夜道の女児。
願油脂
第1話
知り合いの話になるんですけど。
名前?…えっと、そうですね。
じゃあここではS子と呼ぶことにします。
S子は4歳の息子がいるシングルマザーで
まだ22歳だったS子は朝から晩まで生活のために働き詰めだったんです。
その日も仕事を終えた足でスーパーで買い物をして、そのまま保育園に子供を迎えに行く途中だったそうです。
時間はまだ18時前くらいでしたが涼しい季節で辺りはもう暗く、街灯がポツポツと点在する閑散とした路地を歩いていた時でした。
目の前に4~5歳くらいの女の子が1人でポツンと街灯の下で俯きながら立ち止まっていたらしいんです。
なんでこんな時間に小さい子供が?
服装など身なりはキチンとしていたものの、
周囲に保護者や他の大人が居る様子は無く、
場所と時間帯がというのもあり結構不気味に感じたんです。
するとその彼女が急にこちらの方を向いて
「おもたそうだね」
と言ってきたんです。
咄嗟に目が合ってしまいました。
無意識に見入ってしまっていたんでしょう。
思わずハッとして
「ううん、全然大丈夫だよ」
とS子は彼女に言うとそそくさとその場を後にしたそうです。
その場を離れ冷静になったS子は
確かに両手にスーパーの袋を下げていたとはいえ、せっかく気を使ってくれた女の子に
素っ気なかったかなと少し反省しましたが
それよりも気味の悪さが勝ったらしいです。
それから数日後。
S子はまたその女の子に会ったそうです。
その日もたまたま仕事の荷物が多い日で
彼女はまたS子の方をジッと見つめて
「おもたそうだね」
と言ってきたらしいんです。
前回の事もあり、S子は
「大丈夫だよ。ありがとうね。」
となるべく愛想良く返事しました。
ただやっぱり暗い中で知らない子供に話しかけられるのは正直気味が悪く、
その時も疲れからか重い足取りで帰路についたそうです。
恐らく近所に住んでいる子供なんでしょう。
そんなやり取りがさらに2~3回は続いたらしく、日にちやペースはバラバラでしたが、毎回彼女は同じような時間と場所でS子に向かって同じ言葉を投げかけるそうでした。
気味は悪かったですが、さすがにそう何度も続くと顔馴染みというか少し親近感も湧いてきて徐々に恐怖感は薄れていました。
そして数日が過ぎ、仕事が休みだったS子は
子供を連れて近所の公園に来たそうです。
息子と近い年頃の子供達がたくさんいる中、
S子はあの女の子を見つけたらしいんです。
ただいつもと違っていたのは昼間だった事と祖母と思われる保護者と一緒だった事です。
いつも暗い中独りでいる所しか見ていなかったため、ちゃんと保護者が居たんだなと驚きつつも安心感がありました。
すると彼女もこちらに気付いたようで、祖母の手を解いてS子の方に向かって来ました。
近づいてきた彼女に対して
「こんにちは」
とS子は彼女に声をかけました。
すると彼女はいつもと同じように
「おもたそうだね」
とS子に向かって言ってきたんです。
不思議でした。
だって今日は子供と遊びに来ているだけで
いつものような大きい荷物は持っていなかったんですから。
さすがに不気味に感じたS子は彼女に
「なんで重たそうなの?」
と問いかけました。
その問いに彼女はS子を指差して一言
「だって、」
「いつもくろいひとおんぶしてるんだもん」
完
夜道の女児。 願油脂 @gannyushi
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