第2話 相棒のフェンリル
-side ゼノ-
「つかれたー!」
追放手続きの全てが終わったとき、どっと疲れが襲ってくる。いつものように自分で作ったポーションを飲んだ。
「マズイッ!」
10歳の時に洗礼の儀で授かるジョブ。
普通はジョブは1つしか授かれないが、稀に2つ授かる人もいる。10歳までに洗礼の儀を受ける前に既に授かっていた場合だ。
俺は5歳の頃にとある生物(?)をテイムしたことによってテイマーのジョブを授かり、10歳の時に薬師のジョブを授かった。
テイマーというジョブの印象が圧倒的に強い俺は、2職目の薬師が世間からの印象では副業……と言ってしまっても良いくらいに影が薄い。冒険中はマルチタスクを求められてがいるが、能力の大半をテイマーにリソースを持って行かれているため、薬師の仕事にあまり時間を割けずにいた。
元々才能はあまりないが、さらに薬師のジョブに対して熱心に向き合ってこなかったということもあり、俺の薬師の能力はかなり低い。冒険者にとってヒーラー役はとても大切であるため、薬師もとても重要ではあったものの俺がその役割をしっかりとこなせなかったのも大きな原因だろう。
……まあ、そもそもヒーラーを俺とは別に雇えという話ではあるが、そうすると余分にコストがかかってしまうのでそれならそれで我慢しようというパーティがほとんどだった。自慢にはなってしまうが、俺を雇うのにはランク的に通常よりもコストがかかるからだ。
そんな、なんとも中途半端ではある俺の立ち位置だが授かったジョブには罪はない。むしろこの薬師という職業も俺はとても気に入っていた。
『終わったか。ゼノ』
「ああ。リル。毎度のことすまないな」
俺が森の広場でゆっくり野営していると、向こうから狩りを終えたであろう俺の従魔がやってきた。
銀色にうっすら発光する様は神々しく、佇まいは紛れもなく一流の魔物。美しい毛並みの狼。こいつはフェンリルのリル。
10歳の頃たまたま森で出会ったところを当時初めて作ったポーションで助けたら懐かれてそのまま従魔になっていた。
『ふんっ!毎度毎度主人を悲しませるとは、無礼な奴らだ!今すぐ我がカミコロ……』
「待て待て……」
『待つか!!!今度という今度は、主人に逆らったやつに復讐を!!』
「シット!!」
そう言われるとリルは大人しく座る。これはテイムの魔法の一つである、シット。その名の通り魔物を強制的に座らせる魔法だ。
--ハッハッハッ!
リルがギラギラした目でこちらを見てくる。魔法で無理矢理押さえつけているためものすごい抵抗を感じる。相変わらず、とてつもない力だ。
「はあ……、いっからこれ食べて」
俺は手元から俺が作ったポーションを取り出すとリルの口の中へ突っ込む。
これはチルポーションと言って、気持ちを落ち着かす薬草だ。しばらくすると、リルも落ち着いてくる。俺は薬師の才能は凡人ではあるが、テイマーのジョブを持っている薬師は俺が初めてだそうだ。
その特殊なジョブのおかげと幼い頃からリルと一緒にいたため、リルの病気を治りたり、リラックスポーションを飲ませたり、リル専用のポーションに関しては結構上達したと思う。
「少しは落ち着いたか?」
『うむう!だが、お主を追放した奴らを許したわけではないぞ』
「別に俺は良いよ。毎度毎度だけれど、追放される冒険者なんてこの世に何人もいる。理由もさまざまだ。俺はテイマーとしては一流ではあるけれども薬師としては凡人だし、今回は俺も悪い部分は結構あったと思うし、もう会わない人たちの事をこれ以上考えるつもりはない」
『主人それ追放されるたびに毎回言っている』
「うっ……、毎回重要な事だからね。勝手に暴れられたとしたらこっちも困るというか」
『我はこの国が滅びようと関係ない。それよりもお主が毎度毎度悲しそうな顔をしている方が問題だ』
「問題大アリなのー!この国には悪い思い出もあるけれど、良い思い出もたくさんある。そんな国が無くなってしまうのが!」
『はあっ……、全く。甘すぎる』
「うぐっ……」
確かにそうなのかもしれない。
誰かと一緒に日々の生活を充実させながら、平和に穏便に過ごしたいと言うのは理想が高すぎる。
「だからと言ってずっとソロ冒険者として過ごすのはな……、人と関わらなさすぎるのも寂しすぎる感じもするんだ」
『相変わらずお主は世の中を舐めておる』
「うぐっ……」
『まあなんだ……。我はそんなお主を好きになった故、その理想を否定はせぬが……、あまり無理をせぬようにな。時には冒険を休め。休息も必要だ』
「あ、そうだそうだそれなんだけどさ……」
『む?』
「俺冒険者やめたわ」
『む?』
「冒険者やめたわ」
『GRAAAAAAAAA!!!????』
今日一興奮したリルの咆哮で、周辺の森は更地になったのだった。街中でこの会話しなくてよかったー。
-----------------------
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます