第15話 唐突に俺は拘束される
俺は意識を取り戻して目を覚ますと教室の椅子に座っていた。担任だと思われる教師が教壇に立ち何か説明をしているようだ。俺は
俺は顔を真っ青にして涙目になっているが、誰も俺のことを気に留める様子はなく、ホームルームの時間が過ぎていく。俺はクラスメートや教師に助けを求める声を出す勇気はない。しかし、そのうち両腕を結束バンドで拘束されて動けない俺に教師が気づいてくれるだろうと思い、痛い腕を頑張って動かしてガタガタと音を立ててアピールをすることにした。ところがいくら音を立てても教師は俺の方を一度も見ることなく、1限目のホームルームは終了した。
10分間の休憩時間が始まる。
休憩時間が始まり他のクラスメートは席の近い生徒とおしゃべりをはじめるが、誰も俺に近寄って来る者はいない。まるで、俺が存在しないかのように教室の時が進んでいるようだ。
にぎやかな声が響く教室内で俺はある異変に気付く。アイツがいない。
ここである仮説が思いつく。裃はクラスメートだと思われる男子生徒を血まみれになるまで殴りつけていた。おそらく、そのことが原因で職員室にでも連れていかれたのであろう……と。だが、その仮説が正しければ俺が結束バンドで拘束されているのはおかしいはずだ。俺の存在が無視されているのは裃の命令であることは明白だ。だとしたらなぜ、裃は教室に居ないのだろうか?そんなことを考えているうちに休憩時間は終わり、教師が教室に戻って来た。そして、全く俺のことを触れることなく2限目のホームルームが再開した。
「
教師が教室の1番前の席の男子生徒から自己紹介をするように促した。席順は名前の順である。よく見ると前から3番目の席が空いているので、空いてる席は裃の席であろうと俺は思った。
相馬の自己紹介が終わり次に
「裃君は体調不良で早退しましたので、次は木村君でお願いします」
やっぱり裃はこのクラスの生徒だった。しかし、裃が帰ったのなら俺を結束バンドで拘束する必要はないはずだ。そもそも、なぜ教師が俺の状態を無視しているのだ。教師がイジメを見て見ぬふりをするのは良くあることだが、授業中に結束バンドで拘束されている状況を無視するのはありえない。いったい俺が気絶している間にこの教室で何があったのだろうか。
俺を排除した教室は平穏に自己紹介が続いていく。時折り笑いが起こり賑やかになる場面もあったが、ついに俺の番が来た。俺のことは無視して次の生徒が自己紹介するのだろうと思っていたが、教師は衝撃の言葉を発した。
「次は下僕2号君、自己紹介をお願いします」
俺は自分の耳を疑った。下僕2号とは誰のことだ。そもそもそれは人の名前ではない。それに教師は俺のことを無視していたわけではなかった。俺が結束バンドで拘束されているの容認していたのだ。
「……」
俺は驚きを隠せずに額から多量の汗が流れ落ちてきた。「俺は下僕2号ではありません」と答えるのが正解のはず。しかし、その言葉を発する勇気があれば、俺は結束バンドで拘束されたままおとなしく席に座っていない。今にも大声を出して泣きたいくらいに涙腺が破裂しそうだ。でも、俺は何もできずに体を震わせながら俯いた。
「下僕2号君は自己紹介をしたくないようなので、次は原田君お願いします」
俺が下僕2号と呼ばれたのにクラスメートはざわつくこともなく静かに席に座っている。まるで俺の名前が下僕2号であるかのように自己紹介は続いていく。俺はどうして良いのかわからない。早く2限目のホームルームが終わるのを祈るように待つしか道は残されていなかった。
「最後に下僕1号君ですが、きほど自主退学されましたので、これで全員の自己紹介を終えたことになります。みなさん、私はイジメの無い楽しいクラスにしたいと思っています。もし、イジメられたり、イジメを見かけた方はすぐに私に相談してください。私は全力であなた方を守ります。私が伝えたいことはそれだけです。新しい学校で不安もあると思いますが、みんなで手を取り合って素晴らしい学生生活を送ってください」
「はい!」
俺以外のクラスメートは元気よく返事をした。
「今日は入学式なので2限目で終了となります。教室はしばらく解放しておきますので自由に使って交流を育んで下さい」
教師は終業の挨拶をすると教室から出て行った。教室は解放されているが誰1人も残らずに教室から出て行く。そして、俺1人が教室に取り残された。
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