影
ロッドユール
影
男たちは、私を愛する。
男たちは私を愛していると言う。とても好きなのだという。
でも、私は彼らを知らない。彼らも私を知らない。
男たちは私のいったい何を愛しているのだろう。私を知らない男が私の何を愛しているのだろう。私は分からなくなる。
「いったい、私の何が好きなの?」
「すべてさ。君のすべてさ」
男たちは言う。
「私のすべて・・」
私は増々分からなくなる。私でさえ、私のすべてなんて分からない。
彼らが愛している私の何か。彼らはそれを私のすべてと思い、私として愛している。
私には私の知らない彼らだけが見えている私がいる。
「私の影・・」
私には見えない私。私からは決して見ることのできない私。それは私の影。
それは私という存在の不可分的一体。光は影を生み、影は光を生む。私は私という存在の存在故のその影を背負う。
私はある日、その私の影から、そっと離れてみた。
影はふわふわと一人で歩き始める。
男たちは私の影を追いかけ始めた。そして、私の影を愛し始める。
男たちに私は見えていなかった。
私はここにいるのに・・。
しかし、男たちは満足しているようだった。むしろ影の方がよかったみたいに・・。
影はひらひらと舞い、男たちを翻弄していった。影は私以上に私であり、男たちの愛すべき私だった。
男たちは私の影に熱狂していった。
男たちの熱狂が、さらなる影を生んでいく。影はその濃さを増し、実態のなさ故のその観念的存在を大きくしていく。
影は光り輝いていた。
「・・・」
私など何も求められていなかった。
気づくと私はどこにもいなくなっていた。
私は存在から消えていた。
影は私だったはず・・。
男たちの熱狂するその共同幻想という光の中で、幻であったはずの私という影はいつまでも生き続ける――。
私はこのまま消えた方がいいと思った。
私は消えた・・。
影 ロッドユール @rod0yuuru
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