出会いは必然
白百合とカフェを出ると知り合いにばったり出会った。
「山田君か? こんな所で会うなんて奇遇だな。隣にいるのは彼女さんか?」
「島藤先輩? なんでこっちにいるんですか?」
東京の高校に通っている一年上の先輩。
中学の時にジムの遠征で知り合った島藤透さん。
一緒に乗ったバスが崖から転落して、一緒にサバイバルをした仲だ……。
あの時は死人が出なくてよかった……。
「良かったらお茶でもするか? 人と会う予定だがまだ来ない……。くそ、全く藤堂の奴は適当で困る」
「すみません、今はちょっと時間が……」
島藤さんは俺を見ていなかった。俺の後ろを凝視して訝しんでいた。
瞳に反射する何かを捉えた。
とっさに白百合の身体を抱きかかえて回避行動を取る。何故か予見出来た。
空を切る音が聞こえてきた。
振り向くと、プロレスラーのようなガタイの国籍不明の男が大きなナイフを振り下ろしていた。
目が飛んでる……。
時間がない、ここで対処しないと――
と、その時島藤先輩が俺の前に出た。妙な威圧で男の敵意が島藤先輩へと向かう。
「ふむ、山田にはあの時の借りを返さないとな。急いでいるのだろ? なら俺のバイクを使え。パルコ横の駐輪場、A-2、ドゥカティ400がある。笹身さんの写真が張ってあるからすぐにわかるだろう。ここは任せろ。殺さない程度に制圧する」
即答。鍵を受け取ると同時に走り始めた。
「ありがとうございます! 頼みます」
「引き受けた。さて……、藤堂が来る前に終わらせる」
****
「はぁはぁ、あの人、大丈夫、なの? ナイフ持ってたよ……」
「絶対大丈夫だ。あの人の強さは人間のそれを凌駕する。それに、後から来る藤堂さんはもっと人間離れしている。あの強さは俺の中の目標の一つだ」
藤堂さんとは江の島で一度だけあったことがある。素敵な彼女さんと嬉しそうに楽しんでいた。
捕らえどころが無く、なんとも言えない魅力がある男性だった。
パルコの駐車場が見えた。遠くからでもわかる島藤先輩のバイク。タンクにデカデカと可愛らしい女の子のペイントがしてあった……。
ご丁寧にヘルメットも2つある。
バイクに跨りエンジンをかける。
重低音の駆動が身体を震わせる。
「白百合、バイクの後ろに乗るコツは――」
「大丈夫、お父さんのバイクの後ろに何度も乗ったことあるから気にしないで! かっ飛ばしちゃって!」
「話が早い」
無駄な事は一切聞かない。この時ほど、バイクの中型免許を取っておいて良かったと思った。何かの役に立つと、思い立って試験を受けに行ったのだ。
裏道を使い、信号に極力捕まらないような道を選ぶ。
頭が冴えわたる。
――人との出会いも努力の過程の中で構築してきた。それはとても強い繋がりに変わる。俺の未来を変える手段となり得る。
ずっとトラブルに巻き込まれていた。今思えば、それは本当に大切な人を守るための経験値となったのだろう。
なら、今、俺のレベルは最高峰だ。
島藤先輩とのサバイバル、勘違いして俺に襲いかかってきた島藤先輩……。
あの時は人生で初めて死ぬかと思った。
六本木のクラブ事件では、アイドルの田中君と二人でヤクザに監禁された。その時よりも島藤先輩は恐ろしかった。
すべて俺の経験値として糧になっている。
「やっぱりスマホが通じないよ!! 電波が悪い所にいるみたい、関口さん!!」
「ああ!! もうすぐ建物が見える!!」
バイクを滑らしながら駐車場へと止める。
そして受付へと走るのであった。
***
「はぁはぁ、草太、君、ここ来たことあるの? なんで道わかるの? ここで何が起こるの?」
「さっき地図を覚えた。……ここで化学事故が起こり火災が発生する。未曾有の死者と汚染、命に別状が無かった関口は……数年後病気が発症する」
「……信じる、私、草太君を。はぁはぁ、先行っていいよ」
「駄目だ、何故かわからないが、必ず白百合と一緒にいた方が成功率が上がる未来が見える」
「ん、なら私頑張る」
知らない会話が脳裏によぎる。
お台場のレストラン。
『あのさ、私と結婚してもさ、病気だから先に死んじゃうんだよ』
『うるせえ、精一杯の時間の中で幸せになればいいんだよ! ……俺がぜってえどうにかする。死んでも……お前を幸せにする』
場面が変わる。病院のベッドの上、関口。
『……わたしね、とっても、幸せだったの。あんたに、あえて良かった……』
『な、泣いてんじゃねえよ……。笑ってくれ。俺も幸せだったんだ……。俺が、ぜってえ……ぜってえ……』
走馬灯はすぐに霧散する。切ない気持ちだけが心に残る。
関口を逃がすだけなら簡単だった。だが、それだと問題の解決にはならない。
この事件で関口の父親が死ぬ。根本的な原因をどうにかしないといけない。
そんな事、ただの高校生には不可能だ。
――そのために俺は努力して、大人の感覚を得た。
足を止めた――
神経を集中させる。五感、いや、六感を研ぎ澄ます。
不可視の何かが見えた。微かな匂いが漂う。
「悲劇はもうコリゴリなんだよ。……だから、これで終わりだ」
黒い嫌な雰囲気のモヤがかかった扉。
俺はその扉を開こうとしたが――ロックが掛かっていた。
一瞬思考が停止したが、すぐに現実に戻る。扉が開かなかったら壊せばいい。この程度の扉なら。
「草太君、これ使お。さっき、受付入った時にテーブルの上にあったんだ。勝手にもってくのは悪いことだけど、緊急事態だから。草太君が説明しても絶対貸してくれなかったよ」
関口がカードキーを認証させる。ピッという音とともに扉が開いた。
俺たちは扉の中に入った――
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