第22話 初コラボ!

「今から私と配信でコラボしませんか?」


 彼女は俺を見上げてそう言った。


「コ、コラボ!?」


 配信者が言うコラボをするメリットはたくさんある。

 その中で一番大きいのは相手の視聴者に自分を認知させることで、チャンネル登録者数や再生回数を上げられるというものだ。


「はい!こう見えてもそこそこ人気あるんですよ?」


 彼女は腰に手を当てて、大きめの胸を張る。


 俺は登録者数20万人越えの配信者だぞ?

 そんな簡単にコラボしてたまるか!

 そんな俺にコラボ依頼とは……一体どれほどの実力か見せてもらおうじゃないか!


「ちなみにチャンネル登録者数はどのくらいいるんだ?」


 すると彼女はスマホを取り出し、自分のチャンネルを確認する。


「えーっと、今は40万人くらいですね」


「ぜひ、コラボしましょう!」


 俺は彼女の手を握り、そう言う。


「本当ですか!?やったぁ~!」


 彼女は笑顔で、ぴょんぴょん跳ねる。


 ふっ、まさか俺の2倍のチャンネル登録者数とは……。

 それならばコラボしてあげようじゃないか!


 というのは冗談で、彼女は見ず知らずの俺に配信用ドローン選びを手伝ってくれたので恩返ししたいと思っていた。

 たとえチャンネル登録者数が俺より少なくてもコラボくらいならしていただろう。


「コラボするのはいいけど、何するんだ?」


「そうですね……、じゃあデルタさんが私に戦い方を教える感じでどう?」


「それなら全然いいぞ。普通に教えればいいんだよな?」


「はい!デルタさんに教えてもらえるなんて光栄です!」


 彼女は目をキラキラさせてそう言った。


「でも君は俺の配信が本当だって信じてるんだね」


「え?あれ全部嘘なの?」


「いや、本当だけどさ。ダンジョン協会の人が言うには俺の配信をまだ嘘だと思っている人もいるみたいなんだ」


「でも高ランク探索者なら本物か嘘かすぐに分かるんじゃないかな?ダンジョンの事よく知らない人達が言ってるだけだと思うよ」


「そうか……、ちょっと君のチャンネル見てもいいか?」


「うん!『rinChannel』って検索すれば出るよ」


 俺はスマホで検索してみるとすぐチャンネルが出てきた。

 ダンジョンでの配信は勿論だが、それ以外にも飯雑や質問コーナーなどもしていてほとんどが50万回再生を超えていた。


「色々な事やってるんだな」


「まあダンジョン配信ばっかりだと視聴者さんも飽きちゃうからね」


 彼女はそう言って苦笑いをした。


 なるほどな。

 俺も今度、質問コーナーとかやってみるかな。

 ついでに最近ネタが切れてきたし、雑談の中で視聴者に何をすればいいのか聞いてみるのもいいかもしれん。


「そっか……大変だな。ん?」


「どうしたの?」


 俺はある動画のコメント欄を見た。


 ・rinちゃん可愛い!

 ・rinちゃん彼氏いないの?

 ・もし彼氏いたら俺がその男を〇しに行く


 そんな囲いコメントがほとんどだった。


「……」


 もし男の俺がコラボしたら炎上してしまう気がする。


「な、なぁ……これ本当に俺とコラボして大丈夫なのか?」


 俺はコメント欄を彼女に見せながら言う。


「う、うん。多分大丈夫だと思う……よ?」


 彼女は冷や汗をかきながら、目を逸らした。


「おい、なんだ今の間は!絶対炎上するじゃん!」


「だ、大丈夫だよ。私が何とかするから!お願い、コラボして!」


 彼女は涙目になりながら、俺に頭を下げた。


「どうしてそこまで俺とコラボしたいんだ?」


「……」


 彼女は俯きながら、拳を握りしめた。


「私どうしても強くなりたいの、だからデルタさんに戦い方を教えてもらえば私ももっと強くなれるんじゃないかと思って……」


「それはお姉さんみたいになるためか?」


「うん、そう――って何で知ってるの?」


「えっ!?い、いや~何となくかな?あははは……」


 思わず口に出してしまった。

 今日は色々ありすぎて疲れているのかもしれないな。


「?まあいいや。そう、強くなってお姉ちゃんの力になりたいんだ」


「だったら配信する必要なくないか?別に配信なくても戦い方の指導くらいするぞ?」


「あと今、話題のデルタさんとコラボすれば私も知名度上がるかな~なんて……」


「それが本心か?」


 俺は目を細めながら彼女に言う。


「ち、違うよ!正直それもあるけど、強くなる為に教えて欲しいっていうのは本当だから!」


 彼女は両手をブンブン振りながら弁解する。


「ふ~ん、まあそれはいいけど、他のパーティメンバーはいないのか?」


「うん!いつも私一人でダンジョン行くんだ~」


「それなら好都合だ。教えやすい」


「なんで?」


「俺も万年ソロ探索者だからね」


「そうなんだ。あっ!まだ自己紹介していなかったよね?私、朝火燐あさひりん。『rin』っていう名前で配信者やってるんだ。気軽に燐って呼んでくれればいいよ!」


「よろしくな、燐。俺は『デルタ』だ。訳あって正体は隠してるから本名は言えないんだ。すまない」


「全然大丈夫!じゃあ早速ダンジョンにレッツゴー!」


 彼女は勢いよく腕を振り上げる。


 ◇


 練馬ダンジョン、通称『ゴブリンダンジョン』。

 ★2ダンジョンで、主な魔物はゴブリンだ。

 魔法を使うゴブリンや、俊敏に特化したゴブリンなど多種多様なゴブリンが出現する。


「ほ、本当に炎上しないようにしてくれるんだよな?」


 俺達はダンジョンに入ってすぐの所で燐に聞く。


「大丈夫大丈夫!私が何とかするから、デルタさんは普通に私に指導してくれるだけでいいよ」


 そういいながら彼女は配信用ドローンの準備を始める。

 そのドローンは蜘蛛の目みたいにカメラがいっぱい付いていて、素人の俺でもかなり高いドローンだと一目で分かる。


 コラボは普通お互いに相手のチャンネルに出るのだが、今日は俺が燐のチャンネルに出るだけにして、俺のチャンネルに出るのはまた後日という事になった。


 それまでに何か企画を考えておかなければ……。


「はい!皆さん見えてますか~?rinで~す」


 するとドローン付いてるタブレット程の大きさの画面にコメントが映っていた。


 ・待ってました!

 ・rinちゃん……今日も可愛い!

 ・今日は何するの?


 スマホを見なくてもコメントが見えるのか……。

 めちゃくちゃ便利だな。


「突発になっちゃいますが、なんと今日はコラボ配信しま~す。パチパチ!」


 拍手しながら口でもパチパチと言っていた。

 きっと彼女のこういう明るい所が人気なのだろう。


 ・誰と?

 ・男じゃないよね?

 ・男だったら許さん


「あはは……、というわけ今回コラボするのは今話題の――デルタさんです!!」


 燐は大きく手を広げ、俺を名前を言う。


「ど、どうも~デルタです。今日はよろしくお願いします!」


 ・は?

 ・こいつ男じゃね?

 ・rinちゃんに変な事したら〇す


 はい、何とか出来ませんでした~。

 炎上不可避!。

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