九の月

第3話 副長のお好み

 陽連をじりじりと焼き尽くした夏は、終わりを迎えつつある。

 あの衝撃的な任務からすでにひと月の時が経過していた。しかし雪華の周囲の空気は変わることなく、それまでと同様に静かに、そして忙しく流れていた。



「――副長、いますか?」


「開いている。入れ」


 蒼月楼二階の自室で依頼書を確認していた雪華は、扉を叩く音に顔を上げた。


「お疲れ様です。昨日の護衛の件ですけどー」


 顔を覗かせたのは、組織内では中堅にあたる葉青竹ようせいちくだった。

 その体躯は名の示すとおりにひょろ長く、細いおもてには笹の葉のような糸目が引かれている。性格は「竹を割ったように」とはいかずなかなかひねくれたところのある男だが、雪華にとっては有能で頼りになる部下だ。


「わざわざ悪いな、青竹。今聞くよ……っと、そういえば梅林を見なかったか? 砥石といしを買ってきてくれるように頼んだんだが、朝から帰ってきやしないんだ」


「ああ……。あの梅猿うめざるならさっきそれだけ置いて賭博に行っちまいましたよ。あの猿、店の言い値で買ってきやがった。副長も買い物するなら俺に言ってくださりゃいいのに」


「いや、頼もうと思ったんだがちょうどお前がいなくてな。とりあえず梅林が忘れてないなら良かった」


「良かないです。今月はやり繰りがちっと厳しいっつってんのに、余計な出費しやがって。あの猿」


 もう一人の部下の所在を訪ねると、糸のような目を険しくして青竹が悪態をついた。

 この青竹には組織の資金管理を主に任せている。そのため金の動きに少々口うるさいところがあるのだが、梅林に対する扱いは他の誰にも増して辛辣だ。


「まあまあ、頼んだのは私だし。それにしても梅猿って、それはさすがにあんまりじゃないか?」


「全っ然。……あの猿、俺のこと『竹ギツネ』とか抜かしやがったんですよ。だったらてめえは頭の軽い猿だって言ってやったら、顔真っ赤にして怒ってましたよ。ほんと、猿みてーに」


「お前な……」


 青竹と梅林が昔から仲が悪いのは、組織内では周知の事実だ。冷静で澄ましかえったような青竹の態度が、梅林に言わせると馬鹿にしているように見えるのだそうだ。

 いちいち突っかかってくる梅林の子供っぽい態度に青竹も最初は冷たく返していたが、いつからかブチ切れてしまい、堂々と梅林を馬鹿にするようになった。こんなことは日常茶飯で今さら気にも留めないが。


