第6話砂城の言葉、新堂の選択

「......しかし僕は、思うんだ。この国の人間は本当に、人としての本懐を、遂げているのだろうかと......」


 そう言いながら、俺から視線を逸らして、辺りを見回す。


 新人の身体を借りながら砂城は、まるで何かを探す様にしながら、しかしその泳いでいた視線は、少し経てば俺の所に、戻ってくる。


 その彼の姿を見て、俺は砂城に言う。


「そんな風に話を明後日の方向に持って行って、お前は一体、何がしたいんだ?」


 その俺の問い掛けに、砂城は答える。


「べつに......ただ単にこういう話を君と楽しみたい。それだけだよ......」


 言いながら砂城は、俺を見る。


 口元に余裕を添えて、俺を見る。


 そんな砂城に、俺はまた、言葉を紡ぐ。


「雑談がしたいなら、もっと他の方法があった筈だ......わざわざ他人の身体に潜り込んで、意識をすり替えて、やりたいことがただの雑談なら、それは馬鹿げている......異常だ......」


 そう俺が言うと、砂城は視線を下げて、小さく笑う。


「フフッ......」


「なんだよ......?」


「いいや、こんな姿になっても君は、僕のことをそうやって、正常な誰かに当てはめようとしてくれるんだね......こんなことをしている時点で、こんなことになっている時点で、もう既に、僕は異常だよ......」


「......そんなこと、とっくに知っている......」


「......」


「だが、わからないこともある......」


「何がだい?」


「どうしてわざわざ、潜り込む対象のバイタルデータを消すような、そんな危険な行為をした?」


「......」


「今お前がしている様に、そんなことをしなくてもお前は、その対象者の意識に潜り込めるんだろ?」


「それは、この子のバイタルデータは消えていないと、そう断言出来てから出る言葉だよ......そんなのはまだ、わからないんじゃないのかい......?」


「いや......わかるんだよ。だってそいつは、昨日の店主の様な、ただのアウトローな国民とは違う。正真正銘、行政府の人間。管理している側の人間だ。そんな奴のバイタルデータが消えたら、俺等の端末には間違いなく、それらについての連絡が来るはずだ......だが今は、それはない......」


 そう言いながら、核心的なことをそのまま、俺は砂城に言うつもりでいた。


 しかし砂城は、そんな俺の言葉に対して、明らかに落胆した。


 落胆しながら、彼は言う。


「......浩一、それは些か甘すぎる。その程度の根拠で、僕のことを判断するのは、あまりにも危険だ......」


「なに?」


 疑問符を口にしながら、視線を強める俺に、奴は静かに言う。


「でも、仕方がないことだろうね......こんな世界ところに長く居れば、誰でもそうなってしまう......」



 言いながら、哀れみの色を施した奴の瞳は、俺を映す。


 そしてその後に、しばらくの沈黙を挟んで、溜め息混じりに口を開く。


「知らず知らずのうちに掛かる足枷は、その世界に居る住人にはわからない。重くもなく、冷たくもなく、傷を伴うこともない。しかしその足枷は、蝕むのだ。確実に......」


 そう言いながら砂城は、その言葉の続きを、俺に視線で投げ掛ける。


 そして俺は、彼の視線が示す通り、その続きを知っている。


 だから俺は、ゆっくりとそれを、口にする。


「......そしてその蝕まれたモノ達を自覚する時、もはやそれらの存在は危うくなる。それらが知識と呼べるモノなのか、それとも思考と呼べるモノなのか......混沌の中に在り過ぎて、足枷の重さに気付いた時には、もうお遅い」


 言い終えたところで、砂城は穏やかな声色で、言う。


「やっぱり......覚えているモノなんだね......」


 その砂城の言葉に、俺はうなだれながら言葉を返す。


「あぁ......もう随分と、古いがな......」


 そして返した言葉に、砂城は思い出を語るような口調で、言う。


「二千年前くらいの書物だよね......これだけ昔なのに、今と同じ様な文明らしい......」


「文献もそうだが......どちらかと言えば俺等の話さ......もう十年以上も昔のことだ......」


「あぁ、CORDが運用される、ずっと前さ......」


 そう言いながら、俺に向けられていた視線は、いつしか遠くを見る様なそれに変わりながら......


