建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF

第1章 灼熱の火山地帯冷却編

第1話 長時間落下した先は……地獄(?)でした

「何で私今こんな状況に……?」


 現在何があったのか、どこか細長い穴のようなところを落下中。

 気付いた時にはもうこの状態で、もうかれこれ何十分か、何時間か、とにかく長い時間を落下し続けている。


 最初こそ訳が分からずパニックになって何とかしようとしたが、時間が経った今はもうそんな気も起こらなくなった。

 現在は『どうせこの高さで落下したら死は確実なんだ! どうにでもなれ!』という境地に達している。

 しかしこの穴、絶対日本じゃないよね? それどころか地球ですらないよね? 地球上でそんな長時間落下出来る穴なんてある?

 落下方向を見てみるも、まだ真っ暗闇。

 あとどれほど落下し続ければ終わりに行き着くのか……


 死を受け入れてしまえば気持ちにも余裕が出てくるようで、冷静に見回してみると壁面は岩がゴツゴツしてるのくらいは薄っすら見える。

 空中を泳いで掴まれないか試してみる。

 が、なぜか真ん中に引き戻されて壁面を掴むことすら出来ない。

 まあ、掴んだところで長時間落下してきたところを登れるかって言うと、絶望的に無理だと思う……いつどこから落下したのかすら分からないから、壁面を登り切った先が安全なところという保障も無い。


 それに……この落下速度で壁面なんて掴んだら、多分腕がもげる、それどころか下手したら上半身ごともげる。いやバラバラになってしまうかもしれない。

 ここからまだ何時間落下するかもわからないのに、腕やら上半身やらがもげたら酷い痛みのまま落下し続けなければならない。どうせ死ぬなら痛みも無い状態で地面に激突して一瞬で即死した方がまだマシだろう。

 というわけで、壁面を掴むのは断念。


 さて、落下しか出来なくて何もすることが無いから、ちょっとだけ頭の中を整理しよう。

 私が今、なぜこの状態なのかを時をさかのぼって考えてみる。

 時計があるわけじゃないから感覚でしかないけど、今から多分二、三時間くらい前……じゃないかと思う。


   ◆


 数時間前――


 気が付いた時には、私はどことも知れぬ川沿いに立っていた。

 その川沿いには、私以外の人も何人かいたが、誰を見ても青白い顔をしていて覇気がない。更に言うなら、全員白い着物を着ていた。

 私も既に着替えさせられた後だったみたいだ。額に触れると、よくテレビ番組なんかで幽霊役の人が巻いてる三角のやつがある。白い着物は多分死装束しにしょうぞく

 遠目に、鬼のような顔をした老婆が複数人で無理矢理服を引きはがして、白い着物を着せているのが見えた。

 そこですぐにピンと来た。


 あ、ここって三途の川ってやつだ。


 と。

 あれは多分、奪衣婆だつえばばあとかいう死んだ人間を死装束しにしょうぞくに着替えさせる役目の人 (?)だ。

 私死んだのか……


 どういう顔で死んだのか気になり、何気なく川面かわもに顔を映してみると……そこに映っていたのは私が毎朝見慣れた顔ではなかった。


「え? 誰これ!?」


 思わず両手で顔をペタペタと触る。


 川面かわも映っていたのは、淡い金色の髪で、碧眼の少女。見た目は中学生くらい。

 私は日本生まれ、日本育ちで、純日本人として生まれているためこんな金髪碧眼ではなかったはずだ。

 いや、それ以上におかしな特徴があった。

 両側頭部辺りから二本の黒い……ツノ?

 角は髪飾りのようにも見えるし、髪の毛である程度隠れるから、よく見ないとツノなのかどうかもわからないくらい。


「何これ!? どういうこと!? 私は死んだんじゃないの!? この顔は誰!?」


 ここで今の自分の顔が、私の知っているいつもの顔とあまりに違い過ぎたため、脳が受け入れ切れずしばらく思考停止したらしい。


   ◆


 次に我に返った時には川沿いにいた人たちと一緒に小舟……というよりはクルーザーくらいの大きさの船に乗っていた。

 多分エンジンで操縦するタイプ。手で漕ぐには大き過ぎて、とても手動とは思えない。


 三途の川って渡し守がオール漕いで迎えに来るんじゃないんだ……

 もしかして三途の川の川岸にいる人数で船の大きさ変わるのかな?

 だとしたらその日大勢亡くなった場合は豪華客船並みの船になるのかな……?

