第18話 唐突にゲームは始まった
今日は下僕のロンTを着ている以外は何事もなく平穏に一日が終わる。敢えて言うのであれば、全ての教師が俺のことを下僕2号と呼んだことだけだろう。しかし、変なあだ名を付けられた程度の不快感しかなく、それほど気に病むことはなかった。
結局2週間何事もなく時は過ぎていく。クラスメートはそれぞれグループを形成し、自然とスクールカーストが出来上がる。俺はいつもスクールカーストの最下層に居たが、今回はスクールカーストの枠にさえ入っていないと感じていた。それは1週間も経過したのに、未だに俺は誰とも会話をせずに置物のように教室に存在していたからだ。だがそれはいじめられない安全なポジションとも言えるので、歓迎すべきことであった。
入学して3週間が過ぎた。授業が終わりクラスメートは早々に教室を去り、俺もいつものように教科書をカバンにしまい、家に帰る準備をしていた。その時、不穏な空気を感じとる。違和感を感じた俺がふと頭を上げると俺の机の前に1人の男が立っていた。
「……」
俺はその男に見覚えがある。入学初日に俺の手を引いて教室から逃がさないようにした生徒である。あの時数名いた生徒の顔ははっきりと覚えていないがこの男だけは覚えていた。身長は165㎝程度、細身の体系、長髪のセンター分け、目つきが悪く素行も悪そうな雰囲気だ。俺のクラスにはいなかったので別のクラスの生徒である。
「下僕2号、俺は
「マママ……ネ……」
裃に比べたら見劣りはするが
「こんなビビりが下僕ゲームに勝ち上がるとは思えないが、初戦を圧勝した事実は認めるべきなのであろう」
晴天は下僕ゲームのことを知っているような口ぶりで呟いている。俺は勇気をだして詳細を聞き出したいと思った。
「下……僕ゲーム……とはなんだ」
「裃君から説明を受けていないのか?」
俺は大きく首を横に振り「聞いていない」とアピールをする。
「そうか……。残念ながら俺からは説明することはなにもない。しかし、これだけは教えてやる。お前は下僕ゲームから絶対に逃げることはできない。だが勘違いはするな。お前は選ばれし人間だ」
「え・ら・ば・れ・し……」
「そうだ。さて、本題に入ろう」
と晴天が述べた瞬間、頭に雷が落ちたかのように全身に電撃が走る。俺は地面に叩きつけられたカエルのように全身をピクピクと痙攣させながら意識が遠のいていった。
どれくらい意識を失っていたのかはわからないが、俺は目を覚ますと視界がほとんどない暗闇の中にいた。そして、恐怖に怯えた声、嗚咽にまみれた声、泣いている声、様々な負の感情にまつわる声が響いていた。
俺は直ぐに理解する。今から下僕ゲームが始まるのだと。俺は下僕ゲームだと理解すると心に静寂が訪れる。それは前回の下僕ゲームの内容が俺にとってはそれほど苦ではなかったからである。冷静になった俺は衣服を着けていないことに気付く。そして、もう1つ奇妙なことに気付いた。それは全身にローションが塗られていて、体がスライムのようになりニュルニュルと滑るのである。
「一体これから何をやらされるのだ……」
他の人たちが泣き叫ぶ気持ちを理解することができた。恐らくここにいる人たちは、俺と同じように電気ショックで眠らされてこの場所に連れて来られ、全裸にされた後、ローションを全身にかけられたのであろう。暗闇の中、何をやらされるのか不安になるのも当然だ。
「みなさん!ごきげんよう」
急に建物の一点だけが満月のように光り輝いた。俺たちは暗闇の中、電球に集まる害虫のように光の方に視線を向ける。するとそこには裃の姿があった。
「今から第2回下僕ゲームを開催したいと思います。第1回の時とは違い、今回はバトル形式になりますので、皆さんに集合していただきました。もちろん、前回のゲームと同様にゲームの内容、勝利条件など一切教えることはできません。ご自身で状況を判断して、どのようにすれば勝利するのか考えてください。では、第2回下僕ゲームを始めます」
裃の説明が終わると建物の照明が付いて辺り一帯を映し出す。高い天上、木製の床、広い教壇、バスケットゴール、ここはどこかの体育館だ。俺と同様に全裸にされた男の体はローションが塗られてテカテカに輝いている。ヒョロガリ眼鏡、チビ、デブなど俺と同様の陰キャスタイルに紛れて、高身長のイケメンや、筋肉の塊のようなスポーツマン、金髪ヤンキーなど、参加者はバラエティーにとんでいた。これからどんなゲームを始めれば良いのかは、一同すぐに理解する。俺たちの体には至る所にマジックで数字が書かれている。それ以外で体育館に用意された物はない。
これは簡単なゲームだ。ローションを塗られて動きにくい体で相手を殴りポイントを稼ぐゲームだと全員理解した。
「ガハハハハ。殴り合いは俺の得意分野だぜ!」
金髪のヤンキーが俺を見て大声で叫ぶ。ヤンキーの言う通りこれは殴り合いのバトルロワイヤル、陰キャの俺には絶対に勝ち目はなかった。
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