 明らかに俺ではなく、別の何かに向けられている。


 しかし声はそのままに、彼は俺の方へ、語り出す。


「この国の国民は、守られ過ぎているんだ。それはもう、過保護の領域を超えている。君等が管理する健康というモノに胡坐をかいて、自らを戒めることはしない。本来それらは、各個人が、自分達でやるべき行為なのに......」


 嘆き悲しむ様にするその視線は、まだ言葉を続ける。


「自由の裏側に在る責任というモノを、人々は嫌い過ぎたんだ。だからそれらを外側へ、他人へ、委託してしまった。しかしそうなってしまったら、何もわからない。何を受け入れて、何を拒絶するべきなのか......悲しいことに、それらをこの国の人間達は、自分達で判断できない......いいや、そもそもそんな考えに、至らない。本当に、悲しいことに......」


 そう砂城が言った後に、俺は気が付くのだ。


 彼の意図を、彼の思考を......



「......だからお前は、バイタルデータを削除したのか......そんなことをしなくても、他人の身体に入り込める筈なのに......」


 そう俺が言うと、友人は静かに微笑を浮かべて、言葉を紡ぐ。


「......僕は、殺戮者になりたいわけではない。他人の人生に嫉妬もしていない。ただ......警鐘を鳴らしたかった......これほどの危険を孕んでいるこの国に住む人達に......そして不意打ちを与えたかったんだ......この国を管理していると思い込んでいる連中に......」


 そう言った後に、友人は俺の瞳をジッと見る。


 新人の身体を借りながら、しかしその瞳の奥には、彼が居る。


 彼には一体、俺はどんな風に、映っているのだろうか......


 一体どんな人間に、見えているのだろうか......


 そんなことを考えながら、俺は彼から視線を逸らして、手元にあるカップを持ち上げて、口を付ける。


 そんな俺の姿を見て、彼も同じ様に動く。


 同じような動作で、同じ様な仕草で、それらを行う彼の姿は、とても奇妙だった。


 まるで違う身体の筈なのに、まるで鏡を見ている様な感覚に、襲われる。


 似ても似つかない筈なのに、こんな感覚に、襲われる。


 俺は彼に尋ねた。


「お前......俺の中には何回入ったんだ......?」


 その俺の疑問に、彼はうっすらとした微笑を崩さぬまま、言葉を返す。 


「......どうしてだい?」


「いや、今思えば、不思議だったんだ......お前が夢に出てきたり、先生と会話した時の妙な感覚、職場の先輩と食べたラーメンを伸びているって感じたこともあった......」


「......あぁ、あのラーメンか。アレは酷かったね......」


「あぁ......だが俺は、それしか知らない筈なんだ。だってラーメンなんて、どこの店で頼んでも、同じ筈なんだから......」


 そう言った後に、俺はさらに砂城に、言う。


「お前は......その気になれば他人と、感覚や思考を共有しながら、生きていけるんじゃないのか?それなのに、お前は......」


 言い掛けたところで俺は、彼の表情に、視線を向ける。


 そして彼のその表情を見て、俺は何も言えなくなってしまう。


 あまりにも悲しそうなそれに対して、俺は言葉を、見つけられないのだ。


 けれど彼は、吐き捨てる様に、静かに重く、口にする。


「......そんなことを、求めるなよ」


 そう言って、彼はカップの中にある液体を、全て飲み干した。



 カップの中身を飲み終えた友人は、しばらくの沈黙の後、俺の方を見て、ゆったりとした口調で言う。


「......じゃあ、そろそろ行こうか......」


 そう言いながら、その口調と同様に、ゆっくりとした動作で立ち上がる友人の姿を見て、俺の思考はまた、彼の中に流れてしまっていることを理解する。


 俺が今何を考えて、何に迷っているのかを、彼はもう既に、理解しているのだ。


「......選択の余地は......ないんだな......」


 容赦のない、その友人の様子に対して、俺は少しばかりの諦めを声色に含ませて、言葉を選ぶ。


 しかしその選んだ言葉が......


 既にその、俺の中で選んだ選択が、決して正しくないそれが......


 これから先の、ありとあらゆる事柄に起因することを思うと、やはりどうしても、意を決して踏み出すことは、容易ではないのだ。


 けれどそんな心情も、きっと彼には筒抜けなのだろう。


 穏やかな口調で、彼は言葉を返す。


「......君だって、もう既に分かりきっているんだろ......大丈夫、それで正解だよ......懸念する気持ちも、躊躇する気持ちもわかるけれど、最早それしかないのなら、選ぶしかないんだ。たとえそれが、どんなに愚かな選択だとしてもね......」


 そう言った後に友人は、立ち上がった時と同じ様な、ゆっくりとした動作で歩き出す。

 

