第7話 水泳について①

 私が住んでいたところは、所謂いわゆる「港町」。生家は海から車で5分かからないくらいのところにありました。


 とは言え、どこででも泳いでいいわけではなく、海水浴場は陸続きの島の砂浜まで行かなければなかったのですが。(ここは車で10分以上はかかったと思います)。



 泳ぎを一番最初に覚えたのは、幼稚園の年長さんの時。


 いつもの海水浴場に、父の従弟に連れて行って貰った時でした。

 従弟おじは、私に、顔をつけて浮けるか聞いてきます。海の中にザブッと座って潜れるくらいなので、「そんなん簡単やわ」と言って浮く私。すると、今度は、片手ずつ漕ぐようにしてみろと手本を見せます。私はその通りに真似をしました。

「ほら、泳げた」

「うわ〜! やった〜!」


 これが、人生で初めて、浮き輪無しで泳げた瞬間でした。


 幼稚園最後のプールの日、「卒業試験」(笑)がありました。

 小さい子用のプールの長い方を、泳ぎ切るのです。

 浮き輪をつけて(笑)。

 私も勿論浮き輪は持って行っていましたが、ふとプールサイドを見ると震えて座っている子が一人。ゆうじくん(仮名)でした。どうやら彼は浮き輪を忘れてきたようなのですが、先生に言えずにいたのです。

 私は、すっくと立ちあがると、ゆうじくんのところへ行き、

「ゆうじくん、これ、使っていいよ」

 と、手渡しました。

 そして、浮き輪なしで全部泳ぎきった!! カッコいい〜!!

 いや、ちょいちょい足をついて息をしました。息継ぎを習ってないことなど頭になかった年長さんの「ひーちゃん」なのでした(笑)。 



 小学校に上がり、無事、息継ぎも覚えた私は、1年生にして25mを泳ぎ切るようになります。


 小学校3年生の時には、近くの島の子と一緒に、海に飛び込んで泳ぐようになりました。


 4年生の時には、父にゴムボートに乗せられて、結構沖まで連れて行かれ、ボートから落とされて、

「ほら、陸まで泳いでいけ!」

 鬼か。


 そして、5年生の時には、知らないうちに、「水泳記録会」という、学校の少年クラブのようなところへ、親に勝手に登録されてしまっておりました。

 泳ぐのは好きだったので、苦にはならないだろう……と思っていたら甘かった。放課後2時間、ずっと泳ぎ続けるのです。夏休みは一日中。スリムにはなりましたが、全身筋肉(笑)。

 

 最初の年は「平泳ぎ」を専門にしていましたが、母の「クロールの方がカッコええのに」の一言で、翌年、クロールに転向。


 すると、不都合なことが起こりました。どんなに練習しても、「クィックターン」(クロールの場合は『フリップターン』というのですがわかりにくいので統一します)ができないのです。水中でクルッと回転して壁を蹴るターンのことです。これができない。いや、正確に言えば、物凄くゆっくりやればできるのです。理屈がわかってないわけではない。ただ、クィックターンをゆっくりやってどうする? と。

 どうやら、私は、頭の位置が急に変わると目眩を起こすという、厄介な体質だったようで(今もそうで、昔より酷い)、クィックターンをした時に、目眩を起こすのです。これは、ヤバい。


 で、普通のターンしかできませんでした。普通のターンしかできないと、向こうの端まで行って、手でタッチしてから、振り返ってまた潜って壁を蹴るので、ターンに時間が掛かって、タイムが物凄く遅くなってしまいます。大会に出ても上位に食い込んだこともなければ、リレーでは、皆に怒られることこの上ない。

 なんでクロールなんかに変えたんだろう……。母の「カッコいいもの好き」の性格は、とても私を苦しめました。


 それでも、泳ぐこと自体は好きなんですよ。クロールも、ターンのことさえ考えなければ、1kmとか平気で泳ぐ。

 もう何も考えてないです。ゴーグルの向こうに見える水の色、それだけを見ながら、ひたすら泳ぐ。

 メニューが終わり、皆が上がり始めて、ああ終わりか。と気付いて陸に上がったときの、我が身の重さよ! そして、このフラフラ感よ! ……病みつきです(変態?)。


 

 中学時代は水泳部がなく、高校生になってから入った水泳部は、物凄くゆる〜い弱小部。それでも自分なりにメニューを決めて1.5kmは泳いでたんですけどね。

 中学時代に水泳ができなかったのと、クィックターンができないのとで、タイムは酷いものでした。フォームは、OBの強い先輩が来た時に直してくれたんですけど、

「緋雪さあ、お前、フォームだけは凄い綺麗なのな。なんでそれでタイム出ないかなあ……」

 と、残念がられておりました(笑)。


 高校生を卒業してからも、機会があるごとに市民プールに泳ぎに行っていました。

 実家にいたときは、海でもプールでも、よく泳ぎました。 



 今住んでいる所は、北海道の内陸です。海はないし、あっても泳げる温度ではない(考えただけで寒い)。温水プールはあるけれど、大人が誰も泳いでなくて、行きづらい。


 そんなわけで、泳ぐの大好き緋雪さんは、水の感覚が恋しくて、時々お風呂で潜るのでした(笑)。

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