第41話 クラス委員
俺は自分の席に座っていて、すぐ横に空とあかりちゃんが立っている。
ふたりの注目度は高い。
男子も女子もみんな、その美しさを無視できない。男子生徒は彼女たちの外見だけで好きになってしまっても不思議ではない。
その上、空には清冽で上品なオーラがあり、あかりちゃんには明るくて華やかな雰囲気がある。
ふたりが注目されるのは自然なことだ。しかし、一緒にいる俺まで視線を浴びるのは、困ったものだ。
中島は驚愕と羨望の入り混じった目を俺に向けている。
浅香さん、天乃さんと幼馴染なんて羨ましすぎる。卑怯だろ、とその顔は言っている。
ふたりとも隣の家に住んでいるんだよなあ。
そんなことを伝えたら、中島は理不尽だと怒り出すかもしれない。
担任教師が教室に入ってきた。
1年のときから数学を教わっている小川先生だった。穏やかで常識的だが、面白味に欠けるという印象がある。
ロングホームルームが始まった。
小川先生はクラスメイト全員の名を呼んで顔を確認し、2年A組の時間割表を配った。そして「クラス委員を決めたいんだが、立候補はいないか?」と言った。
誰も手を挙げない。
「じゃあ推薦でもいい」
誰も発言しない。当然だ。やりたい人がいないのに、押しつけるようなことを言えるはずがない。
「困ったな。男女1名ずつ選ばなくちゃならないんだよ」と先生はつぶやき、クラスメイトを眺めた。
みんなうつむいている。
俺は内心で、指名されませんように、と願っていた。
担任教師がクラス委員を指名する場合、成績がよく、素行が悪くない生徒を選ぶ傾向がある。
俺は成績上位で、教師に反抗したりはしない性格だ。
小川先生の目が俺を見つめて止まった。
「男子は森川、女子は浅香でどうだろう? 引き受けてくれないか?」
空も成績がいい。もちろん素行も良好だ。
俺は困惑した。やりたくないが、ことわるのは苦手だ。
空が俺の方をうかがってきた。目が合う。俺は苦笑し、彼女は微笑んでいた。空は引き受けてもいいと思っているのだろうか。
「森川、浅香、どうだ?」と先生が重ねて言ったとき、あかりちゃんが挙手した。
「先生、立候補します」
彼女がそう言うと、教室内が微かにざわめいた。
A組の注目の人物、空とあかりちゃんがクラス委員候補になった。教室の空気がピンと張りつめる。
「そうか。立候補者を優先したいが」と先生が言う。
すかさず空が「わたしも立候補します」と言った。
彼女たちは対立候補になってしまった。
なんでふたりともクラス委員なんてやりたいの?
「女子の立候補がふたりになったか。男子は誰かいないか?」
みんな沈黙している。
「森川、頼む」
先生がそう言ったとき、空とあかりちゃんは俺をじっと見ていた。
あの子たち、俺がことわったらどうするつもりなのだろう?
まさかとは思うが、立候補を取り下げるとか?
俺は逃げられないと思った。空とあかりちゃんが立候補した。彼女たちのどちらかがクラス委員になる。俺だけ下りるわけにはいかない。
「はい。引き受けます」と答えた。
「ありがとう。よろしく頼む。女子の委員だが、ふたりで話し合って決めるか、それとも選挙をするか?」
「話し合いでは決まらないと思いますよ?」とあかりちゃんが言った。
そうかもしれない。
空とあかりちゃんの仲は悪い。
譲り合いとかしなさそうだ。
しかし選挙なんて、人気投票のようなものだ。
男子の人気は二分されそうだが、女子の人気は社交性のあるあかりちゃんに分がありそうだ。
空もそう思ったのだろう。
「じゃんけんで」と言った。
「じゃんけんなんて、ただの運勝負じゃない? より人望がある方がやるべきよ」
「このクラスにはあなたの友だちが何人かいるわね」
「それがなにか?」
「選挙で有利」
「浅香には友だちはいないの?」
「このクラスでは冬樹だけ」
空の発言で、教室がまたざわめいた。
俺の名前をみんなの前で呼び捨てにするのはやめてくれ。
「そう。じゃあ一歩譲ってあげる。男子のクラス委員のふゆっちに決めてもらいましょうよ」
俺のあだ名をみんなの前で……。
って、俺が決めるのかよ。
クラスメイト全員が俺を見た。
空とあかりちゃん以上に、俺が注目の的になった。
ええ~っ? どうすればいいの?
ふたりの幼馴染が俺を強烈に見つめている。
選べるわけないだろ。
「じゃんけんをしてください」と俺は言った。
ふたりはじゃんけんをし、あかりちゃんが勝った。
「やったーっ」と彼女は言い、空はがくりと席に座った。
男子生徒たちの視線が痛かった。
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