ベビーシッターが過労死とか笑えん
あまごいやで
1. 初めて会った日
親ガチャ失敗。ありがとうな、マジで。
オマケに身長は百六十センチ。わざわざハードモードに産んでくれてありがとうな。兄の方は俺に似てないから高身長だったけど、もう十五年以上も行方不明だ。兄がどこへ行こうとも俺には関係はないし、特段興味があるわけでもない。
ともかく俺は子供の頃からイジメられて可愛がられてきた。中学の時には、頑張ってシュワルツェネッガーみたいな屈強な筋肉モリモリマッチョマンになろうとした時期もあったが、そもそも筋肉がつかない。
高校生になっても名前弄りはあるし、低身長で馬鹿にされることはある。それでも子供の時よりかはマシだが。
友達はいるが、そこまで仲は良くない。今日はソイツらと遊びに行くよりも家に居て、溜めていたアニメを消費する方がいい。
予定ともいえないけれど、それでも見るつもりだった。親から、最近引っ越してきた子供の面倒を見てくれと言われて、俺は渋々引き受けた後は、もう今日一日アニメを見る機会はなくなった。
その子供は舞菜ちゃんって名前の可愛い小学一年生だった。初対面でいきなりお姉さん呼ばわりする子供だが、俺がチビだからそう思ったんだろうな。別に慣れているからいいけど。
「それで、舞菜ちゃんはなにしたい?」
「よーちゅーぶ見たい」
「……分かった」
俺はスマホを開き、ヨーチューブのアプリをタップした。そして子供が好きそうな動画を適当に検索して見せた。少女は俺の膝の上に座り、スマホの画面を見続けている。
子守りってこんな雑でいいのだろうか。画面には魔法少女が自身のグッズを持って宣伝しており、どれもこれも淡い色味で甘い砂糖で画面がコーティングされているかのようだった。
「おねえさん、どの子が好き? マイはパフェムーントレンドが好き」
「お兄さんだよ。お兄さんは最初に出てきた奴が好きだな」
「……おねえさん」
「お兄さんだって。胸ないだろ」
舞菜は俺の胸を恐る恐る触っているが、やはりまだ子供なので男女の体の違いについてよく分かっていないらしい。
「うそだぁ。おとこのひとってうそついてる。うそつき!」
「ガチで嘘ついてねぇんだよなぁ」
「じゃあちんちんついてる?」
「…はぁ!? そんな事言うな! 確認しようとすんじゃねぇよ!」
子供は恐ろしい。俺の大事な息子を掴もうとしてくるので、この子を抱っこする。暴れるかと思いきや意外と大人しかった。それから舞菜とご両親が迎えに来るまでゲーム機や写真加工アプリで遊んでいた。
お別れの時、彼女は心底寂しそうな顔をしていたのをよく覚えている。
「この子、人見知りで友達も少ないからここで上手くやって行けるか不安だったんだけど、凛々くんが居るなら安心ね」
「
「たがいさん。たがいさん」
ズボンを引っ張ってくるので、屈むと顔を赤くして舞菜は小さな声で話した。
「またマイと遊んでくれる? マイがいなくなって…死んじゃっても」
「いいけど、死ぬとか大袈裟な事は言わない方がいいよ」
大きな瞳から涙がこぼれそうだった。何か嫌なことでもあったんだろうが、俺には全く検討がつかなかった。すると、舞菜の母が目を伏しながら話した。
「ここに引っ越してきたのはおばあちゃんが亡くなってしまって……遺品整理をするために実家まで戻ってきたのよ。この子はおばあちゃんが大好きだったから未だに心の傷は癒えてないというか…ごめんなさいね、何だかしんみりした話なんてして」
「いえいえ、話して下さりありがとうございます。僕で良かったらいくらでも話聞きますよ」
そういえば隣に住んでいた老婆が孤独死していたな。現代社会で隣人の事を把握出来ている人間は一人もいないと思う。あまり交流があったわけでもないが、よく飯を食えって言われていたな。
それから
そして翌日からほぼ毎日、舞菜は小学校から帰ってきては俺の家へと遊びに来る。そんな生活が十年も続いた。
すっかり舞菜は世間一般で言うところの人生薔薇色の陽キャ美人となった。俗な言い方だが、芸能人百人煮詰めたような見た目で、無駄にいい匂いがする。
対して俺は社会の歯車奴隷。高校から身長は一センチと伸びなかったし、三十路が近づくのを恐れるクソみたいな人生だ。
だが、俺はハッキリと言える。俺は勝ち組だと。なぜなら今も舞菜のベビーシッターを続けているからだ。
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