そのスライム、無敵につき~『永遠のLv.1』とゴミ扱いされる貧乏社畜、Sランクモンスターから人気配信者を助ける。敵?追ってきませんよ、ワンパンしたので~
第63話 Lv.1密着!トラブルだらけのお仕事
第63話 Lv.1密着!トラブルだらけのお仕事
「「――ぎゃあああああぁぁぁっ!!」」
大宮北ダンジョン第10階層にて二人の冒険者の絶叫が木霊した。
戦うということを投げ出し、全速力で逃げ惑う。
そしてその二人を全力で追ってくるのは……猪のような見た目をしたオーク種。Bランクモンスターのオーク・ボア。
突進だけの単純な攻撃方法しかない彼らだが……今追いかけているその数は実に20体以上。
「おーい、二人とも。逃げてるだけじゃなくてちゃんと仕留めなきゃ」
「「む、無理ぃぃぃいいいっ!!」」
その中でも唯一落ち着いてる男――壱郎は逃げつつも、目に止まらぬ速さでオーク・ボアを仕留めていく。
「ひぃいっ、ひぃいっ!!」
中でも涙目になっているのは相馬力。かなり情けない声を上げながら全速力で相手から逃げ惑う。
「……どうして」
そして、唯一ツッコミ役であろうユウキが精いっぱいの声量で二人にツッコミを入れた。
「どうしてこうなっちゃうのさ、このおバカ二人組ぃぃぃぃぃっ!!」
***
「ごめん、風邪ひいたわ」
「「…………」」
事の発端は昨日。
7月も終わりかけの時期、エリィがにこやかに宣言してきたことから始まった。
「いやー、こんなこともあるもんだね。7月に風邪って」
ハハハッと笑い出すエリィだが、対する壱郎とユウキはなんとも言えない表情をしている。
「いや……こんなこともあるっていうか……」
「絶対アレが原因じゃん……エリィちゃんが大雨の中、『拠点までダッシュだ!』なんて言ってきたやつ……」
蘇る真新しい記憶に、彼女はニコニコと笑みを浮かべるのみ。
冒険者エリィ。嫌いなことは傘を差すこと。
「……仕方ない。エリィさんの看病はこっちでするよ」
なんてため息交じりに言い出したのは百合葉。
「私もちょうど夏休みに入ったし、編集作業が溜まってるからね」
「いや、百合葉だけに看病を任せるってのは悪いよ。俺も何日か付き添うって」
「えっ……どうしたのお兄。そんなに愛する妹の身体が心配なの? それとも私と共同作業がしたいの? なんなら私たち、結婚する?」
「心配なのはエリィの方な? あとお前の思考回路」
自分の妹ながらぶっとんだ思考回路に、普段ツッコミ役に回らない壱郎がツッコミを入れる。
「私なら大丈夫だよ、壱郎くん。こんなのすぐ治るから」
「いやでも」
「そんなことより、お仕事の方は二人に任せたよ。私が休んだら、頑張らなくちゃいけないのは二人なんだからっ」
「それは……まあ……」
三人はフリーランスの冒険配信者。例え病欠になろうと、働かなければ給料なんてものは発生しない。
「まあ本当に心配しなくていいよお兄、あとユウキさんも。二人はいつも通り、クエスト受けてきて」
「まあ……百合葉ちゃんが看てくれるなら任せてもいいかな」
「うん、しばらく安静にさせるから。五日間くらい」
「……五日?」
妙な数字に壱郎は首を捻る。
エリィが患ったのはただの夏風邪。数日は安静にするのはわかるが……彼女の提示した日にちに若干違和感を覚えたのだ。
「えぇ~? そんなん悪いよ百合葉ちゃん~五日間も休むなんて~……えへへぇっ。あっ、でもでも、配信活動はしばらくお休みツイートしなくっちゃ! 待たせてるファンには悪いし、もしかしたら話題になっちゃうかもだし? ほら、普段元気な人が病気になると、途端に心配しに来る層もいるわけじゃん? これ機に、今までの配信を観てくれたらいいな~なんてぇ」
――もしかしてエリィちゃん……バズりたいが為に風邪ひいたんじゃ……?
