私の寿命、あなたにあげます
夜海野 零蘭(やみの れいら)
第1話 星降る夜に
私の名前は山岡アキ。29歳で文房具メーカーのOLをしている…いや、していた。
大学を卒業して、一時期はフリーターだったが4年前にこの仕事についた。
仕事を覚えるのが苦手な私だが、1~2年目は周囲の人のおかげで仕事をたくさんこなせた。
同僚や上司の関係にもあまり悩まず、そこそこ順調な社会生活を送れていた。
しかし、歯車が狂い始めたのは昨年の始めからだった。
業績不振によって会社が倒産し、全社員がいなくなったのだ。
「力及ばず申し訳ありません。すべては私の責任です」
真面目な社長の謝罪の言葉を、今でも鮮明に覚えている。
やむなく会社を去り、離職からだいぶ時間が経った現在も求職活動をしているが仕事は見つかりにくい。
現実は厳しいものだ。
会社が倒産した直後、大学時代から交際していて結婚を考えていた彼氏が、別の女性と一緒になると言って別れを切りたした。相手は彼の会社の後輩で、ぱっちり二重で胸の豊かな可愛らしい女性だ。
「悪いんだけど、アキより彼女を守ってあげたいんだ」
この彼の言葉に対して、最初は納得がいかなかった。だが、相手の方が妊娠していると分かり
(こんな男と交際していた私って…)
という気持ちに駆られた。
どうしようもなく情けない気持ちになり、コンビニでお酒やおつまみを買いだめしてひたすらに泥酔した。
泥酔したおかげで二日酔いになり、ある会社の採用面接ではグダグダだった記憶がある。
さらに追い討ちをかけるように、実家にいる母が病で倒れた。
命にすぐ関わる病気ではないものの、母の病状が心配で実家に帰省せざるを得なかった。ちなみに私には兄弟はいなく、母を助けるとした私か父、もしくは叔父・叔母だけだ。
私が帰省した地元は、田舎で求人数がほとんど無いため就職活動は難航している。
もともと、私に特別なスキルや経験がないのも原因だ。
「アキは就職活動がんばって。お母さんは自分でどうにかするから」
とはいえ、母に無理もさせられない。
父とも暮らしているが、父は70歳で腰に持病があって母は63歳という無理の出来ない年齢だ。私は私で、食いつなぐためのアルバイトをしながら求職活動をしていて、常にいられるわけじゃない。
こんな日々が続き、「どうしようもない」と思わざるを得なかった。なぜ生きているのか、この人生に意味があるのか分からなかった。母の支えになれるか分からないし、仕事もない、恋人にひどい振られ方をする、会社も倒産…
もういっそ、生まれ変わって新しい人生を送ろうか…
ふらりと外に出ると、夜空にはきれいな星が輝いていた。
散歩しながら、私は地元で有名な橋にやってきた。
川を見ながら、「いっそここから飛び降りて…」と思い、欄干から身を乗り出した。
すると、背後から黒いコートを来た長身の男が
「そんなことはしないでください」
と私の右肩をギュッと掴んだ。
「あなた、何ですか?」
「私は『三津島ケイト』と申します。あなたの命、いらないなら誰かに譲るという選択をしませんか?」
そう話すと、長身の男は私に名刺を差し出してきた。
「あなたがその気なら、いつでも私に連絡をしてください」
「は、はぁ…」
名刺を渡すと、その男は颯爽とその場を後にした。
彼の名刺には、役職名が「命をつなぐもの」と書かれていて、ますます意味がわからなくなった。
とにかく。明日あたり彼にまた連絡をしてみようか。
そんなふうに思った。
続く
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