亡国解放軍の補給隊、暗躍する~SRPG世界への転生者は戦力外の2軍落ちメンバーで兵站したり破壊工作したりの人材リユースで功を成す~

カズサノスケ

第1話 その補給隊、襲撃を受ける

「俺達の為に荷造りまでしてもらって悪いな。手間賃として命は獲らねえでやる、それを置いてとっとと逃げるんだな!」


 農夫達が荷馬車に刈り取ったばかりの小麦の束を積み終えた様に見えた時。近くの林の茂みの奥から手に手に小剣やら手斧やらを持った一団が現れ、取り囲んでいた。


「断るっ!」


 一際小柄な農夫が怒気を込めて言い放った。ニタニタと笑っていた賊達の表情から途端にそれが失せた。皆々、顔を見合って首を傾げるばかり。


「何だとっ!? ガキ1人とジジイ2人の分際で俺達に逆らおうってか? そいつは随分と勇ましい、何ならうちの山賊団にでも入るかい?」


 一団を取り仕切っていた小頭が振り返って仲間達の顔を見回しながらそう言うと30人ばかりの賊達の間からどっと笑い声が上がった。


「仕方ないですね……」


 麦わら帽子を深く被っていた農夫の1人が帽子をつばを少し上げる。その下にはまだあどけなさの残る少年の、随分と困惑した顔が現れていた。


「考え直したようだな。ったく、最初から大人しく強い者に従っておきゃいんだよ」


 少年は小頭の物言いを無視して両脇に立っている老人の顔を仰ぎ見た。


「引退したところ悪いですがよろしいですか? オルグさん? バンゼルさん?」


「クーベル隊長、よろしいも何もここはやるしかないじゃろう?」


「うんむ。これは祖国解放の為の大事な兵糧じゃ、一束とも欠ける事無くルース殿下に届けねばなるまいて」


 2人はクーベル隊長と呼んだ少年を護る様に一歩前へ足を踏み出す。


「では、補給隊、これより迎撃戦を開始する!」


 クーベルがそう告げると賊達の間から再び笑い声。年端もいかぬ者が隊長で?老人2人を従えるだけの補給隊とやら?そんなものが自分達を迎え撃つなどとぬかしたのだから。


「残り少ない寿命が更に縮んじまうなぁ。まあ、くたばれやジジイ!」


 賊の1人が勢いよく手斧を振り上げクーベルの向かって右斜め前にいたオルグの脳天目掛けて振り下ろそうとしたその時。


、青銅の剣を我が手に」


 オルグの右手には鞘に収まった一振りの剣が握られていた。それはどこからともなく湧き出したかの如くである。


 その様子に驚いた賊は手斧を振り上げたまま一瞬動きを止めたものの、すぐに振り下ろしにかかる。


 1秒間にも満たないほどの僅かな時。オルグは手早く自身の左手前に剣を手繰り寄せ左手で勢いよく鞘を引き刀身を露わにする。横一閃、無防備な賊の腹部を斬り抜いていた。


 もう一方の老人、クーベルの向かって左斜め前に立つバンゼルも同じだった。いつの間にか両の手で握っていた青銅の槍で相手の胸板を貫いていた。


「な、なんだ? 何がどうなってやがるっ!?」


 丸腰だったはずの老人2人の手にはそれぞれ剣と槍が。しかも、2人ともただの一撃でしてのけた事に賊達はたじろんだ。


 オルグが一歩踏み込み刀身を軽やかにはためかせる毎に賊達は稲穂のごとく刈り取られていった。


 バンゼルが槍をしごいて恐るべき速さと正確さで穂先を繰り出す度に賊達は突き崩されていった。


 30人ばかりの賊達は、ただの農夫に見えた2人の老人に圧しに圧しまくられた。




 圧倒的多勢の賊と絶望的なほど無勢の補給隊による戦闘が始まってからほどなく、それは収まりつつあった。


「ぐっ、なんだこの化物ジジイどもは……」


「もういい、構うな! 逃げるぞ」


 既に賊の20名以上がその場に倒れ伏しもはや動かぬ身に変わり果てていた。


 それでいて2人の老人はけろりとしたものである。背を見せて逃れようとし始めた賊達へ猛然と追いすがる。


「オルグさん、バンゼルさん、そこまでにしましょう!」


