【1800PV感謝】イミテイション・ヒーロー
ジャック(JTW)
イミテイション・ヒーロー -The living dead begins to move-
序章『世界は救われてなどいない』
PROLOGUE 目覚めの時、来たれり
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彼が死んだのは、暑い、暑い、夏の日だった。
蝉がけたたましく鳴いて、
彼の命日は、八月十五日。太陽の日差しは眩しく僕らを照らして、生命力に満ち溢れた季節だったのに。
彼はもう、死んでいた。力を使い果たし、世界を救って、死んでしまった。
僕等は、彼の亡骸に縋って泣いた。涙が枯れるくらい泣いた。
彼の破損したグリムコアの欠片を集めて、彼の胸に押し込んだ。
それでもなお、彼は生き返らない。
一度死んだ人が蘇る方法があるなら、何でも試したいと思った。
それが生命倫理に反することだとわかっていたけれど。
それでも僕は、それくらい、彼のことが、大切だったんだ。
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暗く不気味な施設の中、手術台に寝ている状態で、少年は目を覚ます。
彼は周囲を見渡すが、ここが何処なのかわからない。
「おれは……誰だ? ここは、どこだ?」
彼は、謎の施設内を探索することにした。少年は静かな足取りで施設内を進むことに決めた。彼は壁に立てかけてある姿見を見る。すると、そこには十五歳くらいの少年の姿が映っている。黒髪は施設内に僅かに吹く風になびき、赤い瞳は決然とした意志を宿しているように見える。
「……誰だ? これ?」
まるで戦う者のような風格を持つ少年を見詰めて、彼は首を傾げる。すると、鏡の中の少年も、同じ仕草をする。どうやら、『これ』が、自分らしい。
彼は黒い制服のようなものを身に着けており、その胸元には『一』という数字が刻まれた名札らしきものがついている。しかし、服を探っても身元を特定するようなものは見当たらなかった。彼は自分の身元を知る手がかりを求めて、さらに施設内を探索することに決めた。
彼は不気味な施設の中を長い時間かけて出口を探し回ったが、施設には誰もいない。彼はやがて、入り組んだ道の先に扉を見つけ、力いっぱい体当たりしてこじ開ける。
外に出ると、そこは鬱蒼とした森の中だった。空を見上げると、綺麗な星が輝いていた。
深夜の時間帯であることが伺え、遠くに街の灯りが見える。彼は自由の空気を感じながら、裸足で森の中を進み始めた。
「やーっと外に出られた!」
彼は、かなり遠くに輝く街の灯りを見て、目を細めた。
「……多分、あっちに行きゃ、誰か人はいるだろ。にしても遠そうでげんなりすんな〜。どんだけ遠いかわかんねえけど、大体、夜明頃には着けるか……」
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少年は謎の施設から脱出してから、何時間もかけて街にたどり着いた。疲れ果てて公園のベンチに腰掛け、頭には葉っぱ、足には泥や土がこびりついている。
彼は森から街まで徒歩で何時間も歩いてきたため、ひどく疲れが溜まっている。そして、記憶がないため、頼る人も行くあてもなく、ただ座り込んでいた。彼の赤い瞳は不安と戸惑いを映している。
先ほど、道行く通行人に「
「……あ〜、つっかれた。つーか、どこに行くか考えてなかったわ……」
少年は独り言を呟きながら、お腹がグウと鳴るのを感じた。水も食事も取らずに裸足で歩き続けたため、彼は空腹を感じていた。
「ああ、腹減った……」
彼が大きなため息とともにその言葉を零した時、栗色の髪の可愛らしい少女が声を掛けてきた。
「あ、あのっ! さっきからずっとベンチに座ってるけど、大丈夫? あたしに何か、助けられること……ある?」
彼女は、
「ありがとう! おれさ、自分の名前も思い出せなくて困ってたんだよ!」
「えっ……!? そ、それって、記憶喪失?」
「多分!」
朝比奈栞は、ふと、少年の着ている服の名札らしき部分に目を留めた。
「ねえ、お洋服に、『
「おれ、ハジメって名前……なのかな?」
「うん。きっとそうだよ!」
そう言って、朝比奈栞は微笑みかけてくれた。そして、彼はこの日この時から、ハジメと呼ばれるようになった。
「ねえ、ハジメくん。記憶がある範囲で、最初に居た場所って覚えてる? もしかしたらそこがおうちなのかもしれないよ?」
朝比奈栞は、会話の中で、ハジメの家族や知人の手がかりを見つけようとして、色々と質問してくれているようだった。しかしハジメは、眉を下げて首を横に振った。
「それがよ、おれ、目が覚めたら、変な建物に閉じ込められててさ……」
朝比奈栞は、衝撃的な言葉を聞いて、その場に固まってしまった。
「と、閉じ込められた? それって、もしかして誘拐!? た、大変……!」
