クイーン・オブ・魔法少女 〜いや俺、男なんですが!?〜
赤金武蔵
第1章 魔法少女の誕生
第1話 消し飛んだ日常
『昨晩、西東京に現れた異世界の生物「魔物」は、魔法少女・リーリカさんの手によって倒され、街に平穏が戻りました。現在は修復専門の魔法少女が街の復旧に尽力しており……』
テレビから流れてくるニュースに耳を傾けつつ、味噌の香りが心地いい味噌汁をすする。
最近は『魔物』 の数が増えて大変だなぁ。魔法少女も引っ張りだこだ。
現場の中継が終わり、局のアナウンサーやコメンテーターの映像に切り替わる。
『我々の日常に、異世界からの魔物や、それを倒す超常の力を持つ魔法少女が現れ200年余り。世はまさに、「大魔法少女時代」と呼ばれ……』
「はは、大魔法少女時代か」
まあ確かに、そう言われて久しいな。
13歳から18歳までの間の少女。その中の才能のある生娘のみ、ある日魔法少女としての能力が開花する。
何故少女だけなのか。様々な憶測はあるけど、俺にはよくわからない。
まあ、俺とは縁遠い世界の話だ。俺は俺で、今を精一杯生きる日常があるわけだし。
「けど……いいなぁ、魔法少女」
俺も女の子だったら、魔法少女になれる可能性が少しあったのかも。
……なんて、たらればを言っても仕方ないか。
食器を片付け、明日提出する宿題をそこそこに、ベッドに潜り込む。
「んじゃ、おやす──」
────
──────
────────ん……ぁれ……? なんだ……? 体が思うように、動かない……。
腕に力を入れ、起き上がる。
ぐっ……い、痛い……え、俺、今痛みを感じてるのか……?
意識が朦朧とする。頭が回らない。
くらくらする頭を押さえると……ぬるっ。何か気持ち悪いものを触った。
「……ぇ……血……?」
これ、まさか……俺の?
え、なんで……なっ……!?
「なん、だよ……これ」
周りを見て、ようやく気付いた。
外だ。いや、正確に言えば、さっきまで生活していたアパートが崩れ、外に放り出されたのだ。
意味がわからない。何が起こって……?
──ゾクッ。
な、なんだ、この寒気……いや、悪寒? 全身を包み込むこれは、今まで感じたことがない。
見られてる……何に、見られている気がする。
喉の奥にへばりつく唾液を飲み込み、見上げると……一つ目の、化け物がいた。
地球上の生物とは一線を画する巨体。ヌルヌルとした表皮。形状を保っていない体。無数の触手。
こいつは、地球上の生物じゃない。
前触れもなく、異世界からやって来た化け物……魔物。『スライム』だ。
アニメやゲームでは、雑魚モンスターとして名高いスライムだが……とんでもない。リアルで見るこいつは、とんでもない化け物だ。
体が震え、呼吸が浅くなる。
ダメだ、体が言うことを聞かない。
逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げなきゃ。逃げ……。
「だ……誰か……助け……!」
スライムの巨体がわななき、触手が蠢きながら高速で迫る。
あぁ、ダメだ。死──
「大丈夫か、少年」
「──……え……?」
あ、あれ? 俺、生きて……る?
ゆっくり目を開けて、声のした方を見上げると……純白の天使が、そこにいた。
白いドレス……いや、鎧ドレスに身を包み、身の丈以上の巨大な剣を担いだ、超常の力を持つ少女……魔法少女。
しかもこの人は、さっきテレビでも見た、最近話題の子。
可愛すぎる魔法少女として名高い……リリーカだった。
リリーカは大剣の腹で触手を阻み、心配そうな顔でこっちを振り返る。
「ぁ……えと……」
「怪我、しているな。アレを倒したら治療するから、少し待っていてくれ」
リリーカがスライムに対峙すると、黄金の髪が弧を描く。
突然、彼女の体が発光し、何かが迸って暴風が体を叩いた。
刃のように鋭い風が、帯となって俺を包み込む。
「ふっ……!」
大剣を弾くように横に凪ぐ。たったそれだけで、スライムの巨体が傾いた。
背中から生える光の翼を大きく羽ばたかせ、上昇。
一瞬でスライムより高い位置まで飛び、次の瞬間──。
「ハッ!!」
急降下と同時に、スライムを一刀両断。倒したのか、スライムは黒いモヤとなって消え去った。
「……すげ……」
何が凄いかは言えない。
でも、これが……これこそが魔法少女なのだと、理解させられた。
光る体をひるがえし、地面に降り立つリリーカ。まるで、本物の天使のようで……。
俺の記憶は、ここまでしかなかった。安心からか、意識を手放したから。
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