第24話 不思議な少年とお兄さん

 1日経ち火曜日の午前9時。今日も登校日だが俺は学校を休み家に居た。


 学校を休んだ理由は2つ。1つ目はまだ頭痛が治らない事。昨日よりは良くなったが快復とまでは行かない。


 そして2つ目。昨日の冬奈との会話で違和感があったので部屋のとある場所に隠してある資料で調べたかったからだ。


 冬奈の父親の所在は不明。玖凰財閥は冬奈の父親が設立し、その後数年で世界屈指の巨大財閥となった。だが冬奈の父親は原因不明の失踪。その後足取りは掴めていない。


 そして冬奈の母親を調べた資料を見る。


 「ああ、やっぱりそうだよな」


 どうやら俺の記憶力は結構良い方のようだ。


 この俺が調べた資料の情報が正確なら、昨日の冬奈はおかしい。


 ……いや、もしかしたら昨日より前からおかしかったのかもしれない。


 「まあ、それはいずれ冬奈に聞くしか無いか……」


 そこまで考え、俺はまだ何も食べていない事を思い出した。今日姉さんは大学の為不在。頭痛がまだ治っていないとは言えコンビニくらいなら余裕だろう。

 

 準備をし、部屋を出てリビングを通り過ぎようとすると、リビングから声が聞こえた。見てみると、テレビから聞こえている。


 『え〜、最近この町では犯罪集団、GA《ジーエー》の活動が活発になっています。お出かけの際はお気をつけください。では次のニュース——』


 なんか前にもあったな、こう言うニュース。ニュースキャスターの言っていたこの町って言うのここだし。


 物騒だな〜なんて他人事のように考えつつ、バックを持ち玄関から外に出る。


 コンビニへ向かい、取り敢えずおにぎりとうどんとお茶を買って帰路に着く。からあげ棒があったから買おうかなと思ったけど頭痛が悪化するのが怖くてやめた。


 ……だが、すぐには帰れないかもしれないな。


 バックから携帯しているカッターを出し、人差し指を薄く切り出て来た血を少し舐める。


 ……さて、じゃあお話ししますか。まずは出てきて貰わないと、と思い声を出そうとした所でそいつは出て来た。


 「こんにちは、桜井翔梨さん。朝食の買い出しですかね?」


 「まさかストーカーが自分から出てくるとは思わなかったよ。俺が呼んでやろうと思ったのに」

 

 そう軽口を言ってやると、そいつは肩をくすめた。


 「その能力を使われたら私では隠れる事は出来ませんからね。なら、潔く出ようかと」


 「……お前……」


 俺は目の前の男への警戒を強める。何故俺の能力を知っている? ……その男は冬奈に聞いていた通り仮面を付けていた。黒い笑顔仮面だ。それにまさか本当に執事服だとは。


 「玖凰冬奈さんから私の事は聞いていますよね?」


 「ああ、勿論。確か……ウィス——」


 「それ、わざとですよね? 私は執事ですが妖怪ではありませんしマシュマロではありません」


 ジャスパーは呆れたような目を向けてくる。へえ、良いツッコミじゃ無いか。ストーカーのくせに生意気な。


 「すまんすまん、冗談だ。確かジャスパー、だったよな。冬奈の話ではこの後少しは俺達の前に顔を出さないと聞いていたのだが……お前の少しは本当に少しなようだな?」


 「本当は私ももう少し出ない予定だったんですけどねぇ。具体的には光雪学園の体育祭くらいまでですね。でも事情が変わりましてね、動かなければならなくなったのです。


 「へえ?」


 こいつの事情か……それは気になるな。俺の能力の事を知っていたり、前々から意図が読めない行動の数々。それにこれは勘だが……こいつ、結構強いな。


 「動く、と言っても私の仕事は貴方へ伝えたい事を伝えるだけです」


 「……俺に?」

 

 俺へ、か。警戒するに越したことは無いな。


 俺がジャスパーに気づかれないように警戒すると、ジャスパーは口を開いた。


 「玖凰冬奈さん、このままだと死にますよ」


 「……は?」


 こいつは、何を言っているんだ? 冬奈が死ぬ? 何かの病気? 持病が悪化するとか? ……いや、そんなの資料には無かったはず。


 「おお、怖い怖い。あまりそんな強い圧を出すのは感心しませんね」


 「……」


 俺は一旦冷静になり無意識に出していた圧を引っ込める。


 「……さっきのは、どう言う意味だ」


 「どう言うも何も、そのままの意味です。まあかこのままでも貴方ならいずれ気づくと思いますが一応保険としてヒントを出しておこうかと。あ、ちなみに今はあまり考えても意味ないと思いますよ?」


 最後の言葉……ちっ、この頭痛のせいで全然頭が回っていない……。ジャスパー……俺の事を詳しく知っているような発言。それに前に冬奈に接触したのは何か危害を加える為と思っていたが……今は冬奈を助けろと言っているような物だ。


 「お前は冬奈を傷つけるのが目的じゃ無いのか?」


 その俺の問いにジャスパーは何も返さなかった。多分、仮面の下でキョトン、としているのだろう。雰囲気がそんな感じだ。


 「そんな訳ないじゃないですか。私にはそんな意図はありません。あの人とは良い関係を築きたいので」


 「じゃあ、お前はなんなんだ? 何故俺の事を知っている?」


 その俺の問いにジャスパーは少し時間を置き——


 「私は、貴方の1番近しい人であり、貴方を慕うただの少年です」


 意味がわからず、俺が呆然としているとジャスパーは踵を返し、歩き出しながら最後にこう言った。


 「ヒントです。玖凰冬奈が固執している、欲しがっている物、貴方が生まれた所、そしてそこは何をしている所だったか、最後にGAの詳しい事がわかれば自ずと答えは出て来ます。頑張って下さいね、お兄さん?」


 ……思ったよりやる事多そうじゃねえか、クソ。

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