第11怪
その後、緑沢中学は一位入賞を果たした。
「階段で山中の足引っ張ったのも太一郎の呪いだったんだろ? これからは邪魔もなく実力を発揮できるな」
こうして一件落着。と、思ったのも束の間だった。後藤が太一郎に掴み掛かった。
「お前! お前のせいで……お前が役目を果たさなかったから!」
純、颯斗が止めに入ろうかと思った矢先、以外にも止めたのは後藤の学校の先輩だった。
「お前さぁ、今まで俺たちより実力があったから何も言えなかったがよ。いい加減にしろ! このクズが! 他校に喧嘩売ったり子供殴ったり!」
今まで傍観していた生徒たちが一斉に詰め寄った。後藤はきっと後でこっぴどく叱られるのだろう。
「今日はありがとうございました」
日が沈み出し、今日という日が終わりはじめる時間。太一郎を一旦家に帰し、後日正しい霊能力の使い方を学ぶ運びとなった。得体の知れない力を持つ者は常に危険が身近にある。
「俺たちもアイツらのとこ戻ろうぜ」
会場の隅にはお馴染みの怪奇研究部員が集まっていた。皆のもとに寄ると美玲が純に聞いた。
「事件解決?」
「あぁ、呪いの正体も分かったし。次あいつと会う時は俺の結界術教えてやるのも良いかもなぁ」
「おーい!」
部長がこちらに走ってきた。
「今まで何してたの? 大会終わったでしょ」
「後藤ぶん殴りに行ってたんだよ。ちゃんと許可は貰った」
誰から? と皆が心の中でツッコむと「それよりも……」と部長は続けた。
「あのガキは? お前がカツアゲしてた」
「カツアゲじゃねぇ。あのガキは一旦家に帰したが、詳しいことはまた後で話す」
すると今までカメラを眺めながら黙っていた京子が不思議そうに画面を見せた。
「あの、さっきついでに写真撮ってたんですが、この写真の黒い煙……なんだか顔に見えませんか?」
皆がカメラを覗く。確かに煙が顔に見えなくもない。「おかしいな」と言いながら純が言った。
「呪いは普通、こうはならない……」
「うっ……すみません……ちょっと気持ち悪くなって……」
真野が口元を抑え、カメラから目線を逸らす。すると部長が焦ったように言った。
「馬鹿野郎、これは呪いじゃねぇ! もっと禍々しくて残酷な……」
純がハッとし、同時に怯えたような表情をした。それに気が付いた部長がバツの悪そうに目を逸らし「とにかくあのガキを連れてこい!」と言った。
太一郎は一人、帰路についていた。
(もうこれで言いなりにならなくて済むんだ……)
何故だか開放感でいっぱいだった。今日の夕飯はなんだろうと考えながらスキップをすると、後ろから声をかけられた。
「キミ~、タイチロー?」
振り返るとそこに居たのは夕陽を背に立つ人、のような……しかし、顔が見えない。それどころか背が二メートルから三メートルはありそうなほど高かった。
「あ……あぁ……!」
「タイチロ……タイチロ……タイチロ!!」
キャハハハハと笑いながら太一郎の首を締め上げ、空に持ち上げた。
「カッ……ハっ……!」
呼吸が出来ない。すると首を絞める何者かの地面が徐々に下がって行く。真っ黒い地の底にズブズブと飲み込まれていく感覚がした。そしてそのまま意識を失う。
すると光の矢が太一郎を掴む何者かを射った。黒い煙が身体から湧き上がり、消滅。太一郎は地面に転がり落ちた。
「おい、純平! 太一郎?」
颯斗が到着した。先に太一郎の元に着いたのは純平だった。弓矢を放ち、何者かを消滅させたのも。
「魂は持っていかれた。ガキは死んだ。とりあえず警察呼べ。青崎の名を出せば処理してくれる」
「今のは……?」
「魔物だ、地面に沈んで行っただろ。魔界に引きずり込もうとしたんだ」
「何でっ……!」
「あの力は呪いでもなんでもない、魔界から借りた力だった。借りたものは返さなきゃいけない。使いすぎたんだ、だから命まで持ってかれた」
時間が経ったのにも気が付かなかった。警察が駆けつけ、家に帰されるまで颯斗は何も話さなかった。
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