 大災害の時なんか豪華客船で迎えに来てくれるのかもしれない。


 心の中でそんなツッコミを入れつつ、漠然と船に乗る。


「……周り黒髪の人だらけだ……金髪だと目立つかな……?」


 今日死んだ人が黒髪ばかりなのか、それともこの場所が日本人専用、あるいは日本からのあの世への入り口なのか、それは分からないが、私の金髪はかなり目立ちそうだ。

 周囲を見回すも、乗船している者は一様にみな青白い顔で焦点の定まらない目をしている。

 私のようにキョロキョロと辺りを見回したり、他人の目を気にする者は一人もいない。

 どうやら今、この場で明確に意思を持ってるのは私くらいのようだ。


 頭の整理も付いていないのに、身体が元の身体と違うという余計な情報が足されてしまい、自身の死という本題すら整理が付けられないまま船に揺られ、少しして対岸に着いた。

 乗っていた他の人たちが徐々に下船していく。

 最後に私が下りた瞬間、目の前が真っ暗に――ここで私の意識は途絶えた。


   ◇


 意識があったのはそこまで、次に気付いた時にはもうこの状況である。

 それで気付いた時点から、かなり長い時間落下し続けているというわけ。

 まだまだ地面は見えず。

 この垂直落下してる様子からすると、きっと着いた先は地獄かな……天国行きなら上に昇ってると思うし。


 と言うか、いつ地面に着くのよ、コレ!

 う~ん、スマホでもあればゲームか漫画か読んで暇を潰せるのに。落下しか出来ないから、何もすることがない。

 とりあえず……寝ておく? 眠っていれば地面に衝突した時も痛みなく次の世へ行けるかもしれないし。

 目を閉じてみたものの、視覚情報が無くなった所為せいか、聴覚が鋭敏になった。落下しているから風の音がゴォーゴォーとうるさい。

 あと、死を受け入れたと思っていても、思ったよりも恐怖感があるらしい。目を閉じると怖くなってすぐに開けたくなる。

 当然寝られるはずもなく……結局落下している先を見続けることに……


   ◇


 しばらくして――


「あ、何か灯りが見えてきた!」


 穴のようなところも終わりを迎え、全体的に空間が開けた。

 ただ……灯りは見えるけど、何か全体的に暗めだ……見えた灯りも電気の輝きと違う赤々としたもの。

 それはそうと……


「これ、どうやって着地すれば良いの!?」


 今まではずっと落下だけしてきて危険も無かった。そのため『このまま地面に激突しても良いや』なんて思考だったわけだけど、いざ死に直面するとやはり『死にたくない!』という感情が出てくるようで、何とか助かれそうな方法を考えるらしい。


「パラシュートとかは無いの!?」


 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!


 ドオオオォォォン!!


   ◇


 結局ここへ来ることになった経緯を整理してからしばらく経って、やっと地面に到着。

 着いてみれば、凄い勢いで地面に激突したはずなのに全くの無傷。

 まあ、多分もう死んでるから当たり前……なのかな?

 着いてみて、とりあえず周囲を見回す。真っ暗闇に赤々と燃え盛ってる……

 うん、これ地獄だ、地獄以外に表現のしようがない。


 もしくは噂に聞く異世界転生か?

 スライムになった人とか、クモになった人とか、まだ機械とか物に転生した人はアニメで見たことない。剣とか杖とかいうのは漫画か小説かわからないけど見た覚えがある。


 異世界転生もののアニメやら漫画やらを親友のアイから薦められていた所為せいか、この異常な状況への理解は早かった。

 あ、私にとっては、地獄だろうが異世界だろうが、どちらにしても異世界には違いないか。

 でも……着いた場所の景色を見る限り、多分過酷な方の転生かなぁ……

 出来れば死に戻ったり、王様に嫌われて罪人になるような異世界は勘弁願いたいなぁ。

 生前 (?)ブラック企業で働いてたから、来世はスローライフ的な人生を送れれば良いと思ってたんだけど……


「まさかのブラック人生第二ラウンドとは……」


 三途の川と思われるところで見た頭のツノ、改めて触って確認してみる。

 ちょっと強めにグイッと力を込めるが、取れそうもない。


「ちゃんとツノだ! 間違いなく私の頭から生えてる!」


 本当に転生したのね。でも悪魔に転生しちゃったか……


「顔まで違うものになって、それでいて何で悪魔に?」


 と思ったら、背中を見ると小さいが白い羽、頭上には光は弱いけど天使を思わせる輪っかがある。むしろ、この真っ暗、真っ赤な景色に、金髪に天使の輪と白い羽は超目立つ。薄っすらと身体全体が光ってるようにも見えるし……


「なんじゃコレ? 何か色々混ざってない? 神様、転生先間違えたんじゃないの?」


 いや、でも悪魔みたいなツノがあるから天国に転生しててもおかしいことになるのか……?


