創作目玉焼き神話

目玉焼き

第1話 新たなる英雄の物語

創世歴1050年 ロールズ地方へルビコム村

そこは、この時代、この地方では特に珍しくもない農村。

これはそんな村のお話。

「アリスちゃん!新鮮なリンゴが入ったのよ!ちょっと見ていって!」

「どれどれ。おばちゃん!このリンゴおいしそうだね。一つ頂戴!お代はいくら?」

「いつもお世話になってるし、良いのよ。お代なんて」

「アリス姉ぇ。聞いてよ!あいつひどいんだ!」

「グリッサ。どうしたの?」

「兄貴がお菓子をとったんだ!」

「それは大変だねぇ。後で注意しておくね。それと、お兄ちゃんをあいつ呼ばわりはだめだよ」

「おやアリスちゃん。いつもありがとうねぇ」

「アサリおばあちゃん。また腰が悪くなったら言ってね!」

少女の名前はアリス・リーライト。

どこにでもいる普通の村娘である。

強いて特徴を挙げるとすれば人一倍正義感と好奇心が強いことであろうか。

なぜかはわからない。

生まれた時から彼女は、常に自分よりも弱い者や正しい側の味方であった。

そんな彼女は今では村の中心的な存在となっている。


「リーライト。おはよう」

「ユダ!おっはよう!」

そんな彼女に話しかけた男は名をユダ・ブリースト。

褐色の肌に背は高く、膝までの丈の黒い服を身にまとった白い長髪をした彼女の幼なじみである。

彼の実家は代々村の教会を運営してきた。

アリスはユダに駆け寄ると、横に立って話し始めた。

どちらが何か合図をするでもなく、二人は歩き始める。

「機嫌が良いね。何か嬉しいことでもあったの?」

そんなユダの質問にアリスは満面の笑みで答える。

「そう?そっかぁ、そう見えるか。ただ毎日幸せだなって思っただけだよ」

「・・・そうか。それは良かった」

「それでユダ。今日はどこに行く?」

「そうだな。向こうの大きな木でピクニックでもしようか。ちょうどサンドイッチを作ってきたんだ」

「いいねぇ。さっきそこでリンゴ貰ったからデザートに食べようぜ!」

しばらく二人は歩いた。

他愛もない話をしているうちに木の所についた。

そこは村が一望できる見晴らしの良い場所であった。

二人はユダの作ってきたサンドイッチやリンゴを食べた。

食事を食べ終えるとアリスは木の根を枕に寝そべった。

「ユダぁ~。いつものお話してぇ」

ユダは実家の影響か、いくつもの物語を知っていた。

それを聞くことがアリスは大好きだった。

そしてその時間も好きだった。

「いいよ。今日は何の話をしようか」

アリスは物語をねだる子どものような声で言った。

「あれがいい!悪魔と契約した男の話!」

「ヘビ・ティタンの話?」

「それ!」

「好きだね。この話」

「だって面白いもん」

「・・・そっか。じゃあ話そうか。むかしむかしあるところに・・・」

そうして時は過ぎていった。


ユダが話し終えるとアリスは目一杯拍手をした。

「いやぁ面白かった!」

「・・・そんなに面白い?」

「うん。だってユダも一番熱の入った話し方するもん」

「・・・そっかぁ。そうだよね」

改めてアリスはふかぁく寝転んだ。

「この時間がずっと続けば良いのにね。こうやって一緒に遊んで、たまにユダのお話を聞いて何にも縛られない。そんな日がずっと続けば良いのにね」

アリスはそう言って満面の笑みを浮かべた。

「・・・・・そうだね」

ユダもそう言って微笑んだ。


気がつくとアリスは寝てしまっていた。

空は真紅に染まり、遠くは少し暗くなっている。

傍らを見るとユダは木に寄りかかって本を読んでいた。

するとこちらに気がつき「おはよう」と言って微笑んだ。

「ごめん。どれぐらい寝ちゃってた?」

「別にいいよ。だいたい2、3時間くらいかな?」

それからしばらく話して、明日も会う約束をすると二人はそれぞれの家に帰ることにした。


アリスは家に帰り夕食を食べ、しばらく家族と談笑すると床に就いた。


その日彼女は夢を見た。


彼女はどの色とも形容できない色で埋め尽くされた空間を漂っていた。


・・・ココハドコ?


「始めまして、ごきげんよう、アリス・リーライトさん」


それはとても透き通っていて、しかし芯のしっかりとした声だった。


・・・アナタハ?


「自己紹介が遅れましたね。私はカイラ。皆さんの言葉で言うところの正義を司る神です」


スゴイ!カミサマトハジメテハナシタ!


アリスの言葉に姿の見えない神様はクスリと笑った。


「ところでアリスさん。突然で申し訳ないのですが、一つをしてもよろしいでしょうか?」


ハイ!ナンデスカ!


神様の言うに思わずアリスは身構えた


「貴方に私の代理、として、世界を救っていただきたいのです」


ナント!


