土岐の殿さまのやり直し-1.0(マイナスワン)
土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)
第1話 出遅れた女神サラスバティ
「聞いてないですよ!」
病気療養明けの、メタバース歴史改良課職員サラスバティは焦りまくっていた。
「そうだろうねえ。キミは病気で長期休職だったから。でも出勤したからにはビシバシ働いてもらうよ」
ヴィシュヌ課長はにこやかに言った。
「ビシバシって言っても何なんですか、ワタシの使えるリソースの
「仕方ないだろう。早い者勝ちなんだから。でもキミのために日本で一番人気の戦国時代枠をちゃんと一枠確保しておいてあげたんだから、感謝したまえ」
「いくら戦国時代枠は一番人気でも、有望な転生先が全然残ってないじゃないですか!」
「当たり前だろう? キミの実績はこの研究所でドベ。ダントツ最下位なんだよ。ハッキリ言ってもう後がない崖っぷち」
「えええっ!」
「戦国時代の三英傑、信長、秀吉、家康やその一族、はたまた上杉、武田、北条などの有力武将の辺りに転生者を送って歴史改良に多少成功したくらいの成績じゃ、キミの残留には全然足りないんだよ。一発ドカンと当ててよっぽど大きい成果を出さないと、来期のキミはもう自由契約」
「それって」
「リストラだよ。早い話クビってこと」
「じゃあせめて戦国時代に持ち込めるアイテムや特典や介入権のオプションはないんですか? 宇宙要塞とか宇宙船、せめてホームセンターやタブレットやスマホを持ち込めるとか、未来のアイテムがお取り寄せできるとか、魔法がバンバン使えるとか、武将のパラメータが見える鑑定とか、できれば諸々のパラメータを課金で強化改造できるとか、加護と称してあれやこれや直接手を貸したりとか!」
「なあにふざけた寝言を言っているのかな。そんなぬるい条件での歴史改良に成功したくらいでキミは評価が貰えると思っているのかい。答えはノーだ。断じてノーだ。転生者や転移者が原則的に持ち込めるのは記憶と肉体だけだ。その最小限の介入で歴史改良の成果を出してこそキミは評価されるのだよ」
「そんなの無理ゲーですって」
「甘えるんじゃない。いいから企画をさっさと提出するように。以上だ」
リストラ目前の女神サラスバティは、己れのクビを賭け、日本の戦国時代を舞台にほぼチートなしの歴史改良に挑むことになった。
「てなことがあったわけ。もう最悪! なんて理不尽! こっちだって好きで病気になったんじゃないっての! イっちゃん! さっそくだけど生命力と記憶力に優れた人材がいいわ。でも庶民はダメ。できれば大名クラス、最低でも国人領主。織田家、豊臣家、徳川家、武田家、上杉家、北条家やその一門は除いて。家族との関係が良好で、史実でもそれなり長生きしている武将をお願い」
メタバース歴史改良課職員である女神サラスバティは自分のパートナーAI「
「サラちゃん、明智光秀はどう? まだ空いてるよ」
イっちゃんことAIの
「おおおっ! 『信長を殺した男』光秀かあ! 掘り出し物が残っていた! コレなら勝つる! 意外と不人気だったな、光秀くん。イっちゃん、光秀を使ったチートなしでの歴史改良の推定成功率と、推定評価点は?」
「推定成功率は99%だけど、」
「おおお! やった!」
「でも推定評価点は、サラちゃんが残留に必要な最低点数の10%にしかならんけど。焼け石に水にもならんよコリャ」
「ゲゲっ。マ?」
「マ」
「じゃあさ、毛利は? 島津は? 長曾我部は? 伊達は?」
「どれもそこそこ成功率は高いけど、評価点は全然足りんよー」
「じゃあ、じゃあ、足利や、近衛や、いっそ天皇家だとどうよ?」
「うん。成功率は半分くらいに下がったけど評価点はかなり上がったよ。それでも欲しい点数の半分にも届かないねえ」
「現実がキビシーっ! ダメじゃん、ワタシもう後がなくって2回3回やる余裕がないの! 一発勝負しかないの!」
「となると評価点重視でマイナー武将を狙うしかないけど、チートなしなのよね?」
「うん。記憶と肉体しか持ち込めないって」
「だったらあんまりマイナーな武将だと、評価点が高くても、絶対にコケるよ。あっという間に攻められて滅亡するから。バランスがドチャクソ難しいんだけど」
「そこをなんとか! イっちゃんお願い!」
「うーん。コレは邪道なんだけれど」
「なに? ナニ?」
「評価点は、歴史改良による文明の進歩の程度だけじゃなくて、上級神を感動させるような改良についての『芸術点』やユニークな改良に対する『アイディア点』も加算されるでしょ?」
「ああ、ああ、一応あるけれど基準が不透明だから無駄な労力になりかねないんで、まともな神は誰も狙ってないアレね。すっかり忘れてたわ」
「そうそう、アレよ。この際ほどほどの武将で、『芸術点』や『アイディア点』で超が付くほどのハイスコアを狙うしかないよ。ほら、この二つは難易度高いけど点数が上限なしの青天井だから」
「ハイリスク・ハイリターン! 失うものなど何もない、運が悪けりゃクビだけさ〜ってか」
「だね。サラちゃんどうする?」
「やるっきゃないでしょ! イっちゃんだれか心当たりがあるんでしょ?」
「その人は、お家騒動で実の兄や甥や自分の息子との仲が悪いんだけれど」
「おい、コラ! ダメダメじゃん!」
「父親とは相性も良いし、それ以外はサラちゃんの出した条件もクリアしてるよ!」
「じゃあちょっと見せてよ」
「もっちろん。モニターに出すよ。ジャーン!」
【
「ごめん、イっちゃん。
「はあ? 信じらんない! サラちゃん、もっと勉強しなさい!」
「ごめんなさい!」
「
「マ? ジャンル違わない? ゲーム転生課や異世界転生課の仕事じゃないんだよ」
「なに言ってんの! 史実よ、史実! このドロドロな負け犬人生を、転生者の知識を使って大逆転して斎藤道三に『ざまあ』できれば、そりゃあもう上級神にもバズること間違いなし! 歴史改良課始まって以来の超ハイスコアの『芸術点』が稼げるよ!」
「圧が怖い! でも、それしかなさそうね。是非に及ばずじゃあ!」
「よし、よく言った!」
「じゃ、まず
「ほいほい。アバターはいつもの『弁財天』ね」
「うん」
「いつごろの
「記憶力がいい人なんでしょ? だったら最晩年ね。いつものように夢で会ったことにするよ」
「
「じゃあそこに。日付は余裕を見て1ヶ月ほど前の深夜でお願い」
「了解! ターゲット・ロックオン! 天正10年11月4日深夜の美濃東春庵に女神サラスバティをダイブ!」
「OK。3、2、1、Go!」
つづく
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