第2話
2話 それぞれの理由
ゲートポートに軽トラを停めて曳航していた海賊船を売り飛ばした金で一息つく頃にはもう日が暮れていた。
「なぁ、マッカン。助けてもらった手前で図々しいが、俺と組まねぇか?」
イケメンヅラを引っ提げた色男がこちらを伺う様にそんな事を言う。組む、か………普通に考えたら悪くないんだが、俺もあんまりそういうのはな……
「もちろん、無理にとは言わないさ。だが情けない事に打てる手が少なくてな。なりふりかまってられないのさ」
「いや……俺はな………」
「やめたほうが良いですよそんなクズ相手に。貴方もその男に騙されてるんですよ。」
いきなり俺をクズと呼ぶ女が後ろから声をかけてきた。コイツは見てくれだけは美人で探索学校で優秀な成績を収めるエリートウーマン様で、肩までの黒髪に和服っぽいバトルスーツを着た新進気鋭の現役JK探索者だ……あの薙刀……また新しくなってね?いくらすると思ってんだ……クソ…………しまったな……渡し船の時間見とくんだった。
「その男はクズで他人の足を引っ張る事しかしないブタなんです。何があったのか知りませんが貴方は普通の探索者なんでしょう?ならコイツには関わらない方が良いと思います。それでは」
言いたい事は一通り言ったとばかりにツカツカとこの場を後にする女。女の後ろに居た緑髪でそばかすの少女が小声で「すみません……」と言って過ぎ去って行く。
「へぇ、彼女はたしか、翠歌のお嬢様だよな。ニュースで見たことあるぜ。なんだ?顔見知りか?」
「それどころか“怨敵”だよ」
俺は今の自分の顔が見られない様に帽子を深くかぶり直す。いや、……
「いや、お前も妹が病気なんて事情を話してくれたんだ。組むんなら俺も言わないとフェアじゃないよな。後から分かって「何で言わなかった」なんてのはもうコリゴリだし」
ラールッドは小さく頷くと真剣な目でこちらを伺っている。
「あのお嬢様の家が今どうなってるかは知ってるな?」
「ああ、ニュースでやってるのを見たし当時現場の近くに居た。俺の妹の病気もそれからだ」
「ああ、このゲートポートを持つあの家が陣頭指揮を取ってインベーダーとドンパチ、結果インベーダーの特攻によって彼女の両親がドカン!よ。それからもともと身体の弱かった翠歌暖……アイツのアニキだ………が頼りにならないと叔父の翠歌蛮にほぼほぼ追い出される様に家を追い出された……ニュースで知ってるな?」
「ああ、この辺じゃ有名だ。だがなんでその話とお前が……蛮の子飼いだったのか?」
「まあな。やりたくなかったが……裏工作にも加担したよ。まさか殺すまでするとは思わなかったが……で、両親が死んで頼れるハズの叔父は自分が当主の様に振る舞い始めてな。さらに親類縁者もほとんどが蛮の方についた。当時小学5年生の舞と身体の弱い大学生の暖、2人だけではとな……つい、情が湧いちまった」
ラールッドは首を傾げる。まあ話が見えて来ないだろうからな。
「すまない。ここまでは前置きだ。でだ、俺は兄貴の方とはもともと面識があってな。2人をこっそり援助してたんだ。だがある日、その兄貴が消えた。それも状況的に俺がやったとしか思えないタイミングでな。」
「それと同時に妹に俺が昔蛮の子飼いだった事をチクった奴が居てな。あれよあれよと言う間に暖殺しの犯人よ。まあこっちはニュースに乗らなかったから知らなかったろうが。証拠不十分でブタ箱を追い出されてからは暖の願いを叶える為に偽名を使って舞に援助してんだ。おかげでスカンピンよぉ」
俺は少し口が軽くなったかな?と後悔しながら水を口に含む。まあ俺も相当参ってたんだろうな……
「じゃあナニか?あの事件にお前も関わっていると?」
ラールッドから返って来た返答には銃口のオマケが付いていた。なんだよてめぇ、色男が凄むと迫力が違うな。
「ああ、今更言い訳はしない。作戦の一部しか知らなかった下っ端とはいえ関わっていた。言い訳でしか無いが、少なくとも作戦では“あんなモノ”だとは知らされていなかったんでな」
ダァン!
「正直憎い。が、撃つべきはお前では無い事ぐらいは分かる。組まないか?なんてヌルいのは無しだ。俺と組め。そんで翠歌蛮の首を取るぞ。分かったなマッカン」
「喜んで、ラールッド」
銃声を聞いて集まった野次馬を尻目に水のボトルで乾杯する。ここから、何か変わる様な風が吹いた気がした……
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