「もちろん私なりに最大限の援助はいたします。ですが、道中大変な思いをするかもしれません。それでもやっていただけますでしょうか?」


・・・・・ドウシテ。ワタシニ?


「それは・・・。私が見てきた中で、最も無垢むくきよい魂をお持ちだからです。だからこそ、あなたに私の代行者えいゆうになっていただきたく」


最後はその声が消え入りそうになっていた

アリスは深く考えずに答えた


いいですよ


「ほ、本当ですか?で、でしたら早速約定を」


そう言うとアリスの体にナニカ暖かいものが流れ込んできた


コレは?


「私の力の一部です。どうぞあなたの旅にお役立て下さい。」


タビ?


「あっ。すみません。伝え忘れていました。あなたにはこれから、ある悪魔の討伐をしていただきたいのです。やっていただけますか?」


はい!


よかった

そんな言葉と共にアリスは目を覚ました。

体の中には先ほど貰った力が流れているのを感じる。

部屋を出て、朝食を食べた後、執務室で仕事中の父に話をした。

「父さん。あのね・・・」

父はその話を聞き、喜び、そして悲しんだ。

旅の支度をするためにしばらく待てと父に言われ、アリスは部屋を出た。


その日、ユダと会っても話は出来なかった。

今日は小川で遊ぼうと言って、小川で釣りをした。


「ねぇ、ユダ。正義の神・カイラ様って知ってる?」

アリスは釣りの最中さいちゅうにそんなことを聞いた。

「どうしたの?急に」

「いや、少し気になってさ」

「・・・そうなの?」

ユダは少し考えてから話し始めた。


「知っての通り、カイラ様はあまり知られていない神様だね。その理由は単純シンプルで。魂のこの世界に降りて何かをなさられた物語きろくがほとんどないんだよね。わかっていることといえば、戦争を司る女神カルラ様の姉妹だということと、だということくらいかな?」

そんな風に喋っている間にもユダは何匹も魚を釣り上げた。


ユダととりとめもない話を続けているとやがて空が紅くなった。

二人で家に帰りアリスは床に就いた。

その日もまた夢を見た。


「こんばんは私の代行者えいゆう


アリスの意識は昨日に比べてはっきりしていた。


・・・こんばんは神様


「旅の支度をしているみたいですね。とても良いことです。道中何があっても良いようにしてくださいね」


はい!


「あら良いお返事。・・・そろそろ夜が明けてしまいますね。それではまた」


そうしてアリスは目を覚ました。


朝ごはんを食べ、村をぶらついていると。

「聞いたよ!アリスちゃん!神様に選んでいただいたんだって?!すごいじゃないか!」

「アリス姉ちゃんすごいや!」

・・・村中にアリスのことが広まっていた。

村の何処を歩き、誰に会おうとも、彼女アリスは神に選ばれたことを褒められた。

そのまま、人を避けるように歩いていると、気がつけば村のはずれにあるユダの教会いえの前に来ていた。

しばらくそこに立っていると教会の扉が開き中からほうきを持ったユダが出てきた。


「お」

「や!」

そのままユダは教会の前を掃除している後ろ姿をアリスは階段に座って見ていた。

「・・・手伝おうか?」

「いや、いいよ」

「・・・そう?」

「うん。・・・聞いたよ、代行者えいゆうっていうのに選ばれたんだって?」

「うん。ユダはエイユウがどういうものか知ってる?」

「いや。知らないな。父さんも知らないって言ってた」

「そっか。私、これから世界を救う旅に出る必要があるらしいんだけど。大丈夫かなぁ?」

「確かに、でも何だかんだで大丈夫じゃない?」

それからしばらくして、ユダの掃き掃除が終わると、教会の中に案内された。

中にいたユダのお父さんに旅の安全を祈願され、そこで別れた。


そして翌朝、いつものように朝食を食べ終えると、父さんはアリスを倉庫に連れて行った。

そこには新品の鎧と護身用の剣が一振り、大きく頑丈な革袋が一つあった。

「心もとないかもしれないが、何とか用意できた。旅に出るのには、これで充分だろうか?」


アリスは大きく頷いた。

「うん!ありがとうお父さん!」


こうしてアリスは鎧と剣を身に着けると、多くの村人たちに見送られ、旅に出た。


・・・いや、その前に一つ寄り道をした。


アリスは村を出て、ちょうど村人たちの視線から外れた横道に行くと、そのままある場所に向けて走った。

神様の加護の影響か体が軽かった。


走って、走って。

教会にたどり着いた。

そこにはちょうどユダがいて、昨日と同じように箒を持って出てくるところだった。


「ねぇ!ユダ!私これから旅に出るんだけど!」

「・・・うん」

「もし良かったら。・・・・・一緒に来てくれない?」

ユダは「少し考えさせて」と言って、教会の中に入っていった。

陽がちょうど真上になったころ、杖と大きな鞄を持ったユダが出てきた。

「父さんが『これも神のお導きです』って」

「あっりがとう!ユダ!」

そう言ってアリスはユダに抱き着いた。


こうして彼女たちの旅は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

創作目玉焼き神話 目玉焼き @yuderuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