異世界美少女ハンターと猫になった少年が世界を救う?~この世界はいつの間にか暗黒生命体に支配されていた~
にんじん太郎
プロローグ
第1話 ストーカー前編
キラキラと光る汗、艶めかしい呼吸音、心地良いリズムを刻む足音、小さく上下する小ぶりの胸、円を描くように左右に揺れる二の腕、真っ白なTシャツから汗で透けて見える黒のランニングブラ、太ももに吸い付く真っ赤なスエットパンツ。銀髪ショートカットの細身の女性がランニングマシーンでジョギングをしていた。
ここは駅の近くにあるフィットネスクラブ、19時を過ぎると仕事帰りに運動や筋トレをする会社員や近隣の中高年者が足繁く通う場所。その中でひと際目立つ美貌の持ち主
21時に仕事を終えて、職場の近くにあるフィットネスクラブに赴き、1時間ほどランニングマシーンで走ったあと帰宅する。
彼女の自宅は駅から歩いて20分と近いのだが、通勤は親が車で送迎してくれている。駅の近くは高級住宅街が立ち並ぶベットタウンだが、女性の夜中の1人歩きは歓迎すべき光景ではない。今までに事件などは起きてはいないが、起きてからでは意味はない。これは彼女の両親が過保護で甘やかしているのではない。
ストーカーから逃げて2年の月日が経った。彼女自身、そして家族も平穏を取り戻して落ち着いた日々を過ごしていた。
星が見えないチープな夜空を見渡すことができる大きなガラス窓と対面するように、20台のランニングマシーンが設置されている。時刻は21時10分、ピークの時間は過ぎて、ランニングマシーンも数台の空きが見えるようになっていた。甘い香りを漂わせながら、1人の美しい女性がランニングマシーンに足を乗せる。皆と同じ動作をしているだけなのに、そこだけが光り輝いて見えるのは、俺のただならぬ気持ちが美化して映し出された幻なのかもしれない。俺は10m離れたフィットネスバイクを漕ぎながら、彼女の到着を虎視眈々と待っていた。
彼女がランニングマシーンを終えるのは22時、10分後には着替えを終えて、フィットネスクラブに隣接するスーパーの屋上駐車場に向かう。駐車場は2つあり、1つは大きな平場の駐車場、もう1つはスーパーの屋上駐車場だ。屋上駐車場に上がるにはスーパーの階段かエレベーターを使用することになるが、彼女はエレベーターを使用している。この時間帯は屋上駐車場に止まっている車は少なく利用者は少ない。
俺はいつものようにフィットネスバイクを21時30分で終えてシャワーで汗を流す。今日の俺はいつもと違い興奮を抑えきれずに過呼吸になっている。瞳孔が開き目が充血し、体が小刻みに震えていた。・・・我慢しろ!もうすぐあれは俺のモノになるのだ・・・俺のイチモツは堅く硬直していた。
2週間前、運命の瞬間が訪れた。それは駐車場に向かう途中にバッタリと彼女と目が合ったのである。あの時、妄想は確信に変わった。俺の思いは両思いだと。それから、俺は名探偵のように彼女を張り込みと尾行を繰り返し行動パターンを全て把握した。
運命の糸を紡ぐのは、屋上駐車場に向かうエレベーターの中、時間にして5秒ほど、ネットで手に入れたクロロホルムで眠らせて俺の車に運び込む。これが俺の逆シンデレラストーリーの始まりだ。
時刻は22時10分、俺は彼女より早くにフィットネスクラブを出てエレベーターの近くで身を潜める。スーパーは閉店し客も少ない。今は一部の飲食店とフィットネスクラブしか明かりが灯されていない。屋上駐車場は22時30分で閉じられるので、エレベーターを利用する客はほとんどいない。
遠くからモデルのような脚線美の美しい女性が、レッドカーペットを歩くように堂々とした姿で闊歩する。それはきどっているという意味ではなく、優雅に湖を舞う白鳥のように、無意識にかもしだす風格もしくはオーラである。もうすぐこの美しい女性が俺のモノになると思うと、笑みがこぼれ落ちてしまうので、下を向いて表情を隠す。女性は俺のほうを気に留める様子もなく、サッとエレベータの前に立ちボタンを押した。するとすぐに扉が開き中に入る。俺は慌てることなくエレベーターに近づき、閉まりかけた扉を手で押さえて中に入る。
「すみません」
俺は違和感なく声をかけるが、女性は俯いたまま返事はしない。俺はエレベータの閉るのボタンを押して扉が完全に閉まったのを確認すると、ポケットに忍ばせていたクロロホルムを湿らせたハンカチを女性の口に押し当てた。俺の無駄のない完璧な動きに女性は抵抗することなく、一瞬で意識を失い崩れ落ちるように倒れ込む。すぐに俺は女性に背中を預けて倒れ込むのを防ぎつつ、背負いながらおんぶをした。これまで一つも無駄な動きはなくその道のプロのような仕事っぷりであった。
俺が彼女をおんぶすると同時にエレベータの扉が開く。
「・・・」
俺は黒い塊と目が合い一瞬きょどってしまうがすぐに冷静を取り戻した。
「ニャー―」
俺と目が合ったのは一匹の黒猫であった。猫以外には誰も居ない。扉を出て屋上駐車場に止まっている車は三台だけである。一番奥に止めてある黒のワンボックスカーは彼女の親が乗っている車だ。この距離だとよほどこちらを注視していないと娘が担がれていることに気付かないだろう。もう一台は白の軽自動車だ。人影が見えるので誰か乗っているのかもしれない。そして、黒のコンパクトカーが俺の車だ。俺は助手席側の扉を開き、彼女を座らせてシートベルトを付け終えると扉を閉めて運転席側の扉を開け、エンジンをかけて車を走らせる。少しも焦ることなく任務を完了した俺の顔は、狂気に溺れた悪魔の顔をしていたのかもしれない。
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