事態の深刻さを察して血相を変えた彼女は、自分の鞄の中から何かを探し出した。ハジメが見たところ、それは板のようなものに見えた。
「ねえ、ハジメくん、思ったよりすごく大変な状況みたいだし、ヒーロー協会の人をここに呼んでもいい?」
ハジメは、耳慣れない言葉を聞いて、ぽかんと口を開け、驚きの表情を浮かべた。
「……ヒーロー協会ってなんだ?」
「えっと、そっか、記憶喪失だもんね。あのね、ヒーロー協会っていうのは、平和を守る役割の正義の団体で、連絡すれば助けに来てくれるの!」
ハジメは、「ヒーロー協会」という言葉を聞いて、目を輝かせた。彼の表情には希望と期待が宿っている。
「おお! 助かる! でも、連絡ってどうしたらいいんだ? 探したけど、近くに公衆電話もねえし……」
朝比奈栞は、にっこり微笑むと、手の中にある薄い板を、ハジメに見せてくれた。
「大丈夫! あたし、スマホ持ってるから!」
「……スマホって、なんだ?」
「小型の電話機だよ。これで今から連絡を取るから、少し待っててね!」
朝比奈栞は彼を安心させるように微笑んで、スマホの画面をタップする。そして、スマホを耳に当てて通話を始めた。
「……もしもし、ヒーロー協会ですか、あの、朱桜公園に、誘拐されて逃げてきたかもしれない人がいて……! はい、はい……!」
朝比奈栞は、しばらく話し込んでいたが、ややあって電話を切ったようだ。ハジメを安心させるような優しい笑みを浮かべて、彼女は告げた。
「これで大丈夫。あと十分くらいしたら、ヒーロー協会の人が来てくれるって!」
「ありがとう!」
ハジメは、せめて恩義を示すべく、彼女に向かって深々と頭を下げた。朝比奈栞は、慌てて頭を上げるようにジェスチャーをする。
「そ、そんなに畏まらなくていいよ。あたし、当然のことをしただけだから」
「助けてくれて、ありがとな」
真っ直ぐな瞳でハジメが告げると、彼女は照れたようにはにかんだ。
「どういたしまして」
ハジメは、朝比奈栞の笑顔を見て、安堵したように微笑みを返した。
ハジメと、朝比奈栞。記憶喪失の少年と、親切な少女。この二人の邂逅は、世界の運命を変える、大きなきっかけであった。
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遅咲きの桜が咲く朱桜公園。穏やかな日差しが差し込む中、朝比奈栞は、ハジメに提案をする。
「ねえ、ハジメくん。ヒーロー協会の人が来るまで、よかったらお話しない? ちょっとでも、不安な気持ちが紛れるかもしれないし」
「親切にありがとな。……でも、朝比奈さん、どこかに向かう途中だったんじゃねーの?」
そうハジメが問いかけると、朝比奈栞は、ハッとした表情で朱桜公園の噴水近くに設置されている時計を見上げる。時刻は、八時を回っていた。
「うん、大丈夫……じゃない! ど、どうしよう。遅刻しちゃう……!」
「朝比奈さん、おれもう大丈夫だから、心配すんな。忙しい中、助けを呼んでくれてほんとにありがとな! この恩はいつか返す!」
ハジメの力強い言葉に、朝比奈栞は一瞬ためらった。しかし彼女は迷った末に公園のベンチに座り、動かないという意思表示をした。
「でも、心配だし、ヒーロー協会の人が来てくれるまでは、あたしここにいるよ。学園の先生には、ちゃんと事情話すから大丈夫!」
ふとそこで、朝比奈栞は、朱桜公園の近くの道路に目を留める。
「って……あ、あれ? 通報してからまだ三分くらいしか経ってないのに。もう誰か来てくれたのかな?」
朱桜公園近くの道路に、『ヒーロー協会』と書かれたエンブレムが付いた黒い車が止まっていた。ヨレヨレのスーツを身にまとった、地味な風体の壮年男性が車から降り、息を切らしてハジメと朝比奈栞の元にやってくる。
「は、はあ、ふう。た、体力落ちちゃってるな……お、おはようございます。僕は、ヒーロー協会の常勤職員、
「は、はい! そうです! それで、この人が!」
「通報にあった、記憶喪失のハジメくん、ですね。大丈夫。ここからはヒーロー協会が保護しますので、朝比奈さんは学園に向かってくださって大丈夫ですよ。ご協力感謝します」
矢作の言葉を聞いた朝比奈栞とハジメは、顔を見合わせてほっと微笑みあった。
「よかったね、ハジメくん!」
「おう! 朝比奈さんのおかげだぜ」
ハジメは、精一杯の友好の気持ちと感謝を込めて、朝比奈栞に手を差し出した。
「朝比奈さん、ありがとな。……また、どこかで会えたら、ぜってー、借りは返すから!」
「気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう。またどこかでね、ハジメくん!」
朝比奈栞は、ハジメと握手を交わすと、手を振って、学園までの道を足早に駆けていった。善行を積んだからだろうか、その足取りは軽やかだ。
(もう姿が見えねえ。足はえーな。それだけ急いでたのに悪いことしちまったな……)
物思いにふけるハジメに、ヒーロー協会職員の矢作が声を掛けてくる。