全く困ってなさそうなエリィの態度を見てユウキは冷や汗を流す。
もちろん全部が全部そういうわけではないだろうが……彼女は配信活動に熱心すぎる一面を持つ。
この病欠でさえ配信活動の一環として狙うなんてこと、エリィならあり得なくもないのが恐ろしいところだ。
「……そうだね」
風邪をひいてるというのに随分元気そうなエリィを見て、百合葉の目がすっと細くなる。
「そんなに悪いと思うなら、私の仕事を手伝ってもらおうかな」
「うんうん、任せてよ! なんせ五日間も――んん? 手伝う?」
微妙に風向きが変わったことを感じ……エリィが首を捻った。
「うん。私が期末試験の間、溜まりに溜まった編集作業が残ってるんだ」
「…………」
「安静をとって五日間だったんだけど……そこまで働きたがるエリィさんのために、仕事わけてあげる」
「…………」
「大丈夫、全部簡単な作業しか投げないから。それだけで本当、助かるんだ」
「――あっ!? 風邪治った! 治ったかも!」
『動画編集』というワードを聞いた瞬間、エリィの表情は一変。慌てたように手を挙げ始める。
「こりゃ現場復帰秒読み待ったなしだ! じゃあ、百合葉ちゃんには悪いけど、私もクエストに――」
「まあまあまあ、そんなこと言わずに。ファンに心配、かけさせたくないんでしょう?」
「い、嫌だぁっ! 動画編集するくらいなら、熱出してでもダンジョン挑む!」
「……だそうだけど。お兄はどう思う?」
「いや、安静にしてなきゃダメだろ」
「壱郎くぅん!?」
常識的判断をする壱郎に、エリィが絶叫をあげる。
そして縋るようにしてユウキへ目線を移した。
「あー……」
ユウキはちらりと百合葉を見て、やがて視線をエリィに戻す。
「まぁ、お仕事の方は任せてよエリィちゃん。夏風邪でも安静にしてなくちゃね」
「――! う、う、裏切ったね! 自分も巻き込まれるかもしれないって感じて、裏切ったね!?」
「ハッハッハ、まさかまさか。僕はただ、エリィちゃんに無理してほしくないだけさ」
一応動画編集の大変さは知っているユウキは、全力で百合葉から目を逸らしていた。
そうでもしないと、矛先が自分に向きそうだったからだ。
「じゃ、行こっか壱郎。フリーランスなんだから今日も働かなくっちゃ」
「そうだな。エリィもお大事に」
「ま、待って! 二人とも置いてかないで!」
「本当に助かったよエリィさん、このタイミングで風邪ひいてくれて。さあ私と一緒に終わらない作業を始めよっか……終わるまで寝かさないよ」
「い、いやぁ! 病人に言っちゃいけないこと言ってるぅ! ちょっ、まっ、助け――!」
悲鳴のようなエリィの叫び声は、二人が外へ出ると同時に掻き消される。
「さて……と。壱郎、大宮行こっか」
「そうだな」
埼玉県のクエスト受注と言えば、県内最大のターミナル大宮駅。近辺に四つのダンジョンを持ち、常にクエストが張られている。市からの依頼だけではなく、個人依頼のクエストもかなりあるのが大宮駅の特徴だ。
壱郎たちは集客率やクエスト内容の多彩さもあり、この大宮を頻繁的に利用している。
「あ、そうだ。ついでにさ、一人誘ってもいいか? 一緒に仕事したい人がいるんだ」
「? 僕は構わないけど……珍しいね、壱郎が人を誘いたいだなんて。どんな人?」
「ユウキも知ってる人だよ」
そう言うと、彼はどこかへ電話を掛け始めた。
「……あ、もしもし? 今日大宮でクエスト受けるんだが、一緒にどうかな――相馬さん」
***
そして今に至る。
「もう、バカバカ! なんで考えなしにオーク・ボアの群れを強襲しちゃったのさ!?」
「いや、二人がもっと強くなりたいって言ってたから。俺も部位だけ残して倒す修行になるからいいかなと思って」
「加減を知ろうよ!? 強くなる前に潰れちゃうよ!?」
「大丈夫大丈夫。残り8体だから」
「いや、一桁でも8は十分多いからね!?」
「ひぃっ、ひぃいっ……!」
「で、相場さんはなんでヒィヒィ言ってるの!? 君も壱郎と一緒に突っ込んでいったよね!?」
「こうなるだなんて……こうなるだなんて、全然わかんなかった……!」
「あっ、バカなんだね!? 単純思考のバカなんだね!!?」
あまり声を荒げないユウキが、珍しく暴言を吐いていた。
だが、これだけ文句を言っていてもオーク・ボアに追われている事実は変わりない。
死体を残しつつ相馬にバレないような攻撃をしている壱郎のスピードでは、ユウキたちの体力が尽きてしまう――諦めかけた、その時だった。
「――伏せてっ!」
どこからともなく聞こえてきた言葉。
考えるより体が反応し、ユウキは相馬の首を掴んで同時に頭を下げさせた。
「【
瞬間――二人の頭上に衝撃波のようなものが掠めていく。
「……おっ?」
小さな影がオーク・ボアたちの前に飛び出してくると、日本刀を一瞬で納刀。そして――
「――【
一閃。
目にも止まらぬ居合が放たれた。
「よっ、と」
――【伸縮】+【衝撃波】!
壱郎は残りの2体を同時に攻撃し、戦闘を終わらせる。
戦闘が終わると、突然の助っ人はくるりと振り返ってきた。
「はぁ……大丈夫ですか?」
「あぁ、助かった。手助けしてくれてありがと――」
「いえ、そうではなく」
紺と水色を基調としたダンジョン用警官服。
なのにエリィや以前会ったシャドーと変わらぬ背丈と、まだあどけなさを残している童顔。黒髪を肩まで伸ばし、桜の髪飾りをしている少女。
「群れに突っ込むなんて無謀な選択肢を取る、あなたたちの頭が大丈夫ですか――と言ってるんです」
日本刀を鞘に納め、凍えるような青い瞳で壱郎たちを見てきていた。
――あれ、この子……どこかで見たことあるような……?
ふと壱郎が首を捻る。
最近で警察と会った記憶は秩父ダンジョン。因縁の元上司の黒崎を引き渡した時……。
「……っ! 桜の髪飾りに日本刀……間違いない……!」
とユウキが目を見開く。
「壱郎、この子『桜斬り』だよ!」
「『桜斬り』?」
「秋葉原ダンジョンソロ踏破し、15歳の時にダンジョン特務課からスカウトされた伝説の!」
「……!」
ユウキの言葉に壱郎は彼女を見る。
【斎藤
「き、君……」
壱郎はおそるおそる桜剣士の少女に声をかけた。
「もしかして――斉藤サイトの妹か!?」
「は? ……私に兄弟なんていませんが?」
まったくもって的外れな壱郎の意見に、少女――雪音は怪訝な表情をした。
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