第4話 やっぱりだった



 三人は森のより奥深くにある洞窟へ隠れた。

 後を付けられている様子はなかったが、黒ずくめがからんでいるので用心していた。


「君は?」


 洞窟も数歩歩けば行き止まりの広い空間に着く。そこでカンテラに炎を灯し三人で囲むように座った。


「私は、ミリー・ロスと申します」


 フェリオの問いに答える。


「まずは、私どものトザレがご迷惑をお掛けしたことをお詫びします」


 深々と頭を下げる。


「仲間だって証拠が欲しいけど、オレのこと亜麻色の髪のボウズっていってたしな」


 オリビエは、困り顔で少女を見た。

 トザレの仲間か? という疑惑もあるが変わらずキラキラの瞳で見つめられていることに。

 この仕草は、ハスラムを追っかけている令嬢たちのものと同じだと。


「トザレになんていわれたんだ?」


 フェリオは探りを入る。


「麻の袋をもらってきて欲しいと。それとお礼も預かっています」


「お礼?」


 フェリオは呟くとオリビエを見た。


「そんな物をもらう必要ないよ。ただ、目の前に落ちてきたものを受けただけだから」


 オリビエは、大慌てで拒否した。


「そう、落とし物を拾っただけ」


 ほらとばかりに懐に入れていた麻袋をミリーに突き出した。


「ですが、拾い物もお礼はします。それにあの者たちとの戦いに巻き込んでしまいました」


「黒ずくめのこと?」


 オリビエの問いにミリーは大きく頷いた。


「あの集団って何なんだ?」


 こう訊きつつ自分たちも先日同じ様な格好の連中に関わった。

 同一の可能性がある。


「それは申し上げられません」


 詳しく知ればもう完全に関係者になると暗にいっていた。


「中身確認してよ。オレ、袋の中は見てないから。それと壊れ物で壊していたらごめん」


 ただ袋を守るだけで精一杯だった。


「はい」


 二人はミリーに背中を向けた。

 これ以上関わりたくないと態度で示した。けどそうはいかないだろうと分かっていた。


「やっぱり黒ずくめのこと訊きたい。あいつらの狙いはその麻袋の中身なんだろう?」


「そうです」


「その中身って、トザレが持ち主の所へ運ぶ途中に襲われたってことだよね」


 中身が何か知りたいが、知らない方がいい。好奇心旺盛のオリビエだが、我慢した。とりあえず黒ずくめのことだけでも情報は欲しかった。


「届け主の手に渡ったら黒ずくめの目的も失敗で終わるってことだよね」


「そうなります」


「届け先ってここから近いの?」


「はい」


 場所はいえないと返事をしてすぐに下を向いた。


「分かった」


 フェリオは少女が顔を上げると同時にこういい、出口を顎で示す。行くぞと。

 だが、出口近くになると嫌なものを感じた。


「あれかな?」


「だろうね」


「何ですか? まさか……」


 意気消沈気味に話す二人にミリーはもしやという思いから泣きそうな顔になる。


「ミリーさんは、付けられていたみたい」


 オリビエは端的にいい、カンテラの炎を消した。


「どこに持って行くんだ?」


「それは?」


 躊躇うミリーだが、オリビエが詰めた。


「ミリーも戦う術があるようだけど、あの連中を一人で相手にするのはきびしいよ」


「あの連中って、やっぱり黒ずくめたちですか?」


 まだ気づいてない様子に二人はため息をつく。


「オレがミリーを連れて行くからオマエはこれを届けてからオレたちのところに来てくれ」


「分かった」


 頷くオリビエを確認してフェリオは改めて訊く。


「どこが集合場所」


 トザレには仲間がいた。


「森の外れにあるクラセラ城です」


「了解」


 こんな間にも殺気は強くなるばかりだ。


「遠巻きにだけど囲まれているよな」


 オリビエは、出口近くで身を潜めて外を見ていたフェリオの側に行く。


「少し距離はある。いいかよく聞け」


 フェリオは苦虫をかみつぶしたような顔をしてオリビエの両肩に手を置いた。


「軽く、いいか軽くこの辺りに雷を落とせ」


 拒絶感半端ない声色だった。


「いいな、今回はオレだけじゃあないんだ。それに早く動かないとアレになる。分かっているよな」


 フェリオは自分だから被害に遭っても不運と諦めてやれる。ミリーにケガでも負わせるとマズいと暗に示し、アレの存在も思い出させる。


「お、分かっているよ」


 ミリーの存在もだが、アレが心に大きく広がる。

 絶対に失敗しないぞ! と。



 オリビエが出口に姿を現すや森の中が蠢く。

 潜んでいた黒ずくめたちが捕まえようとチャンスを狙っているのだろう。


「あれ、雨降ってきたと思ったのに」


 白々しくいうや両手を上空へ上げ、その手を急に降ろすや轟音が響き辺りが真っ白になる。


「オマエは!」


 あまりの効果に固まっているオリビエの背後から頭を小突きフェリオは動いた。


「いいな、渡したらすぐに来るんだぞ」


 フェリオは念をおしてミリーと目的地へと駆けだす。


「分かっているよ」


 オリビエも覚悟を決めて走った。

 目先のアレ回避のために。

 だが、黒ずくめたちは襲い掛かってくる。

 剣を抜いて対応したいが、それよりも逃げ切ることの方が早い。

 ただひたすら躱しながら走る。

 お互いに無事に会えることを願って。


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