「変わっちゃったママは戻らない」
彗ちゃんが彗ちゃんのお母さんの異変に気がついたのは2年前からだったといいます。
彗ちゃんの両親が離婚して半年経ったころでした。
彗ちゃんのお母さんが夜頻繁に出かけるようになったのです。夜勤だと言って出ていくお母さんの仕事にしてはやけに露出の多い服装に薄々勘づいたようでした。
「それで私言ったの。ママ、再婚してもいいんじゃないって」
それを言うとお母さんは別人のように怒り狂ったといいます。
「簡単に言わないでってすごい怖かったんだよ、確かに私の言い方も悪いけどね」
ようやく彗ちゃんはパイをひとくち頬張りました。どんなときでも美味しそうに食べる横顔が可愛らしくて、見つめ過ぎそうになるのでわたしも続けてひとくち頬張りました。
「変わっちゃったママは戻らない。まー仕方ないよね、大好きだったパパと離婚しちゃって半年寂しかったんだよ。ママの中で色々あったんだねー。気づいてあげられなかった」
彗ちゃんはちょっとだけうつむいて言いました。
「彗ちゃんのせいじゃない」
前の彗ちゃんの瞳のほうがきれいだったと思いました。
「まあでも私に当たらないでほしいよね、傷隠して学校行くの大変だったんだから」
「…え」
わたしの頭にすぐ時々朝ニュースで見かける漢字2文字がよぎりました。
彗ちゃんともう目を合わせられなくなりました。次の会話の言葉が見つかりません。
「今はもうへーき」
「…ごめん」
「え?」
「ごめんね」
生ぬるい液体がわたしの頬を伝ってカーペットにシミができました。
「ちょっと、何泣いてるの」
「ひとりで、つらい思いさせてごめん…」
そのとき、明るい笑顔をずっと保ってきた彗ちゃんの表情が歪みはじめました。
彗ちゃんの泣き顔を見るのはこの日が始めてでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます