第22怪

 女たちは屋敷の客間に通された。花は帰ってきた京也に問い詰める。


「京也さん、どういうこと!? あの人たちは誰なのよ!」


 京也は面倒そうな顔をし、無視をする。詰め寄る花を遮るように赤坂の人間が京也を囲み、花を見て笑う。


「私のせい? 京子を強い子に産めなかったから。だから別の女に?」


 女は京也の通うキャバクラの譲だった。長い付き合いらしく、女の子の年齢は京子より一つ歳上だった。花は裏切られた気持ちで一杯だった。あの女たちが屋敷で認められたのは娘のルルカが霊を視れ、多少の霊能力が使えたからだ。霊能力が使えない京子と使えるルルカは常に比較される。


「大丈夫よ京子。大きくなればあなたにも霊能力が使えるから」


 しかし、そんなことは無かった。大きくなるに連れ人々の目は厳しくなり、ルルカは輝きを増す一方だった。そしてついに壊れた。






 夜、屋敷中を走り回る。母である花から逃げる為に京子は走った。


「お母さん……」


 人目のつかない納屋で父と母は会っていたようだ。京子はルルカと共に蝶を追いかけていて見つけてしまった。


「京也さん、どうしてなの……どうして私と京子を見てくれないの? それにあの子だって、京子より一つ歳上で。京子が産まれる前から不倫してたってことよね。何でなの!?」


「お前とはただの遊びだったんだよ、結婚しちまえば財産は俺のもの。不要になれば呪殺する。証拠も残らないからな。そうすれば全部俺のものだ」


 ルルカと京子は自分たちの父親の悪魔みたいな本性を知った。そして事件は起こる。母が後ろに隠していた包丁を父に突き刺した。今まで大人しかった母が反撃すると思わなかったのか、父はされるがまま包丁を数回突きつけられた。ハッとしたとき、ルルカは居なかった。母は京子に気付き、言った。


「京子……今度こそ三人で幸せになりましょう。生まれ変わって、幸せになりましょう」


 母は京子にも包丁を向けた。京子はその場から無我夢中で逃げ出し、屋敷中を走り回った。もう無理だと思ったとき、ルルカが屋敷の裏から手招きした。


「こっちよ! 京子」


 ルルカの背後には京也の弟、つまり京子たちの叔父であるかおるが物陰で銃を構えて待っていた。ルルカの方へ駆け出していく。母もそれについてきたが薫に気付いていない。やっと辿り着き、ルルカに抱きつくと背後からバンっと銃声がした。


「振り返るなよ、ガキ共」


 その日、京子は両親を亡くした。






「その後私は祖父母に引き取られ、今ここにいます。私は赤坂の人間だけどそうじゃない。とっくに関わっていません」


 京子の告白は衝撃的なものだった。あまりに悲惨な幼少期を過ごした京子の心は、誰が癒せるのだろう。それと同時に美玲は驚いた。


「ってことはルルカは異母姉妹ってこと!?」


「一応は。すみません、美玲さんが詩乃姫の生まれ変わりだって知っていれば、カラクリ屋敷の時、何か出来たはずなのに」


「それは京子さんのせいじゃないから」


 そして京子は続けた、自分の思いを。姉についてを。


「もう私はルルカが何をしたいのか分かりません。でも、赤坂にいた頃のルルカは悪い人では無かった。誰もが霊能力のない私に冷たく接する中、姉だけは違ったんです」


 そういう京子は拳を強く握りしめ、顔を俯かせる。ふと美玲はある疑問が頭に浮かんだ。


「京子さん、分かる範囲でいいんだけど赤坂家では詩乃姫の生まれ変わりわたしってどういう扱いなの? 例えば梓馬様の恋心を踏みにじった悪女とか」


「いえ、そのような話は……そもそも本当に恋心があったのか、強いて言えば材料ですかね。梓馬様の望みは不老不死ですから」


 ますます疑問が浮かぶ。ならばなぜルルカは美玲の前世の記憶を思い出させる必要があったのか。


「もし私が赤坂家の立場なら、むしろ私の記憶がないほうが都合いいと思うんだよね」


 その言葉に真野と京子はハッとする。


「確かに! 僕なら上手いこと美玲さんを言いくるめて屋敷に連れて行くと思います。警戒されてない分やりやすいかと」


「そうなんだよ。私はルルカのこと悪い風に見てなかったから、カラクリ屋敷ではぐれたあと知り合いに再会して安心したんだよね。その時に連れ去ってたほうが効率よくない?」


「美玲さん知らない人にホイホイついていきそうですからね」


「ちょ、真野くんそれ酷くない!?」


 真野と美玲のやりとりで空気が少し軽くなった。京子も美玲の疑問について考える。


「逆に警戒させないといけない理由があった? そもそも姉さんに霊能者を騙せるほど巧妙な蜃気楼が生み出せたっけ」


 ふとした疑問は波紋となり広がる。何故ルルカはわざわざ記憶を思い出させる必要があったのか。警戒させないといけない理由があったのか。それとも……新たなルルカの一面に美玲は困惑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る