てんせい
紅梅の枝に留まっては囀るウグイスを見上げた。
紫陽花の葉を這っては食べるカタツムリを見下ろした。
薄の群集と戯れては飛ぶアカトンボを見た。
蓮の茎を啄んでは舞い踊るハクチョウを見た。
俺が死んだあと、俺を殺した人間は喰い千切った血肉を喉に強く押し付けながら、淡々と言った。
感情がすっぽりと抜け落ちてしまったような声音で言った。
死なないでくれ。
生き返ってくれ。
俺を、人間にしてくれ。
これは記憶。
俺を殺した人間の記憶。
俺を殺した人間の記憶を宿した肉体の記憶。
世界の一部の記憶。
俺は、俺を殺した人間が、俺を殺した理由を知る為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間が、俺の殺害を防ぐ為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間を、怒りのままに殴る為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間に、幸福になってほしいが為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間に、復讐する為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間とか全く関係なく、俺が人生をやり直す為に、転生した。
俺は、俺を殺した人間を、望み通り人間にする為に、転生した。
俺が、俺を殺した人間に、転生した意味を見出すとしたら、こんなところだろうか。
選択肢はたったの一つ。
俺の殺害を防ぐ為。
それだけだ。
俺を殺した人間なんか、どうでもいい。
いや、残虐無比に殺されちまえ。
俺が、俺を殺した人間に転生してさえいなければ、そう吐き捨てていた事だろう。
もしかしたら、俺が、俺を殺した人間を、殺していたのかも、しれない。
けれど、俺は今、俺を殺した人間を生きなければならないので、そうはできない。
ましてや、俺に転生しているのが、俺を殺した人間なら、猶更だ。
俺は、俺を殺すなんて、できやしない。
(2024.6.1)
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