をかけると女性が対応してくれた。

 その際、「まさか応募者がいらっしゃるとは……」との声が聞こえたため、現在のところ応募者はゼロのようだ。


(そりゃそうだ。『スタッフは女性しかいませんが手を出したりは絶対にしません!』とかCMで言ってたけど怪しすぎるからな。まぁ、俺は躊躇なく電話をかけたが)


 そんなことを思いつつ電話口の方と話を進め、さっそく今日の夜に面接をすることとなった。


「今日の夜、事務所の方が俺に会いたいんだって。親御さんが側にいた方が安心だから俺の家に行くって言ってるんだけど、来てもらってもいいかな?」

「そうね。青葉1人を事務所に行かせることには不安があるから、ここで会ってくれるのならありがたいわね」


 とのこと言葉を聞いて、早速今日の夜、事務所の方と会うこととなった。




 電話を終えた俺はいつも通り男子校に通う。


「お兄ちゃん、準備できたー?」

「ちょっと待って」


 俺はカバンに弁当を詰めながら雪菜に返答する。


「じゃあ行ってくるよ」

「気をつけて行ってくるのよ」

「あぁ。雪菜もいるから大丈夫だ」

「任せて!お母さん!」


 そう返事をした俺たちは家を出て学校を目指す。

 俺は男子校に通っているため雪菜とは違う学校だが、途中まで雪菜と登校している。

 ちなみに雪菜と一緒に登校を始めたのは前世の記憶が蘇ってからだ。


「お兄ちゃんと学校に行くなんて考えたこともなかったよ」

「小学生の頃には女性に対して苦手意識を持っていたからなぁ」


 小学生になるまでは雪菜との仲は良かったが、小学生になる前にとある事件が起きた。

 その事件とは当時幼稚園児だった俺が攫われ、痴漢などトラウマになりそうなことをされかけた事件だ。

 犯人の女性は俺に危害を加える前に捕まり未遂に終わったが、その事件の影響は絶大で俺は女性恐怖症となった。

 そのため俺は小学生の頃から男子校へ通っていた。


 時間が経てば女性恐怖症も治ると思っていたが、男子校へ通っても痴漢被害などトラウマを彷彿とさせる出来事が減らず年々増加していったため、自然と雪菜や母さんまでも距離を置くようになってしまった。


「ホントお兄ちゃんの女性恐怖症が治って良かったー!お兄ちゃんと再び仲良くできるなんて思ってもみなかったから!」


 そう言って嬉しそうな笑顔を見せる。

 その姿を見て、かなり心配をかけていたことを実感する。


「心配かけたな。これからは距離を置いた数年分を取り戻すつもりだから」

「うんっ!すごく楽しみにしてる!」


 そう言って見惚れてしまうくらい可愛らしい笑顔を見せる。


 そんな会話をしながら街中を歩いていると…


「見て!あの人、超カッコ良くないっ!?」

「ホントだ!話しかけてもいいかな!?」

「ダメに決まってるでしょ!急に話しかけたら怪しまれて逃げられるんだから!遠目から眺めるだけにしましょ!」


 10メートル先にいる女の子2人の声が聞こえてきた。


「さすがお兄ちゃん。すれ違う女性の視線を独占しまくってるね」

「あはは……これにはなかなか慣れないなぁ」


 前世ではモテモテとは程遠い人生を歩んでいたため、女性に注目される経験がなく、今の状況になかなか慣れない。


(だが女慣れしないと『モテモテになる』という夢を叶えることはできない。少し話しかけてみるか)


 そう思い、俺は数メール先にいる女の子2人に声をかける。


「あの……俺の顔に何かついてますか?」

「「っ!」」

「お兄ちゃん!?」


 まさか声をかけられるとは思わなかったのか、女の子2人が驚く。

 その行動に隣にいた雪菜も驚いている。


「い、いえ!何もついてませんよ!」

「すみません!ジロジロ見てしまい!」

「いえいえ。それなら良かったです」


 そう言って俺は女の子2人に笑顔を見せる。


「「はぅっ!」」


 “プシューっ!”と湯気が出るのではないかと思えるほど顔を真っ赤にした2人が突然ふらふらし始め、後ろに倒れそうになる。


「危ないっ!」


 俺は咄嗟に2人の背中に手を回して倒れないようにする。


「え?何で倒れたの!?もしかして何かの病気とか!」

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。気絶してるだけだから」


 声をあげて慌てている俺とは対照的に、落ち着いた対応を見せる雪菜。


「どうやらお兄ちゃん耐性がついてなかったみたいだね」

「待って。お兄ちゃん耐性って何?俺は細菌やウイルスの類いなのか?」

「女の子にとってはそうかもね。お兄ちゃんの笑顔は。実際、長年ずっと過ごしている私でさえお兄ちゃんの笑顔に見惚れちゃうからね」

「な、なるほど。俺の笑顔は必殺技になりうるのか」

「必ず殺す技と書いて必殺技だからね。あながち間違ってないよ。だから無闇に必殺技を繰り出さないでね」

「俺、笑わずに生活しないといけないのかよ」


 そんな会話をしながら女の子2人を介抱するため動き出す。


「でも驚いたよ。まさかお兄ちゃんが女性に話しかけるなんて。昔は女性とすれ違うことすら避けてたのに」

「恐怖症は治ったからな。今ではすれ違いざまに話しかけるくらい問題ない」

「だからといって、すれ違う女性皆んなに話しかけたらダメだよ?襲われるかもしれないんだから。危機感はしっかり持っててね」

「あぁ、もちろんだ」


 と答えるが危機感など持っていない。

 そんな会話をしながら女性2人を介抱した。

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