 そして俺も、そんな彼を追って、彼と同じ方へ歩き出す。


 玄関の扉を開けて、外に出る。


 部屋から出ると、そこにはまだ、平日の午後があった。


 平凡で、退屈で、今までと何も変わらない日常が、そこにはあった。


 部屋を出てから少しばかり歩いた所で、俺は前を歩いている友人に言った。


「なぁ......せめてその恰好は、やめてくれないか......お前の目的にも、俺のやり方にも、そいつの存在は必要ない。解放してやってくれ......」


 そう俺が言うと、友人は振り返り、そして変わらない穏やかな声色で言う。


「あぁ、もちろんそれはわかっているよ。これは僕と君だけの......二人で出した結論だ。それを他人へ押し付けるつもりは、毛頭ない」


「そうか......それなら......」


「けれど、君はそれでいいのかい?」


「......」


「どんなに事実を述べた所で、その結末はきっと変わらない。しかし彼の存在があれば、少しばかりではあるけれど、マシにはなる」


 言いながら、こちらを見つめる友人の視線は、やはり空虚なそれだった。


 そして俺は、そんな友人が、この期に及んでそんなことを考えていることに、少しばかり安堵するのだ。


 安堵しながら、俺は言う。


「バーカ。いらねぇよ......そんなの......」



 友人と共に歩いた先にあったのは、沢山の機械だった。


 様々な配線で繋がれた箱型のそれらは、この場所を裕に埋め尽くす程の数で、敷き詰められている。


 それもそのはずだ。


 なんせその場所に敷き詰められたこれらの機械は、どれも全て、この国を統治しているCORDの運用に必要不可欠なそれらでなのだから......


 部屋の様子を見て、友人は言う。


「なんだか、悲しいね......」


「なにが......?」


「時代が進んで、技術が発展したようなことを言ったとしても、結局のところはこうやって、大切な部分はこんな風に無造作に、繋がれている。こんなの、二千年前のこれらと比べても、変わらない。いいや......もっとヒドイのかな......」


 そう言いながら、友人はゆっくりと歩き出して、箱型の機械を撫でる様に触って、そしてそれらが敷き詰められている部屋の床にある、極小の隙間に足を入れながら、ゆっくりと歩き出す。


 そして俺は、そんな風にしている友人に向けて、言葉を返す。


「言葉の割には、随分と楽しそうなんだな......」


 そう俺が言うと、友人は言う。


「そう見えるかい......?」


「あぁ......」


「まぁ......あながち間違いではないよ......だってこんな世の中じゃ、悲鳴どころか、産声すらあがらない......まるで胎動の中に縛られた、こんな世の中じゃ......」


 そう言いながら、友人は足元の機械を、軽く蹴る。


 友人に蹴られた箱型の機械は、よくわからない音を鳴らす。


 しかしその音を聞いているのは、今は俺と友人の、二人だけ......


 それ以外に、人間らしい人間は、居やしない。


 時間が経てば、次第にその音は鳴り止んで、再び俺と友人の間には、空気だけが流れる。


 沈黙を、友人は悠然と断ち切って、口を開く。


「ハハッ......怖い顔をするじゃないか......」


 言いながら、コチラを見つめる友人の顔は、酷く穏やかである。


 そんな友人に、俺は少しばかり間誤付きながら、言葉を探す。


「イヤ......まぁ、穏やかな心境ではないな......」


 そう言いながら、俺も自分の足元に在る箱型のそれらを、ジッと見る。


 ジッと見ながら、どうしてだろうか、何の関連性も無い筈なのに、俺は不意に思い出した。


「なあ、文則......」


「ん?」


「ニュースで流れていたデモ活動さ......なぜか今頃、思い出したよ......お前から見て、アレはどうなんだ......?」



「あんなのは茶番だよ......長い歴史で、先人達がそうしてきた様に、世の中に不満を見出して、それらを訴える......」


 話しながら友人は、ゆっくりとコチラに近づいて来る。


 近付きながら、言葉を続ける。


「しかしそれらを訴えたところで、その不満が解消されるわけではないことも、彼らは知っている。本気で変化を望むなら、もっと大きな行動が、もっと鋭い一撃が、この国には必要なんだ......しかしそれらを、誰もやろうとはしない......」


「......だから、茶番だと?」


「......違うかい?」


「......」


 俺に問い掛けながら、コチラを見つめる友人の瞳は、やはり空虚なそれだった。


 もう何度も、こうして彼と話したけれど、そのどれもが同様なのだ。


 彼の瞳には、やはり温度が伴わない。


 ひどく冷たく、ひどく空っぽなその瞳は、おそらくこれからも、変わらないのだろう。


 だからずっと、違和感はあったのだ......


