黄仁の花灯り
鳥崎 蒼生
プロローグ
夕方から降り出した雨は強さを増し、雨粒はコンクリートで跳ねながら、服を裾から濡らしていく。
早急に必要な書類を持ってくるようにメールが届き、急いで来たが誰も現れる気配がない。
ここに呼び出されてから、随分時間が経った。
いくら傘を差しているとはいえ、屋上の風は遮る物もないせいか強く吹き付け、体を冷やしていく。
(またいつもの嫌がらせか・・・)
考えてみれば、こんな所に書類を持って来いと言うのもおかしな話だ。
そろそろ帰ろうと階段を降り始めたとき、後ろから衝撃が走った。
私はその勢いで急な階段の宙を舞う。
舞い上がった黄色の傘と雨粒がはっきりと目に入る。
異様なほどゆっくりと流れる時間・・・
そして、これまでの人生が次々と脳裏に浮かぶ。
私は誰からも愛されない人生だった。家族からさえも・・・。
人生を変えたいとは願ったが、その時間すら与えられなかった。
両親の言ったことは正しかったのかもしれない。私の性格に問題があるのだというあの話。今更、どうでも良いことだ。
ドンっという音と共に、私の体が階段の踊り場に叩きつけられる。
不思議と痛みは感じない。
なぜここまでされたのかは分からない。
あぁここで私は終わるのか・・・もし来世があるのなら、もっと強い人間になりたい。前向きな人生を歩けるように。
ぼやけて狭くなった視界に、髪の長い女性のような姿が見える。
しかしそれが誰か分からないまま、私の世界は真っ暗闇に飲み込まれた。
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