第8話 真っ赤な髪の可愛い子

「ふんふんふ~ん」


学校帰りに俺は鼻歌を歌いながら、二十三万円という大金を持って、ある場所に向かう。


「ここなら配信用ドローン売ってるだろ」


駅前にある大きな電気屋に入り、ドローンのコーナーに行く。

そこには無数のドローンが置いてあって、値段も様々だった。

この電気屋では二十万円から百万円くらいのドローンが売っていた。


「どれを買ったらいいんだよ……、まあ一番安いしこれでいいか」


ドローンについては全くわからないので、とりあえず自分が買える二十万円のドローンを手に取ろうとした時、横から声を掛けられる。


「何かお探しですか?」


声が聞こえた方に顔を向けると、そこにはニヤニヤと笑みを浮かべながら、手を組んで店員が立っていた。


なんか胡散臭いやつだな……。

異世界にいた奴隷商人と同じ匂いがする。


「えっと、配信で使えるドローンを探してまして……」


「それならこちらのドローンはいかがでしょう?高画質で映像が取れますし、電波障害も受けにくい材質になっております!」


「へぇ~なんか良さそうですね」


「でしょ!?それなのに安い三十万ぽっきりです!」


「さ、三十万!?予算二十万なんですけど……」


するとそう店員はわざとらしく、目を見開いてリアクションした。


「えぇ~!!お客様、配信するならこのくらいのドローン買わないと誰も見てもらえませんよ!」


「そ、そうなんですかね……」


まだ配信なんてやったことがないので、俺にはよくわからないがそういう物なのだろうか。


「すいません。だとしても三十万は出せなくて……」


「ご安心ください!うちの電気屋のカードを契約して頂ければ、なんと一割引きいたします!さらに今キャンペーンをやっておりますので、期間限定でこのドローンのみ二十三万円でご提供できます!」


めちゃくちゃ安くなったぞ!

しかも丁度手持ちの二十三万円だ。

まるで神様が俺にこのドローンを買えと言っているようだ。


「じゃあそれで――」


「ちょっと待って!」


「え?」


俺がこのドローンを買おうかと思った時、女性から声を掛けられた。


その女性は肩にかかるくらいの長さの燃えるような赤い髪をハーフアップにして、ぱっちりとした二重に、鼻筋が真っ直ぐ通っていた。

歳は俺と同じくらいだろう。


俺はその女性の可愛さに思わず見惚れてしまう。


「このドローンは画質は荒いし、電波も途切れ途切れでまともに配信できない欠陥品だって炎上してませんでした?」


「え?い、いやその……」


女性の言葉を聞いて、店員は顔を真っ青にして額から汗を流す。


「ネットでは5万円でも買わないって言われているのに、この値段おかしくないですか?」


「そ、それは知りませんでした……。ちょっと確認しておきます」


そういって店員はどこかに走っていった。


「ねぇねぇ!君、新人配信者さん?」


女性は笑顔で人懐っこく俺に話しかけてきた。


「いや、これから始めようかと思って……」


「だったらこのドローンで十分だよ!もし高いドローンが欲しいんだったら、人気出てお金稼げるようになってからだね!」


女性が指さしたのは一番安い二十万円のドローンだ。


「でもさっきの店員がこれは画質が荒いからダメだって言ってたよ」


「えぇ~!?そんなことないと思うけどな……。私も昔、このメーカーのドローン使ってたけど安いのに結構性能あって良かったよ!」


「なるほど……。君も配信やってるの?」


「うん!最近ちょっとずつ人気出てきたんだ~」


「美人さんだからその内きっと大人気になるよ」


めちゃくちゃ可愛いし、愛嬌もあるからな。

もしかしたら一年後には誰もが知ってる大物ダンチューバーになってるかもしれない。


「そうかな!?ありがとう!」


女性は両手で拳を握り、可愛くガッツポーズする。


「俺の方こそいろいろ教えてもらってありがとう!」


「うん!きっとあの店員もあのドローンの処分に困っていたんだね……。だからといって知識がない人に正規の値段で売るのも良くないと思うけど」


女性は頬を膨らませて、そう言った。


「まあ店側も利益出さないといけないし、しょうがないな」


「それより、どうして君は配信始めようと思ったの?」


「えーっと、自分が知ってる知識をみんなに教えて少しでも誰かの助けになればいいなぁと思っただけだよ」


周りの探索者が弱すぎるし、自分がぐうたらしたいからとは言えなかった。


「ふ~ん、何かすごいね!」


「君は何で配信始めたの?」


「お姉ちゃんが有名な配信者なの!それにすごく強くて、私の憧れなんだ!」


「お、おう」


女性は目をキラキラさせながら、熱のこもった声で話す。


「だから私もそんなお姉ちゃんに少しでも近づきたくて配信始めたんだ!」


「君も強くなれるといいね」


「うん!でも【炎の巫女】っていう職業だから、お姉ちゃんよりも低いランクの職業なんだよね……」


女性はがっくりと肩を落とし、眉を下げる。

実は職業にはランクというものがある。職業ランクは基本A~Fだが、進化すると職業ランクA以上いくこともある。


「そんな見ず知らずの俺に職業ばらしても良いの?」


「悪い人じゃなさそうだし、配信でも言っちゃってるから大丈夫!」


すごく良い子だな~。お礼に少しアドバイスでもしてあげよう。


「今は【炎の巫女】でも、職業が進化したら【炎姫えんき】になれるから大丈夫だ」


【炎姫】は女性限定の火属性に特化した職業だ。ランクは確かSだったかな?


「あはははっ、やだな~ゲームじゃないんだし、職業が進化するわけないじゃん!。それに【炎姫】なんて職業聞いたことないよ?」


「あっ」


そうだこの世界では『職業は変わらない』というのが常識だった。

これから配信するなら、まずこの世界の間違った常識を取り除いていかないとな。


「ありがとう。君のおかげでどの方向性で配信していくのか決まったよ」


やはり現場に出て、探索者の悩みや状況を把握することも大事だな。


「ならよかった!あっ、私そろそろ行かないと。君も配信やってたらまたどこかで会えるかもね、じゃあね!」


「うん、それじゃあ」


女性は俺に手を振りながら、どこかに走って行ってしまった。


「なんか不思議な子だったなぁ。それにあの子どこかで見たことあるような……。まあいいか、とりあえずこの二十万のドローン買おう」


あの子はドローンについて詳しそうだったし、言われた通りこれを買っておけばいいだろう。


ちなみにこのドローンを買った時、店員には舌打ちされた。

俺が一体何をしたっていうんだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る