 こんな状態の彼が、どうしてこの国に対して、ココまでのことを思うのか。


 どうしてココまでのことを考えて、ココまでのことをしてしまうのか。


 どうして彼は、警鐘を鳴らしたいと思うのか......


 どうして彼は、この国にこんな一撃を与えたいのか......


 ただの仕返しなのだろうか......


 自分をこんな風にしたこの国の、CORDに対しての......


 ただの快楽主義者なのだろうか......


 国一つを管理する、CORDに対しての......


 それとも......


 そんな風に考えていると、思いの外、自分との距離を近づけていた友人は、俺の顔を覗き込む様な仕草で、しかし瞳は、やはり変わらず空虚のまま、俺に言い放つ。


「べつに......ただ僕は、自分の意思で息をすることの出来る場所を、自分の意思で、引き取ることの出来る場所を、作りたいと思っただけだよ......」


 そう言い放った後に、一呼吸置いた後、彼は続けてこう言うのだ。


「だって......そうじゃないと、気持ち悪いだろ......?」


 うっすらと、笑みを浮かべながら......


「......っ」


 気が付くと、友人の姿はもう、そこにはなかった。


 代わりにあったのは、残骸だけだった。


 潰された箱型の機械と、引き千切られた配線の残骸が、いつの間にか自分の周りを埋め尽くしていたのだ。


 そして手は血だらけで、掴んだままだった配線の残骸は、内側が剥き出しにされていた。


「......なんだよ......コレ......」



 仕事の連絡がなかったことを、もっと気にするべきだったのだろうか......


 そんな風に思いながら、仕事を進める手を止めて、近くのカップに手を伸ばす。


 口に付けると、中に入っていた温かい液体が、自分の口を伝って身体の中に流れ込む。


 その温かさに多少の心地良さを感じながら、しかし未だ終わらない、PC画面に映し出された始末書の文面に対して、一際強い視線を向けながら......


 不意にその言葉を、口にする。


「......どうして、こんなことになったのでしょうね......」


 視線を逸らしながら、誰もいない所で一人呟くその言葉に、返答はない。


 当然だ。


 今この場には、私しかいないのだから......


 普段から必要以上に他人と関わることを避けているが、しかしそれでも、人を見る目はある方だと、自負していた。


 しかし蓋を開けてみれば、この様だ......


 自分よりも年上の人間で、少なからずの冷静さも携えていた筈だっった。


 元々調査局に居たこともあって、この仕事に対しての適正もあった。


 だから、こうなることを予想できる人間は、おそらく誰も居なかった。


 始末書の文章に再び視線を向け、少しばかりの溜め息が出てしまう。


 書きかけのその書類には、こう記されていた。


『バイタルデータ消失の国民に対しての外部調査中における、CORD運用施設への立ち入りと破壊行為について』


 どの文面をどう切り取ったとしても、やはり救い様がない。


 それもその筈だ。


 なんせ彼は、彼と私で担当していた仕事の重要性は、もはや問題にならない程の大事件を、しでかしたのだから......


 たった十人の国民のバイタルデータの消失など、最早もう、どうでもいいのだ。


 監視カメラには、彼の姿がハッキリと映し出されていた。


 まるで誰かと会話をしているかの様な、素振りをしていた彼は、そのままの状態でCORDを運用している施設に侵入し、破壊行動を行っていた。


 彼の手には、引きちぎれた配線が、握りしめられていたらしい。


 自身の血に染まったその配線を目にしたとき、彼は目を丸くして、自分がしていたことを把握していない様な言動をしていたそうだ。


 まるで何かに憑りつかれていたかの様な、そんな彼の一連の行動。


 彼にだけ見えていた何かに、彼はこの結末に、追いやられたのだろうか......


 いいや、そうではないなぁ......


 追いやられたちうよりも、いざなわれたというべきか......


 私からは......私達からは見えない何かに、彼はあちら側へ引き込まれたのだろう。


 管理されることを当たり前としている、この国の仕組みの外側から現れた何か......


 それはもしかすると、私達のすぐ近くに、居るのかもしれない。

 


 彼の上司である人間から連絡を貰った時の感情を、もしも後悔と名付けるのなら、きっとそうなのだろう。


 彼のことを送り出したあの行為が、こんな結末を迎えることを知っていれば、きっとそんなことはしなかった。


 そう思いながら、自分で淹れた珈琲を口にして、プリズムから流れる情報番組に視線を向けている。


 そこに映し出されているのは、よく見知った人物だった。


 ほんとうに、よく知っている。


 なんせ彼のことを診る様になって、十年以上の歳月が経過したのだから......