「ああ副長。そういやちょっと、飛路んとこ行ってやってくれませんか。なんか投げ縄の仕方が分かんないとか言ってて」


「投げ縄? ……あいつ、扱ったことなかったのか?」


「みたいっすね。腕は立つみたいだけど、俺らがやるような裏の作業はからきしで。ちょっと見てやった方がいいんじゃないかと」


「分かった。お前の報告を聞いてからな」


 それなりに忠実な部下から、仕事の報告を受ける。そのあと階下に下りると、郊外で訓練をしているという飛路を探しに雪華は蒼月楼を出た。



「こんなところにいたのか。ずいぶん熱心だな」


「……? あ、雪華さん……」


 飛路は、陽連の街外れにある崖の前にいた。

 荒い息と額に流れる玉の汗が、ここで彼が訓練していたことを物語る。赤髪の青年は目を見開くと、乱暴に汗を拭った。


「なんか用? オレのこと、探してた?」


「別に用はないが……まあ探してたのは事実だな。青竹の奴から、投げ縄を見てやってくれと言われた」


「げ……。あいつ、言わなくてもいいのに」


 飛路が渋い顔で手元の縄を見下ろす。その拗ねたような様子に雪華は思わず頬をほころばせた。


「組織にもだいぶ馴染んだみたいだな。……良かった」


「え……?」


「うちの奴ら、荒っぽい奴が多いだろ。入ってもそれに辟易へきえきしてすぐにやめてしまう奴が多いんだ。だからお前がもってくれて……助かる」


「いや、別にそんな……褒められるようなことでも……」


 実際、飛路はこのひと月よくやってくれていた。

 元々体術や剣術などの基本的な戦闘能力は身についていたから、潜入術や護身術など、この仕事に特異な技術を教えるだけでたいていの任務をこなせるようになってきている。


「投げ縄か。どれぐらい投げられるんだ? 見せてくれ」


「え? ……あ、ああ……」


 こちらを見つめたままぽかんと呆けてしまった飛路に呼びかけ、目前の崖に斜めに生えている細木を指し示す。飛路は我に返ったように頭上を見上げ、小さく頷いた。


 若馬のようなしなやかな体が数歩後ずさり、先端に重りをつけた縄が狙いを定めるようにゆっくりと回された。

 振り回される縄が、徐々に速度を上げていく。飛路の周囲に緊張がみなぎり、それが頂点に達したとき―― 


「――はっ!」


 小さな気合いの声とともに、縄が投げられた。


「…………」


「…………。……あー……」


 高くまで上がった縄は、幹をかすめながらも巻きつくことなくそのまま地表へと落ちてきた。鈍い音とともに落ちた縄を、飛路は肩を落として拾いにいく。


「惜しいな」


「いや、惜しくないだろ。全然引っ掛かってないし」


「惜しいさ。あと少しコツを掴めばすぐに成功する。お前の縄、少し見せてくれ」


「? ああ」


 戻ってきた飛路に歩み寄ると、拾ったばかりの投げ縄を受け取り確認する。

 ……基本的な構造は間違っていない。軽くそれを回し、雪華は飛路に目配せした。


「この重り、少し重いな。あと、投げる時に力みすぎてる」


「軽いのに変えればいいのか? あー、でも部屋に置いてきちまった」


「そうか。この三分の二ぐらいの重さがいいだろうな。それじゃとりあえず、私のを使ってもう一度投げてみろ」


「あんたの?」


 雪華は腰に下げていた愛用の短剣を抜くと、そこから胴体へと巻きつけられた革紐をほどいた。

 常に携帯している雪華の愛刀。短剣に分類されるそれは、ただ剣として使うだけのものではない。その柄から伸びる長い革紐で回せば、投げ縄や鎖鎌のように飛び道具として扱うことができるのだ。


