第9話

剣術の手合わせから一週間後。

源が教えてくれた訓練方法で俺は肉体作りに勤しんでいた。先ず体を解すところから始まる

十分にほぐした後は森の周りを五十回程度走る。

次に格筋肉を鍛える運動をする。

少し休憩した後剣の素振りをする。この時俺は源さんを頭の中に描き、対戦しているように動く。

それをしばらくした後また森の周りを今度は重りを身につけて五十回走る。そしてまた筋肉トレーニングとループしていた。


これを毎日繰り返し繰り返し行っていた。


ーーーだが、このままでは間に合わない。もう敵が攻めてくる二週間前になった。


(余りやりたく無い方法だったのだが…)


時空操作。則ち時間と空間を操れる力。

だから俺は空間操作の術で、森を模した異空間を創る。そして異空間の時の流れを時間操作の術で速くする。大体異空間の外の時間で一週間の時間が空間内の時間では二年の月日が経つ。




俺は家族に剣術の修行がしたいため暫く森に籠ると伝え父様に貰った真剣とコツコツ作ってきた式神札を持ち家を出た。



























どのくらい月日が経過したのか確かめる為日記をつける


一日目「今日は腕の筋肉トレーニングを中心に行った。真剣は木刀より重い。だから筋肉をあげる必要がある。準備体操に加えよう」



二日目「今日は全身の筋肉トレーニングを行った。刀を振るには全身の力が必要だ。これも準備体操に加えよう」



十日目「今まで行ってきた筋肉トレーニングが段々楽に感じてきた。強度をあげよう」



十一日目「強度をあげたせいか全身が筋肉痛だ。今日から反射神経を鍛える運動も加えた。早く攻撃を躱すには大切なことだ。」



十二日目「今日は瞑想を中心に行った。瞑想は集中力と精神力を鍛える効果がある。明日からこれも日課に加えよう」



三十日目「今日は陰陽術で作った源さんをイメージした式神と模擬戦をした。やはり源さんは強い。

目標は技を使わないで勝てるようになる事だ。」


八十日目「一日中源さんをイメージした式神に技無しで何とか持ち堪える事ができた。もうすぐ何かが掴めそう」


百五十日目「遂に源さんをイメージした式神相手に技なしで勝てるようになった。更に式神の強さをあげよう。」


二百日目「すっかり忘れていた。この時代の戦術を学ばなければ。今日は一日剣術の稽古は止め、この時代の戦術を学ぶことにした。…非効率な戦術ばかりだった。」


二百一日目「昨日この時代の戦術を学んだが実戦には全て使わないだろう。だってよく考えてみたら敵の意表をつくにはこの時代には無い方法で戦った方が勝率が上がる。」


三百六十五日目「今日で修行から一年が経った。身体も以前とは変わり筋肉質な身体になってきた。

感覚も研ぎ澄まされていて未来の俺に近づいてきた。」


五百五十日目「遂に源さん化け物Ver.をイメージした式神に完全勝利した。次は剣技を極めよう。」


六百五十日目「俺は剣技を極めた。もう岩なんて紙のように切れる。感覚も極限まで研ぎ澄まされた。風の流れだけで敵の動きを察知できる。」


七百三十日目「今日で二年が経った。俺の肉体と感覚は未来の俺の身体になった。さぁ異空間から出よう。」
























俺は二年ぶりに家に帰る。…まぁ外の時間では一週間だが…。家の中に入り使用人の一人田中弘治に両親の居場所を聞く。弘治は古株の使用人だ。きっと二人の居場所を知っているだろう。


「田中。…父様と母様が何処にいるか知っているか?帰ってきたと報告がしたい。」


「………?あのっ失礼ですがどちら様でしょうか?」


(………えっ?)


ーーー俺は一週間で顔を忘れられたのか?十四年間も一緒に居たのに???戸惑いながら使用人に白夜だと伝えた。


「白夜だが???」


「えっ?あの白夜様!?えっ?一週間でこんなに体格や顔立ちが変わりますか?面影は感じますが…私の聞き間違いでしょうか?」


ーーー何だか混乱しているようだ。


「あの?旦那様と奥様のご子息様で間違い無いですよね?」


何だこの質問は???


「そうだが…緋月風夜と緋月直の息子だが?」


緋月風夜とは父様の名前で緋月直は母様の名前だ。


「聞き間違えでは無かった…。あっあの白夜様?旦那様と奥様は居間にいらっしゃいます…」


「わかった。礼を言う」


ーーー…何でずっと俺をみているんだ?

疑問に思いながら田中と別れ居間に向かった。


他の使用人とすれ違う度に


「えっ…誰?」


「あの素敵な方が白夜様なの!?」


「成長期というヤツかしら?」


ーーーなんとなく分かった。俺の肉体は二年間先に成長している上に、鍛錬で筋肉もだいぶ付いている。確かに一週間での成長では考えられないな…


そんな事を思いながら居間につく。

ノックをし襖越しに声を掛ける。


ーーーコンコン


「父様。母様。白夜です。帰ってきたという報告しに参りました。」


襖越しから父様の優しい声が聞こえる。


「白夜かい!待っていたよ!早くお入り」


居間に入っても良いと許可を得た為襖を開ける。


「失礼します。」


俺を見た瞬間二人とも目を見開く。

ーーーそんなに開いたら目玉が落ちないだろうか…?


「びゃ…白夜君なの??え"?」


「白夜なのかい?」


ーーーここまですれ違った使用人等と同じ反応だ。


「はい。二人の息子、白夜で御座います。」


至って平然と言う。だって本当の事だから。


「そ、そうなのね…男の子は三日で見違えると言うし白夜君も成長?したわね…」


母様が感心したようにいう。


ーーー母様。一週間ではこんなに変わらないよ。


「成長期というヤツです」


…大嘘です。すみません。


「いや…成長期か…本当に見違えたね!白夜!」


…父様まで信じてしまった。二人とも純粋すぎては???悪い人に騙されないだろうか?

ーーーまぁ今騙しているのは紛れもなく俺だが


「白夜。森での訓練は如何だった?その様子をみるとすごく有意義な時間だったんだろうね。今日はもう下がりなさい。疲れているだろう。ゆっくり休みなさい。」


父様が優しい笑顔を浮かべながらそう言った。


「優しいお言葉痛み入ります。では下がらせて頂きます」


俺は居間をでて自室に戻った。




ーーーこれからが始まりだ。


(蠱毒王が攻めて来るまで後一週間。此処に来させてたまるか!此方から敵の本陣に乗り込んでやる!)


俺は対蠱毒王戦の準備を始めたのだった。

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