 服装も改めて確認してみる。


「……白いな」


 でも、天使の見た目には似つかわしくない白さ。だってドレスじゃなくて和装だからね!

 えりが左前になってる。さかごとってやつかな? これは十中八九ほぼ間違いなく死装束しにしょうぞくだ。


「金髪天使に、頭にツノ、服装は死装束しにしょうぞく、額には幽霊が付けてる三角のアレって、どんなミスマッチ? キャラ渋滞し過ぎじゃない? というか、ここ来る前段階に閻魔様の審判があるんじゃないの? 判決待たずして、地獄へ直行? どんな特別待遇よ?」


 他の人より一刻も早く地獄に行って罰を受けなさいってことなのかな……?


「さっきの長時間の落下と見覚えの無い自身の姿形を考えると、とりあえず異世界に転生 (?)させられたことは間違いないらしい。赤ん坊からスタートじゃないから『転生』と言って良いのかどうかは分からないけど……じゃああの言葉を試してみるか。よし!」


 スゥーっと深呼吸して気合を入れ、右手のひらを目いっぱい高く掲げ、左手を斜め下に鋭く振り下ろし、顔は天高く仰ぎ見る!

 そして力の限り大声で“例の言葉”を叫んだ!


「ステータス! オォープゥーン!!」


 ……

 …………

 ………………


 うんともすんとも言わない。

 どうやらここはステータスオープンができない異世界らしい。


「まあ……どう見ても地獄だしね……異世界って言うよりは、多分地球で云われてるところの『罪人』が死んだ後に行くところだわ……」


 自分で言った後に気付いた。


「罪人……? 私、罪人なのか……?」


 見た目は天使だけど、ツノがあって、更に落とされた場所が地獄って……

 私どんな悪いことをしたんでしょうか?

 自己評価ながら品行方正に過ごし、勉学にも励んできました。

 会社でもサボらず、困っている人がいれば見過ごさなかったと自負しております。

 雨ニモマケズ、風ニモマケズうんぬんかんぬん……

 神よ、一体どこに地獄に落とされなければならない事情があったのでしょうか?


 心当たりがあるとすれば……親友に勧められた漫画アニメゲームなどの娯楽ですか?

 それとも友人と秘密裏に見ていた同人誌の方ですか? それともネットで見てたアレラノ動画でしょうか?

 でもその程度で地獄に行くなら、人間全員地獄に行かなければならないんじゃないでしょうか?

 もしかして、私自身前々世に物凄い極悪人だったから、その悪行のツケを来々世で払わされているのでしょうか?


 赤暗い空 (?)に向かって問いただしてみても、誰も答えてくれるはずもなし……

 シーンと静まり返っている。


 そこで一つ都合の良い結論が思い浮かんだ。

 ツノに天使の羽ということは、もしかして今まさに天使に転換されている最中なのかもしれない。

 『堕天』って単語はファンタジーもので良く聞くけど、対義語って何なんだろう? 昇天? それだと何か成仏しちゃいそうだけど……


 いろいろ考えを巡らせてるうちに、更にあることに気付く。


「あ、背中に羽が付いてるってことは、さっき落ちてきた穴から上へ戻れるんじゃ?」


 そう思って上を見るが、そこに穴があった形跡は無く、見渡す限り赤暗い空だった。


「あれ~? 岩壁みたいな穴を通って来たから落ちた先は洞窟の内部みたいな所かと思ってたけど……そういえばここは普通に外だわ。通って来た穴も見当たらないし……」


 いずれにせよ、もう現世には戻れないのかな……?

 あんなブラックな労働環境でも、日本に戻れないというのは、少しツライし寂しい……

 両親はもういないけど、会社には仲の良い人いたし、親友だっていたしなぁ……漫画読みたい! ゲームだってやりたい! スイーツも食べたい! このまま死にたくない! 日本に戻りたい!!


 絶望に暮れていたその時――


「すげぇ目立つやつだなぁ」


 後ろから低く威圧感のある声をかけられ、恐る恐る振り向くと、そこには――


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

 まずは、第1話を読んでいただきありがとうございます(^^)


 ここより彼女の国造りの物語の始まりです。

 この小説は、『バトルものを装ったスローライフファンタジー』と予定しています。基本的にほのぼの、時々殺伐とします。

 魔法を使った現実にはあり得ない実験や試行錯誤、現実にはあり得ない魔法道具の発明、そして失敗と成功の繰り返しで展開する街づくりと魔界を統治するまでの物語です。町が徐々に発展していく様をお楽しみいただけると幸いです。



 カクヨムは初めてでまだ右も左も分かりませんが、『面白そう』と思ったなら、よろしければフォロー、応援、コメントなどしていただけると嬉しいです(^^)

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