「それ面白いな。そんな武器、初めて見た」


「そうか? 流星錘りゅうすいせいとか縄標じょうひょうに近いかな……。まぁ特注らしいからな。体の成長が止まった頃に、航悠から貰った」


「ふーん」


 短剣を受けとった飛路が、感触を確かめるようにそれを二、三度回す。再び崖へと向き直ると、頭上の細木を見上げた。


「――ちょっと待て」


「え? ――っ」


 やはり、力みすぎている。飛路の背後に立って音もなくその手を握ると、思いのほか節張った手が緊張に固く強張った。ぱっと朱が上ったうなじのすぐ後ろで、雪華は口を開く。


「だからそう固くなるな。柔らかく持って……そう、息を吐いて……」


「…………」


 なおも強張る背の力を抜くよう、その肩に手をかけた。腕を支え、動きを誘導する。

 がちがちに強張っていた肩から、あるときを境にフッと力が抜けた。それを見逃さず、耳打ちする。


「――今だ」


「……っ!」


 今度は声を立てず、飛路が剣を投げる。鋭利な軌道を描いたそれは中空で力を無くし、弧を描き始めた瞬間に細木へと巻きついた。


「あ――」


「よしっ!」


 ぽかんと崖を見上げた飛路に向け、雪華は思わず拳を握っていた。その声の大きさに飛路が振り向く。


「いや、なんであんたがそんなに嬉しそうなんだよ」


「え? ああ……つい、な」


 知らず握りしめた拳をほどき、なんとなく振ってみる。飛路は呆れたような溜息をつき、ついで何かを思い出したように小さく咳払いした。


「あんたな……急に、驚くだろ」


「……何がだ?」


「何がって……! 急に後ろに立つなよ」


「ああ、悪いな。あんまりガチガチだったもんで。……お前、力を抜くように意識した方がいいぞ。強張りすぎてる」


「……誰のせいだと思ってんだよ……」


「……? 何か言ったか?」


 ぼそっとつぶやいたその顔が、うっすら赤く染まっているように見えるのは気のせいか。見つめ返すと、飛路は大きく溜息をついて首を振る。


「いーや、なんにも。……あんた、いつもあんな風に教えてんの?」


「投げ縄か? まぁ……そうだな。言葉で伝えるよりも、一緒に体を動かした方が呑み込みが早いだろ」


「……梅林とかにも?」


「ああ。あいつは本当に慣れるのが遅くて手こずった。何度も一緒にやって下さいってせがんできてな……」


「いや、それ絶対わざとだから。……あんた、変なところで鈍いのな……」


 何かぶつぶつ言っている飛路を置いて、雪華はさっさと枝に巻きついた剣を取りに行った。

 軽く二階の屋根ぐらいの高さまで張られた革紐は、下から引っ張ってもびくともしない。……いい固定性だ。強度を確かめ、それを支えに崖を登ろうとすると背後から声がかけられる。


「いいよ、オレが投げたんだからオレが取る。練習になるし」


「そうか」


 足をかけた雪華を制し、飛路が崖を登り始める。ひと月前にはこんなことをするのは初めてだと言っていた割には、もうずいぶんと慣れた足つきだった。

 それから三十分ほど練習に付き合ったところで、飛路から剣を受け取った。



「だいたいコツは掴めたみたいだな。さて、私は帰るが……お前はどうする? もう少しやるのか?」


「いや、オレも一緒に行くよ。松雲しょううんさんに買い物頼まれてんだ」


 松雲――陶松雲とうしょううんは、組織の三番手にあたる幹部の一人だ。

 雪華よりも年上で、雪華が出会うよりも前から航悠と親交があった人物だが、才をひけらかすことなく自分の下の立場などに甘んじてくれている一風変わった男だった。


「あの人、ほんと常識人だよな。参謀ってああいう人のことを言うんだろうなって思うよ」


「そうだな。航悠よりもよっぽど頼りになる」


「上が滅茶苦茶やってても、あの人がいれば何とかなるって思うよ」


「……どういう意味だ」


 取りとめない会話を交わしながら、街に向かって歩く。その入り口にたどり着く頃、半歩後ろからついてきていた飛路がふと口を開いた。


「なぁ、あんたさ……。……あんた、暁の鷹にどれぐらい前からいるの?」


 途中何かを口ごもり、その間を散らすように早口で問いかけられた。


「私か? そうだな……かれこれ十三年になるかな」


「十三年って……そんな子供の頃から今みたいなことやってたのか?」


「いや、最初は普通に暮らしてたよ。まぁ色々はしたけど。流れ着いた街で賃仕事みたいなことをしたり。……ああ、吟遊詩人の真似事なんかもしたな」


「吟遊詩人…!? あんたが? 似っ合わなねぇ……」


 雪華の発言に飛路が目を丸くする。雪華は唇を尖らせるとじとりと飛路を睨んだ。


「失礼だな。……まぁ歌って弾いてたのは主に航悠だけどな」


「頭領が? マジかよ……」


「結構うまいんだぞ、あいつ。座って歌うだけで小金が手に入るから楽だと言っていた」


「はぁ……。頭領がねぇ……」


 その光景を想像したのか、飛路が微妙な表情で笑う。暮れはじめた空を見上げ、雪華は歩みを早めた。


「本格的に今みたいな仕事を始めたのは、異国を回って斎に帰ってきてからだな。やっぱり自国人じゃないとこういう仕事はなかなか信用されないから」


「他の奴らが加わったのも、その頃から?」


「松雲は違うけど、まぁ他はそうだな。入って出て、入って……一番多い時で十五人ぐらいいたが、あまり多すぎても上手くいかなかったな」


「やっぱそうなんだ。軍でも小隊は多くて十二、三人だしね」


「そうなのか。よく知ってるな」


「あ……うん、まぁね」


 雪華が小さく目を見開くと、飛路ははっとしたように口をつぐんで曖昧に笑った。

 ……もしかしたら、禁軍にでも入りたかったクチなのかもしれない。そのあたりを訊いてみようかとも思ったら、ふいに飛路が口を開く。


「あんたの名前、さ……」


「うん?」


「李雪華って……その……」


 振り返ると飛路は下を向き、もごもごと何かを言い淀んでいる。……正直、煮え切らない態度は好きではない。


「……なんだ」


「いや……。綺麗、だな……」


「…………」


 顔を背けた青年の、低い一言。それに雪華は唖然として声を詰まらせた。


「それは……どうも……」


「おう……」


 なんだかよく分からないまま取りあえず礼を言うと、どこか赤い顔をした飛路がぶっきらぼうに応じる。そのやり取りがおかしく、小さく吹き出した。


「くっ……」


「な、なんだよ……」


「だってお前――」


 初対面の時、いけしゃあしゃあと美人だとか好みだとか言っていたくせに、今の態度との落差はなんだろう。名前を褒める方がよっぽど恥ずかしくないと思うが。

 このひと月を見る限り、こちらが飛路の地なのだろうと思う。年相応…いやそれよりも少し幼く、けれど時折大人びた表情を見せる。あの時は、何をそんなに背伸びしていたのだろうか。


「い、いいだろ。別に……」


「ああ、いいよ。……そうだな。私もお前の名前、いいと思うぞ」


「オレの?」


「珍しいけど、なんか躍動感があって。ご両親が付けられたのか?」


 半歩後ろを振り返り、軽い気持ちで問うてみる。飛路は一瞬顔を強張らせ、ついでゆっくりと頷いた。


「ちちう――親父が。親父、仕事が忙しくて……いつも『早く家に帰りたい』って思ってたらしいから。『飛ぶようにみちを行く』って意味で付けたんだって。……いい加減だよな」