「では、ハジメさん。誘拐されたかもしれず、記憶喪失ということで、とても恐ろしい思いをなさったでしょう。あなたの身柄は、ヒーロー協会で保護させていただきます」
「ありがとーございます!」
ハジメは、力いっぱい頭を下げて、感謝の意を伝えた。
「では、こちらの車に乗ってください。シートベルトの締め方がわからなければ、遠慮なく聞いてくださいね」
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ヒーロー協会に保護されたハジメは、綺麗な建物に連れてこられた。森の木々に擦れてついた傷の手当や、シャワーを浴びて着替えを貸してもらった。ハジメは、清潔で広いヒーロー協会の施設を見ながら興味深げにキョロキョロ見回す。
車に乗せて連れてきてくれた保護担当の矢作と、これからのハジメの身の振り方について相談する運びとなった。
「では、まず挨拶からさせていただきますね。僕は、あなたの保護担当になる、ヒーロー協会の
「よろしくお願いします!」
ハジメは元気よく返事をする。その様子に、矢作は少し微笑みを見せてくれた。
「お元気そうでよかったです。行方不明の少年が見つかったと連絡が入ったときは、内心ハラハラしていましたよ」
「心配してくれてありがとうございます。おれ、元気です!」
矢作は、目の前の机に地図や、様々な書類を広げながら、ハジメに事情を尋ねてゆく。
「ハジメさんは、気がついたら森の中の怪しい施設にいて、自分の名前も含めた記憶の大部分を失っていた……ということですね」
ハジメはこくりと頷く。
「ハジメさん、辛い体験をしたあなたに聞くのは申し訳ないのですが……。身元を特定する手がかりになるかもしれないので、教えてほしいのです。その怪しい施設があった場所は、どのあたりかわかりますでしょうか? こちらが、この街周辺の地図になります」
矢作は、ハジメの方に朱桜市北西部の地図を向けて、差し出してくれた。ハジメは、左上を見て考え込みながら、鉛筆を持って地図に向かい合う。
「……施設の出口に、すげー深い森があって。そこから、街の灯りがある方向に、できるだけ真っ直〜ぐ歩いて行ったんすよね」
「なるほど……」
「森の道は、すんげー曲がりくねってたんで、真っ直ぐ歩けていたかどうかは分かんねーです。それでも、星明かりと街の灯りを頼りに歩いてたんで、大体……」
ハジメは、鉛筆を握って、地図に印をつけた。
「ざっくり、このあたりから、ここまでのどこかだと思います!」
「さぞかし不安な状況だったでしょうに、覚えてくださっていてありがとうございます」
そして矢作は、資料や地図を丁寧にファイリングしながら、真剣な顔で不可解な言葉を口にした。
「では、ハジメさんからいただいたこの情報を元に、あなたを誘拐したと思われる『怪人』の行方を追いますね」
ハジメは、口を開けてぽかんとする。
「へ? 怪人……?」
「はい。怪人です」
矢作は、真面目で誠実そうな表情のまま、頷いた。
二人の間に、しばらく沈黙が降りる。その後に、矢作はハッとしてハジメを見つめた。
「……そうか。ハジメさんは、記憶喪失でしたね。失礼しました。……ハジメさんは、変身ヒーローという存在はご存知ですか?」
ハジメは、記憶の奥の奥から、変身ヒーローという言葉を聞いて浮かぶおぼろげな知識を辛うじて口にした。
「……えーっと、変身したり、戦ったりする、アニメや特撮の中の……やつ? ですか?」
「よかった。ハジメさんは、アニメや特撮をご存知なんですね。会話が成立している時点で、記憶のすべてが消えているわけではないと感じてはいましたが」
矢作は、至極真剣な眼差しで、ハジメを見つめた。
「ハジメさん。『変身ヒーロー』は、今の時代、本当に居ます。そして、恐ろしい怪人と戦ってくれています 」
「…………まじですか?」
ハジメは、あまりのことに、開いた口が全く塞がらなくなってしまった。
「はい。まじです。僕達ヒーロー協会の仕事は、市民の平和を守るお手伝いをすることもそうですが、一番の役割は、変身ヒーローが活動するために必要なサポートを行うことなんです」
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─【朱桜新聞社】の記事より一部引用─
怪人に襲われた少年、ヒーロー協会に保護される!
朱桜市内で、怪人に襲われた少年がヒーロー協会に保護されました。少年は襲われた際にショックを受け、記憶を失ってしまったとのことです。
ヒーロー協会は、少年が記憶を取り戻すまで保護し、必要な治療を行うとともに、事件の真相解明に向けて捜査を進めているとのことです。少年は、事件当時、一人でいたため、他に目撃者はいませんでした。ヒーロー協会は、事件の目撃者や情報提供者を求めて、市民に協力を呼びかけています。事件の詳細については、今後の調査で明らかになることが期待されます。
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