死が怖くなったきっかけ1

 昔話をこうして書くのも楽しいのですが、そろそろ僕という人生の物語を進めましょう。

 さて、僕の人生の物語のテーマとも言える「死」について語りたいと思います。

 これはかなり長くなります。いくつかのエピソードが絡み合っていますので、少しずつ語りますが、今回はタイトルにもあるように「死が怖くなったきっかけ」についてです。


 死に対する漠然とした恐怖は子供ながらありましたが、より死の何が怖いのかが自分の中で明確になったのが、今回の話です。

 退屈が嫌いという話が小学校中学年頃でしたが、今回は少し時が進み、小学五、六年生のときの話です。


 結果から言うと、きっかけは祖父の死です。


 退屈が嫌いの時にも話しましたが、僕は基本的に祖父に預けられて育ってきました。

 ですが、祖父は病気を患っており(記憶はかなり曖昧ですが、確か糖尿病とかだった気がします)僕が高学年の頃には病院に入院することが多くなっていました。

 僕をずっと面倒見てくれた祖父が、近くにいない日々が訪れたのです。

 学校が終わってからも祖父の家には誰もいない為、自宅で一人ポツンと過ごすようなことが多くなりました。

 それはそれで苦痛でしたが、一番の心配はもちろん祖父です。

 それでも当時の僕は祖父が亡くなるなんてことは一ミリも思えず、いつものテンション感で家族とお見舞いに行っていました。

 病室で横になっている祖父でしたが、僕からしたら普段と変わらない祖父に見えて、いつも通りに話をしていました。


 ですが、雲行きが怪しくなったのは、五年生後半くらいから六年生になったくらいのことです。

 入退院を繰り返していた祖父がかなり大きな病院に入院することになったのです。病院の場所も遠くて、今まで平日でも夜にお見舞いに行ったりしていましたが、土日でも気軽にお見舞いに行くのが難しいほど遠くの病院に入院してしまったのです。


 それでも当時の僕はまだ祖父がそこまで病態が悪いと思っていませんでした。

 不謹慎ですが、祖父のお見舞いはちょっとした遠いお出かけくらいの感覚で、当時ハマっていたカードゲームのデッキなんか持ってお見舞いに行っていたのです。

 病室でも祖父と話はしますが、半分はカードを弄っていたりと、何のためのお見舞いなのか……今となってはもっと祖父と話しておけばと後悔しています。


 しかし、これは両親の配慮だと思うのですが、当時の僕は祖父の病態がかなり深刻なことを知らなかったのです。もちろん大きな病院に入院したときはそれなりに悪いとは思っていましたが、所詮は「それなり」です。

 死が近づいているなんて、知りませんでしたし、思いもしませんでした。


 そして祖父は以前に入院していた隣街の病院に戻ってきて入院していた時。僕は小学六年生でした。

 夜中に母に起こされたのです。

 母の声色はかなり焦っており、父も着替えて支度をしていました。

 何が起こっているのか分からない僕に母が一言。


「おじいちゃんが危ないから、病院に行くよ」


 そこで嫌な胸騒ぎがしていたのも覚えています。ふと頭の片隅に「死」と言葉が浮かびますが、それでもまだよぎる程度で、「じいちゃんならきっと大丈夫だ」という根拠のない信頼が残っていました。

 父は急いで車を出し、沈黙のまま病院に向かいます。

 病院に着くと、父の弟である叔父の家族が先に到着していました。病室は分かっていましたから、足を進めて扉を開けた時、そこでようやく僕は祖父の死を知ったのです。

 まるで眠っているような祖父に対して、叔父が涙を流していました。

 車の中でも、病室の扉を開ける直前までも、僕は一切、涙どころかそんな感情すら湧いていませんでしたが、すでに息を引き取った祖父の姿を見て、自分でも驚くほどに涙が溢れたのです。


 今でも覚えているのは、泣いた理由が分からないと言うことです。

 当時のことを思い出すと、悲しさよりも、父祖が亡くなったショックというよりも、訳が分からず泣いたというのがしっくりとくる表現です。


 自分でも驚きました。おそらくですが、当時の僕には祖父が亡くなったことに対する感情が追いついてこなかったのでしょう。

 ですが、ただただ意味が分からないくらいに泣き喚いたのをよく覚えています。

 人生で初めて身近で大切な人が亡くなった瞬間であり、その時膝から崩れて祖父にしがみ付いたのも覚えています。

 それから一度家に帰るのですが、その間も何度も泣いていました。

 今これを書いている現在までの人生でも、あれほどに泣いたことはありません。それほどに祖父の存在は僕にとって非常に大きかったのです。

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