 もっとも、それだけの時間を共有していたとしても、彼がこうなってしまうことを予想できなかった。


 幾度となく報道された彼の犯行の映像は、常軌を逸していた。


 まるで誰かと会話をしている様な仕草を見せながら、次々とCORDの運用機材を破壊していく彼の姿は、やはりどう見ても、どう見かえしたとしても、異常だったのだ。


 しかし気になるのは、その犯行を終えた後、取り押さえられる直前の映像だった。


 自らの手に握りしめられていた配線の残骸を、ジッと見つめるようにしていた彼のその仕草は、まるで今まで自分がしていた筈の行動を把握できていない様な......何かに操られていた後の様な......どうしても、そんな風に見えてしまう。


 しかしそれも、もしかしたらただの、色眼鏡の産物なのかもしれない。


 彼のことを知ってしまっているが故の、そんな妄想が、自分の頭の中にはどうしても、存在してしまう。


 人は、内側に居るのモノに対しては、どうしても無防備になるのだ。


 それが悪魔の様な行為であっても、ありえない産物の妄想であっても、固く閉ざした、悪意に対して予防されている外側よりも、自らの真意を問われてしまう、脆くて淡い内側は、それらのモノ達を容易く、受け入れてしまう。


「そう考えると、やはり今の世の中は......」


 そう口にした独り言は、苦くて芳醇なスープに溶けて、喉を潤す。


 滅多なことを言うモノではないと、そう思い直したのだ。


 誰がいつ、聞いているかわからない。


 それが外側からなのか、内側からなのか、それすらも定かではない。


 しかもそれらの事象は、恐ろしいことに結果とは、関係なく見えてしまうのだ。


 今プリズムに映る彼の姿も、きっとそうだろう......


 きっとこれらの事柄は、彼が自らの意思で選択したことであると、私達の目からはどうしても、そう見えてしまうのだ。


 そうであって欲しいと、私は切に願う。


 そうでなくては、こんな結末に対しての慰めが、あまりにも不釣り合いだ。



 自分がしでかした事の重大さに気が付いた時には、もう遅かった。


 外側から見られたことが全て事実である以上、弁解の余地などは、ある筈がないのだ。


 事がどう転んだとしても、もうこの世界で、俺がまともに生きることは出来ないだろう。


 出来ない......筈だ。


 なんせ、この国の統治システムを運用する施設での破壊行為を、俺はしでかしたらしいのだ。


 まったく......


 まったくと言っていい程に、それらのことについての記憶は皆無なのだが、しかしそれでも、映像に映る俺は暴れ回っていた。


 暴れて、壊して、そしてようやく気が付いた時には、両手は真っ赤に染まっていた。


 配線の残骸を、握りしめていた。


 時間を置いて、自分がしてしまったことを考えても、やはり信じられなかった。


 それほどまでに、これら一連の事柄は俺にとって、ずっと他人事なのだ。


 裁判は、するまでもないだろう。


 しかしそれでも、そういう決まりである以上、俺は自身の行為について、話さなくてはならない。


 自分の中の事実を、この外側に座る者達に、説明しなくはならないのだ。


 どこまで......


 一体どこまで、信じてもらえるのだろうか......


 俺の言葉は、どこまでまともに、彼等に届くのだろうか......


 わからない。


 わかる筈が、ない。


 裁判官は、俺の前に立ちながら、予め決められて位r言葉を読み上げる。


 この場に立つ以上、これから話すことは全て、嘘偽りがないことを誓えと、そういう内容の言葉を読み上げる。


 真実を話して、信じてくれる筈がないだろうに......


「......彼等は拒めないだろう。ずっとこの国で、自らの予防を他人に委託してきた人間には、君の言葉を拒むことなんて、出来る筈がない」


 頭の中に響く、砂城のその言葉は、おそらく俺にしか聞こえない。


 だから俺は、彼の言葉に返答する。


「......そうか?明らかな悪人が話す言葉は、流石に受け入れることはしないだろう?」


 俺の言葉に、砂城は少しだけ笑いながら、静かに話す。


「......そうだと、いいけれどねぇ......」


 そう言い残して、砂城は姿を消した。


 そしてその代わりに、裁判官の声が良く聞こえる。


 口上を言い終えた後の、裁判官のコチラを促す言葉が、良く聞こえる。


 ココから話せば、良く聞こえるだろうか......


 俺の言葉は、僕の思想は、彼等に届くだろうか......


 そう思いながら、俺は少しずつ、自らの意思で話し始める。


 産声にすらならないことを、自覚しながら......



 



 


 

 



 


 

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