 クーベルが呼び止める。振り返った2人とも実に怪訝そうな表情を顔に浮かべている。


「この様な賊を見逃すと? 捨て置けば近隣の町の人々が襲われるやもしませんぞ」


「オルグの申す通りじゃ。このまま2人で一掃できますぞい」


「そうですねぇ、最終的には処理するとしてここは逃がしてしまいましょうか」




 それから数時間ほど後。クーベル率いる補給隊はベルスティン公国騎士団が本拠地としているグルガ城へと帰還した。


「殿下、ただいま耕作地より戻りましてございます」 


 クーベルが跪き深く頭を垂れる相手はベルスティン公国のルース公子。年頃はクーベルと同じまだ少年である。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

「随分と遅かったじゃないか? 補給隊車から武具転送があった様だが、やはりそれと関係あるんだろうね?」   


「えぇ、ちょっと山賊団に襲われてしまいまして…」


「なんと!? この辺りに山賊が現れるなんて初耳だぞ」


 少々驚いた様子のルース公子はその脇に侍る白髪頭の者に目をやる。


 彼はルース公子の守役バスク将軍、【聖騎士】の称号を受けている現公国騎士団最上位の武人でもある。


「しかしながら、我が【従騎士】……、いや、従騎士であったオルグとバンゼルによって既に型は付いた。クーベル卿、そういう事ですな?」  


 こくりと頷いたクーベルは事の次第を詳細に報告し始めた。


 逃げ出した山賊たちを敢えて見逃し、一定の距離を空けて密かに追跡。その根拠地を強襲し山賊団を一掃したのだと。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   

             ◇


 僕が大好きだったSRPGらしき異世界に転生していたのだと気付いたのは3年前の事。


 これも奇妙な縁とでも言うのか?初めてそれをプレイしたのと同じく13歳の時だった。


 ブリュンドル大陸全土を支配下に置こうとしたエルドバ帝国に滅ぼされたベルスティン公国。その遺児たるルース公子は大陸より南方にある小さな島国に落ち延び祖国解放を目指して戦う。


 そんな王道ストーリーのSRPG世界で僕が転生していたのは公国に仕えるコルト伯爵の嫡子でクーベル。一応、ルース公子とは幼馴染みの様な間柄でもあるらしい。


 ゲームの設定にこんな人達いたっけ?後から出版された公式ファンブックには載ってたっけ?と、記憶は定かじゃないけど代々内政を預かる文官の家柄なんだとか。


 10歳の時に祖国滅亡で公王も僕の父上も戦死。ルース公子と共にこのキルト島へ落ち延び、公王家と縁のあった統治国家のキルト王国の庇護を受けて育った。


 そして、16歳となった今はコルト家が代々その任に就く事になった【補給隊】の隊長を拝命している。


 それはSRPGに確かに登場したものではあるが、姿だった。


 戦場マップでは騎兵系ユニットが機動力を活かして突き進み、剣士系ユニットは必殺の斬撃を繰り出し、魔導師系ユニットが広範囲に火球の雨を見舞う。


 その様にして華々しく敵軍のユニットを薙ぎ払っていく自軍ユニット達とは全く違う。


 何せ姿…、その役割はRPGならばアイテム袋でしかなかったのだから。


「なんか……、微妙……」


 最初はその様に思ったものだが補給隊の務めなるを知るに連れてとんでもない思い違いをしていた事に気付かされた。


 SRPGとしてプレイしていた時は全く気付かなかった、なくしてルース公子の戦いは成立しない。


 そして、SRPGの時に使としてが補給隊にとっては貴重な人員、戦力となり騎士団を陰から支えるのだから。

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