第4話 とんだ邪魔者

母へ寿命をあげるか早く結論を出さないといけないけど、この件は事務所の人以外内密にしなければいけない。

そして今日、その母の診察結果を聞くことになる。


やきもきしながら、私はアルバイトに出た。


アルバイトをしているときに、思いがけない再会…できればしたくなかった再会をしてしまった。


「いらっしゃいま…せ…」


「アキ…ここにいたのか。探したよ」


なんとそこに現れたのは、破局をして別の女性と結婚したはずの元カレ・河野かわの康介だった。

康介には、仕事を辞めたことも地元に帰ったことも一切話していない。


「アキ、お前に話があってさ」


「今更あなたと話すことなんてない。今は仕事中だし、早く帰ってくれる?」


康介は「分かった」とだけいい、バイト先の店を去った。一旦はホッとしたけれど、問題はその後だった。

帰宅途中、公園の近くにたまたま康介が待ち伏せをしていたのだ。


「アキ、ごめんね。今なら話してもいいよね」


「え、気持ち悪い…立派なストーカーだよ…警察呼ぶよ」


「今だけ、どうか今だけ…俺の話を聞いてほしい」


思いついた脅し文句を使っても、康介はまだ引きそうにない。警察沙汰になって、あまり騒ぎを起こしたくないので、仕方なく康介の話を公園のベンチで聞くことにした。


「なんで私がここにいるって分かったの?」


「大学のゼミの同期に、松崎ゆりっていただろ?松崎が教えてくれたんだよ」


「ゆりが…そんな…」


ゆりは、確かに気心の知れた共通の友人だった。彼女とは大学時代から仲が良く、康介と私の仲も応援してくれていた…と思っていたが、それはただの勘違いだったらしい。


「妊娠していた彼女は、松崎の妹だ。しかし、妊娠した話はでっち上げで…結局は俺は『結婚資金が必要』だの『出産費用を貯金する』とその妹に言われて、大金をだまし取られていた。松崎もその妹も、グルで俺を騙していた。松崎姉妹は、俺から奪った金をホストクラブ通いに使って豪遊していたらしい」


「何よ…その話…」


信じられなかった。信頼していた友人たちに、私も康介も結局は裏切られていたのだ。

その腐った事実に対して、私は怒りや憎しみではなく、梅雨時のようなジメジメとした気分になった。


「今の俺は、借金だらけでうまくいかない。生きていく自信もない。そんな時に思い出したのが、アキと付き合っていた時間だった。もう一度お前とやり直して、生きていく希望を見出したいと…」


ゆり達に騙されていた康介は気の毒だと思っていたが、あいにくヨリを戻すなんて気持ちにはなれなかった。

康介も康介で、勝手に「他の女と結婚する」と言い切ってたのに破局とは、身から出たサビとしか言いようがない


あまりにも身勝手すぎる彼の態度に、心底呆れ果てた。


「悪いけど、もう康介とやり直すなんて考えてないわ。死にたいなら、ちゃんと借金を返済してから勝手に死んでくれる?」


「そんな…そこまで冷たくしないで…俺にはお前しかいないんだよ、アキ…」


「もう、あんたの顔なんて見たくない。早く私の眼の前から消えて。」


康介は私に泣いてすがってきたが、彼の惨めな様子を見ても同情はできない。

私は彼の顔面を一発だけ拳でぶん殴って、公園から家まで猛ダッシュで移動した。


帰宅するまで必死だったが、康介が再び私を追いかけてくることはなかった。


ただ一つ、言えることがある。

呆れ果てていたが、軽率に「死んで」と人にいうべきものではない…と、少しだけ反省した。


命って、そんなに軽くない。

今まさに、私自身に突きつけられているテーマだ。



続く

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