第5話 どうやら有能な卵らしい

-side ゼノ-



「さてと、ステラさんにも挨拶したし、この町の有力者には大体挨拶できたかな?」



 あの後、この町の領主とお世話になった冒険者ギルドと医療ギルドのトップに挨拶をしてこの町を去る事にした。

 まあ、俺が一つの町に留まりすぎていただけで、普通の冒険者が一つの町に3年以上いる事はない。

 みんな残念そうにはしていたが、冒険者との別れは慣れていそうだった。



 俺はリルのいる町の外にある野営地へと向かう。テントが見えてきた。俺がなぜ家を買わなかったかというとこのテントにある。

 リルが自由に遊べるように、空間魔法でテントの中が拡張された物を特注したのだ。



「お待たせ〜!リル!」

『うむ!』



 俺の気配を察知したリルはさっきまで、元気そうに遊び回っていた痕跡を残して、ご機嫌に玄関にやってくる。



「また穴掘って遊んでたの?」

『うむ!見るのだ!今度こそお主を会心の出来栄えの穴だ!!』

「おー!すごい!」



 俺からすると全て同じ穴なのだが、リルからすると違うらしい。



『む?ダウト!』



 しかし厄介な事にリルは嘘を見抜ける。

 フェンリルの特性なのか、俺と長年一緒にいる事で身についた特殊能力なのかは知らないがとにかくリルに嘘は通じない。



「ご、ごめん、毎回巨大な穴で凄いとは思ってるんだけどね」

『むむ……!今度こそ!今度こそお主をギャフンと言わせてやる!』

「それ、ギャンブラーと同じ心理状態なのでは?」

『むむっ……!明日勝てばよかろうなのだ!』



 明日もやるんかい。

 まあ、好きにすればいいけれど。

 


 --GRAAAAAA!!



「『……!』」



 そんな事を話していると、魔物がやってきた。ここは、リルが結界を貼ってくれているはずだから、侵入してきたのか。

 相当な手だれの魔物だろう。

 俺も身構える。



 --ヒュン!



『……!!ゼノ!!!!』

「……!」



 俺が反応する間も無く、相手が攻撃を放ってきた。逃げ遅れる。



 --ひゅーーーん

 --ヴァッコーーーーン!

 --コロコロコロ



 思わず、目を瞑ってしまう。

 


「……?生きてる?」

『ゼノ!?大丈夫か!?』

「!?ん……、うん」

『良かった』

「しかし、なんで?」



 --ビョーンビョーンビョーン



 必死にアピールしている。



『こやつが守ったのだ』

「ありがとう」



 この卵。普通に戦えらしい。

 そうだ、相手は?



 --GRAAAAAA



 それは火の化身のような巨大な炎。

 姿は見えないが、まとっている燃え上がる炎の翼が夜の闇を切り裂いている。



「あれは」

『フェニックスなのだ』



 フェニックス。

 誰もが知る神話に出てくる伝説の鳥。不老不死の代表的な存在とも言われている。



「なんでそんなのがここにいるんだ?」

『大方、我に会いに来たのだろう。のう?フェニックス』



 --GRAAAAAA



 あたりの木々を吹き飛ばす熱風。

 リルの結界に守られてなかったら、今頃どうなっていた事やら。



『そうだが?』



 --喋った!?

 ってか、そうだが?じゃないんだけど。

 さっき、めっちゃ攻撃されたんだけど!?



『それはすまない。事故った』



 どうやら話せるだけでなく、心も読めるらしい。



『事故った!?主人が◯ぬところだったのだぞ!?』

『お前の結界あっただろう?大丈夫だと思って』



 フェニックスさんはわさわさと大きく動かす。対するリルはすこぶる不機嫌そうだ。



「ま、まあ、結果的に助かったなら良いんじゃない?卵が守ってくれたし」

『むう……、主人がそういうなら』



 リルも卵もいかにも警戒体制だったのを解いたみたいだ。ホッと胸を撫で下ろす。



「それよりも、リルになんの用で?」

『そうだ!至高の君主がお目覚めになりそうだからそろそろ呼びにきた!』

『ぬ?それは本当か?』

『なんでも、今世の至高の君主は過去最強らしい。卵の頃から戦えるそうだ』



 ほうほう。そんな突拍子もない話どこかで聞いたことのあるようなないような話だな。



『加えて、まだ卵状態卵なのに意思疎通も出来るみたいだ。俺は最近しょっちゅうやり取りしていて、お言葉を貰っている』



 卵の時から言語を理解する。

 そんな突拍子もない話が世の中にはあるらしい。ふむふむ。やはり、思い当たる節がない訳ではない。



『さらに卵状態であるのにも関わらず、自ら移動して、どこかから魔力量の供給を受けているためか、魔力量豊富で、成人のドラゴン1体分くらいは魔力量があるらしい』



 なるほど?やはりどっかで聞いた事ある話だ。



「ふむー」

『主人……』

--コロロロ……



 リルが呆れた様子でこちらを見てくる。

 チラリと卵に目をうつすとそちらも呆れている。

 そういえばこの卵も出会った頃魔力欲しさに勝手にコロコロこちらに転がってきて驚いたものだ。これも運命かなって放置していたけれどよーく考えればおかしいか。

 --って、この卵に魔力供給してるやつってもしかして。



「あの……フェニックスさん」

『む?』

「その至高の君主の卵って、ここにありますけど?」

『むむ?』



 --コロコロコロコロ?



 不思議な卵も不思議そうに転がった。



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