座天使さんがやってきた☆

蠱毒 暦

一幕 初めまして座天使さん

零輪 ゴールデンな最終日


…ピンポーン


ゴールデンウィーク初日の朝。さっきから何度も鳴っている呼び鈴の鳴る音で目を開ける。


…ピンポーン


昨日の深夜まで先輩方の猥談…否、紳士的な会合に無理矢理付き合った所為で…体のあちこちが怠い。


ピンポーン…ピンポーン


同居人であり幼馴染の彼女…唯は、事前に早朝からジムに行くと夜ご飯を食べている時に聞いた。


(……配達も、今日は来ない筈なんだけど…まさか、先輩達なのか…昨日散々したのに?)


おれはなんとか寝ぼけた頭で思考する。


巻枚まきまき先輩は…ちゃんと(?)来る事を数ヶ月前から予告してくるから…違う。


座間ざま先輩なら…いや来ないな。唯がここに居候している話を知ってるなら、何を犠牲にしようとも絶対来るけど…言ってないし。


爛々らんらん先輩…昨日の夜に宣言してた『ゴールデンウィーク強化開発デー』を黙々と家でやってるから…絶対ない。


相鎌あいかま先輩も、爛々先輩の家に行くんだっけ?…一昨日からその日の為に滝に打たれて身を清めてくる…とか言って昨日は参加してなかったなぁ。だから、ここには来ないだろう。


もり先輩、前に日本史は大嫌いって言ってたけど、ゴールデンウィーク中は遠い場所にある歴史博物館に泊まり込みで行ってるって言ってたな…何を学びに行ってるんだろう?


…ピンポーン…ピンポーン……ピンポーン


「……!」


おれは咄嗟にベットから飛び起きて、棚の裏に隠しているエ…参考書達を取り出した。


「……詫錆わびさび先輩。」


少女絶対博愛主義のあの先輩なら、こんな半端な時間でも、おれがまた少女系以外の参考書を保有している事を嗅ぎつけて…燃やしに来る可能性は充分にあり得る。


(高校に入学してから…何度、燃やされた事か。)


おれは隠していた参考書を持ち自室を出る。


「……時間がない。」


罪悪感はあるが隣の部屋…唯の自室の扉の下から参考書を中に入れた。その後、階段を降りて玄関へと向かい祈るようにドアスコープを一瞬だけ覗く。


「……」


そこからは、クリーム色の癖っ毛に茶色いぐるぐる目をした20歳程の……見知らぬ女性が見えた。


(…ど、どうしよう。)


開けるべきなのか?でも、全く身に覚えがない人を家に入れるのは…これは、新手の詐欺かもしれない。そうだ…そうに違いない。おれはこれからゆったりと、ゴールデンウィークの最終日を満喫するんだ。


呼び鈴の音はもう聞こえない。もう帰ったのだろうか。じゃあもう部屋に戻って二度寝でも…



「そんなの…人として駄目だろ。」



おれはすぐにドアを開けて、離れようとしていた女性に聞こえるように大声で叫ぶ。


「います!!!!お待たせしてすいません、実は…トイレに行っていたもので!!!!」


「わ、わわっ!?」


おれの大声に体をビクッとさせながら、女性は振り向いて、こう言った。


「…ここが、井上 陽翠よすい様のお宅で間違いありませんか?」


「様…?あ……はい。そうですけど…」


近隣の方々の迷惑になってないかと挙動不審になりながら頷いた。女性の頭上をよく見ると、カラカラカラと半透明の車輪のようなもの回っているように見えるんだけど、きっと気のせいだろう……そうだよな!?


「…ふぅ。よかったです。要件を話したいので、家の中に入ってもいいでしょうか?」


その真剣な表情。どうやら悪意のある悪戯という訳ではなさそうだ。そう思ったおれはその女性を家に招く事にした。どうせ暇だったし。


「あの……どうかしましたか?」


「っ!えっと、先に中へどうぞ。おもてなしとか、あんまり出来ないですけど…」


なんか何処からか監視されているような気配がしたんだけど…はぁ…流石に考え過ぎだよな。


(ていうか、この人…何者なんだろ。輪っかというか…車輪(?)もあるし天使…とかなのかな?)


そうして女性を家に招いた事が、後にこの世界の趨勢を変えてしまうとかいう馬鹿げた展開に繋がってしまうなんて。当時のおれは勿論、知る由もないのだった。






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