「そうか? それだけ早く家族に会いたかったってことだろ。いいお父上じゃないか」


「そう……だな。うん、いい親父だったよ」


 そう告げた飛路が、懐かしむように目を細める。それで分かった。この青年の父親は、既にこの世の人ではないのだと。

 そこをあえて指摘する気にはなれず、二人は黙々と蒼月楼までの道のりを共に歩いた。



「――おう雪華。帰ったか。飛路も一緒だったのか?」


「ああ。ちょっとな」


「どうも。オレはまた出かけますけど」


 蒼月楼に着くと、外で薪割りをしていた航悠がこちらへやって来た。いつもは面倒くさがってやらない仕事なのに、今日はどういう風の吹きまわしか。

 珍しく爽やかな汗を流す相棒を横目に見る雪華に、飛路が声をかける。


「雪華さん、今日はありがとう。オレ、これから街に出るけど……なんか土産に買ってくるよ。何がいい?」


「え。……いいよ、そんな大したことはしてない」


「してくれたよ。いいから。オレがお礼したいんだ」


「飛路……」


 はにかんだような笑みを浮かべ、飛路が返答を促す。その笑顔がまぶしく、雪華は戸惑いの視線を航悠に送った。


「いいじゃねぇの。たまにはなんか買ってもらえって。男から物貰える機会なんて滅多にないだろ」


「そんなことはない。じゃあ、お言葉に甘えて……」


「ああ。何がいい?」


 無言で思案する雪華を飛路が優しい笑みで待つ。

 ……なんだか少し心が浮き立つ。雪華も知らぬうちに笑顔になると、所望を口にした。


「満点屋の苺大福を」


「ああ。……え?」


 笑顔のまま一も二もなく頷いた飛路は、きょとんと目を瞬いた。聞こえなかったのかと思い、再度口を開く。


「満点屋の苺大福。……あ、ちょっと待てよ。綿屋の月餅も捨てがたいな。いや、やはりここは杏仁豆腐でいくべきか…?」


 告げたそばから他の甘味が頭に浮かび、雪華は頭を抱えてしまう。唖然とした飛路がこちらを見ていることにも気付かずに。


「えっと……そんなものでいいのか?」


「そんなものとはなんだ。私が欲しいものと言ったら甘味しかない」


「いや、言いきらなくても……。ていうかあんた、甘いもの好きなの?」


「好き……? 好きなんて言葉では語れないな。甘味は私のすべてだ」


「いやすべてってことはないだろ。あんた、だってそんな性格で――」


「……?」


 思いきり困惑した顔で飛路が雪華を見つめる。その表情の意味が分からず、雪華は飛路を置いて再び甘美な甘味思案へと没頭していく。


(桃まんはこの前食べたからな……。……んん? そういえば、何か――)


 心ときめく甘味の数々を思い浮かべた雪華は、ふと何かの引っかかりを覚えて思考を止めた。その正体に思い至ると、はっと青ざめる。


(――しまった! 最近忙しくて夜霧亭の限定黒糖饅を見逃していた…! 去年は食べられなかったから、今年こそはと思っていたのに!)


「なんたる不覚……。また来年まで待たないといけないだなんて……」


「え? な、なに?」


 信じられない失態に一瞬だけ落ち込むが、溜息をつくとすぐに思考を切り替える。済んでしまったことは仕方ない。まずは今の課題を解決しなければ。

 そうして再び思考に没頭しはじめた雪華の背後で、男二人が小声で交わし合う。



『……なに? あの人、甘党なんですか…!?』


『あ? ……ああ、お前まだ知らなかったのか。あいつ病的な甘党だぜ。量はそんなにいかねぇから太んないらしいが』


『だってどうみても辛党っぽいじゃないですか! オレ、酒でも買ってこようかって思ったのに…!』


『飲めるが、そんなんじゃあいつはあまり喜ばんぞ。てっとり早く餌づけしたいなら、甘味で攻めないと』


『餌づ…っ。なんてこと言うんですか頭領! 仮にも女性に向かって……!』


『仮にも、な。お前も言うようになってきたじゃねぇか、飛路』


『そういう意味じゃありません!』



「……よし、決めたぞ。やっぱり満点屋の苺大福だ。すごく美味いんだぞ。お前も一緒に食べよう」


「あ――うん。……本当に好きなんだね」


 思案すること数分。今度こそきっぱりと告げると、飛路が小さく笑う。雪華は胸を張ると笑顔で告げた。


「ああ、大好物なんだ。一時間は並ぶがよろしく頼むな、飛路」


「そっか。いちじか――、一時間!? え? たかが甘味に一時間!?」


「たかがとか言うな。絞めるぞ」


「ごめんなさい。……わ、分かった。えっと、たくさん買ってくればいい?」


「馬鹿者。それじゃ他の人が買えなくなるだろ。美味しいものをちょっとだけ、いいものはたくさんの人に知ってもらう、が甘味好きとしての私の流儀だ」


「そ、そうなんだ……。じゃあ必要な分だけ買ってくるから。待っててね、雪華さん」


 若干引きつった笑みを浮かべ、飛路が踵を返して街へと歩いていった。その後ろ姿を雪華は航悠と見送る。


「さっそくパシられてら。いい男になるな、あいつは。……いや、もう十分いい男か」


「そうだな。こんな所にいるのがもったいないぐらいだ。街で恋人の一人や二人、すぐにできそうだな」


「さて、それはどうかな」


 意味深な笑みを浮かべ、航悠が薪割りへと戻っていく。雪華は自室に戻ると、まだ見ぬ土産を想像して鼻歌を歌った。



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