冬空と『冬空』と魔法があった世界

橋月

モノローグ


 こっち世界の『俺』は小説が好きみたいだったけど、俺は嫌いだった。


 賢そうな奴らが偉そうな言葉を使って難しい話をしているものの何が面白いのか、俺には全くわからなかった。

 流行っているものは馬鹿にもわかりやすいように書かれたものか、わかったふりをするための曖昧なだけのものにしか見えなかった。

 と、こういうことを言えば馬鹿にされるのも知っていた。だから最低限読みはしたし、思っててもわざわざ言わなかった。


 実際、俺の理解力やら想像力が足りないだけなのかもしれないけど。


 人が醜いだとか恐ろしいだとか、悪意がどうだとか欲望がどうだとか。

 当たり前に思い知っているか、そのうち思い知らされるようなことを、わざわざ丁寧に語ってくるような小説が、俺は特に嫌いだった。

 他にも、うまく言えないけどとにかく嫌いな理由は沢山あった。

 ていうか、普通に映画とか漫画の方が面白くてわかりやすいのもそうだし。


 けどそこにあった沢山の理由は、全くとは言わないが、正しいものじゃなかった。


 理由は他にあったんだ。

 もっとわかりやすくて、納得できるものが。


「偉ぶっててムカつく」より、もっと的確に嫌いだと言える理由が。


 ただ俺がそれを知らなかっただけで。

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