初めての本物

月鮫優花

初めての本物

 ずっと世界が信じられなかった。

 この世界には素晴らしいものばかりだ。色々な表情を見せる空。ハッとするような、美しい生き物たち。美味しい食べ物。優しくても意地悪でも誰もがかけがえのない、そんな個性豊かな人々。

 世界の全てが、僕にとって本当に大切なものだった。だからこそ、全部嘘だと思った。こんなに素敵な世界、都合が良すぎる。絶対変だ。僕には勿体無さすぎるじゃないか。みんな僕を馬鹿にして、騙しているんだ。

 日々、惨めだった。

 どの瞬間も空気は愛おしく薫って、その感動的な温度で、湿度で、僕に触れたのに、呼吸すら窮屈な感じがした。身動きがまるで取れない。世界が僕を拒絶しているのだから。

 けれど、今日は少し、違った。雲ひとつない青空に、ヒビが入っていた。その向こうに、地獄が見えた。確かな地獄だった。胸の中に込み上げる悲しみ、恐れ、不快感、嫌悪感、絶望感。

 僕は震えた。

 僕はやっとこの世界の中で本当のことを知れたのだ、という気がした。

 僕は、きっと生まれて初めて、こころの底から嬉しかった。

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初めての本物 月鮫優花 @tukisame-yuka

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