そのスライム、無敵につき~『永遠のLv.1』とゴミ扱いされる貧乏社畜、Sランクモンスターから人気配信者を助ける。敵?追ってきませんよ、ワンパンしたので~
第39話 Lv.1と開かずの(ってことにしておいた)扉
第39話 Lv.1と開かずの(ってことにしておいた)扉
「……むむっ。むむむっ」
数時間後。
ダンジョンを順に踏破していきつつ、課せられたクエストをこなしていたエリィは、ここまでの戦闘を振り返って一つの結論に至った。
「強くなってるね、確かに。強くなりすぎてる」
エリィの一言に、ユウキもうんうんと頷く。
秩父ダンジョンは推奨Lv.45の中難易度ダンジョン。例え壱郎が戦闘に加わってないとしても、場数を踏んでるエリィとユウキのペアならそれほど苦労しないはず。
だというのに、モンスター討伐までのタイム予想より大幅に遅れている。
理由は何故か――その答えは単純。生息してるモンスターの強さが跳ね上がっているからだ。
:確かに強かったな
:コボルトがあんな硬いわけがない
:キラーアントの凶暴性増しててこわかった
:エリィの30%インパクトを受けて生きてるとか、絶対Cランクモンスターじゃねぇわ
今まで戦闘を観ていたリスナーたちにもモンスターの異常な強さが伝わったようで、それぞれコメントをしている。
「エリィさん。今日やる予定のクエストがあと3つくらい残ってるけど……どうする?」
「あー……」
チラリとドローンカメラに表記された時計を見る。
午後5時近く。できないことはないが……スケジュールも押してるのも事実だ。
「うーん……今すぐやらなくちゃいけないってものはないからいいかな。明日に回しちゃおっか」
「ん、いいのか?」
「配信者の掟! リスナーが求めている展開を早めに見せるべし! いい時間帯だし、『開かずの扉』へ向かっちゃおう。みんなもそれを期待してるんだし」
「ん、そうだな」
これはただの冒険者業ではない、エンタメという仕事。ならば、エリィの助言に従った方がいいだろう。
「ところで、前々から気になってたことがあるんだけどさ……なんでクエストのタイトルってこんなんばっかなんだ?」
と壱郎はスマホの画面を開き、クエストのタイトルを見つめる。
『ゴブリン騎士軍団、前進中』
『荒れ狂うシルクに要注意』
『巨大蜘蛛は宙を浮く』
『スライム・ラッシュ・ラッシュ!』
「あぁー……クエスト依頼の時、誰かが始めた遊びだね。なんかのゲームっぽいクエスト名にして、気になるタイトルが受けてもらいやすいだとかなんとか……私も詳しくは知らないんだけど、毎年クエスト名ランキングっていうのが掲載されてるらしいよ」
「そうなんだ……」
モンスターという危険生物に怯えたり、クエスト名で遊んだり。
人間というのはよくわからないな――と、同じ人間ながら壱郎は遠い目をした。
というわけで、本日のクエストは終了。
引き続き、秩父ダンジョンの謎を解き明かすためダンジョン攻略を進める。
「第8階層……ん、ここだ」
階段を降りると……事前に調べた情報の通り、その扉はあった。
目の前に広がるのは5m以上ある巨大な壁。その壁の中に、人の背丈くらいの扉が埋め込まれていた。
なにか模様や文字など一切書かれてない青銅の扉は、逆に不気味さを醸し出している。
「これが『開かずの扉』……!」
「なんか普通の扉っぽいな」
――ちょっと試してみるか。
「二人とも、ちょっと離れてて」
エリィの呼び掛けに壱郎とユウキは扉から離れる。
「すぅ……はぁ……んっ!」
――出力100%、フルパワー!
「【インパクト】っ!!」
エリィはありったけの力を込め、扉に向かって大剣を振りかぶった。
衝撃によって、フロア全体に轟音が鳴り響く。
:ぎゃああああああああああ
:耳がぁぁぁあああああ
:鼓膜がぁぁぁぁぁあああああ!
:※音量注意
:びっくりした
:鼓膜また取り替えなきゃ…
:鼓膜破壊助かる
「あっ……みんな、ごめん」
配信中だったことを思い出し、エリィはリスナーたちに頭を下げる。
が……扉は全くの無傷。どこも凹んですらいない。
「やっぱダメかぁ……絶対ここに何かありそうなのになぁ……」
「そうだな、もうちょい調べてみようぜユウキ……ユウキ?」
「う、うぅ……今の音で酔った……」
「……ほんとごめん」
待つこと数分後。ユウキが回復したところで、三人は扉を調べ始めた。
「どこにも鍵穴がない……」
「暗号も……ないねぇ」
「別の抜け道とか……あるわけないよな」
つまり、まったくの手がかりなし。四方八方塞がりである。
――これ、ちょっとでも動かせないのかな?
二人が壁を隈なく調べ始めている中、壱郎はガントレットを外して扉の下に手を入れる。
――【液状化】+【粘着】。
ぐにゃりと変形させ固定し、手に力を入れてみる。
ズズッ……!
「おぁっ……」
瞬間、何かを察した壱郎は慌てて手を引っこ抜く。
そしてチラリと横を見てみると……。
「「…………」」
しゃがみ込んでる壱郎の姿を二人は凝視していた。
時すでに遅し。ばっちり見られていたようだ。
:今動かなかった?
:動いた!?
:開け方きちゃ!?
:動いた!
:山田ぁ!またお前かぁ!?
変形した手は見られなかったものの……扉が少し動いた様子はリスナーたちも気が付いたようで、コメント欄が騒がしくなる。
「壱郎くん? ねぇ壱郎くん?」
「ち、違う違うっ。気のせいだよ、気のせい。『開かずの扉』なんて名前のものが、そう簡単に開くわけないじゃないか」
――割と簡単に持ち上がりそうだったけど。
慌てて拒否する壱郎の近くに……今の余韻か、天井からパラパラと壁の欠片らしきものが落ちてきた。
説得力が全くない画である。
「これ以上は手がかりなさそうだし……今日は戻らないか?」
「……なーんか動揺してない?」
「動揺? してないしてない」
ぶるんぶるんと勢いよく首を横に振る彼をエリィは疑い深そうな目で見るが……やがて小さなため息をついた。
「まあ確かに今から戻るのに時間かかるし……今日はこの辺にしておこうか」
そう言ってチラリと同時接続者数を見る。
――2.5万人……うんうん、いい調子でみんな見てくれてる。
金曜日の夕方になったので、仕事終わりの社会人たちも見てくれているのだろう。
ここからもう少し伸びることを期待しつつ、エリィたちは本日のダンジョン攻略を引き上げることにした。
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