第65話 ホーキン村

小休止をとった後に一気に目的地のホーキン村に歩みを進めた。


ここまで馬でほぼ丸三日。帰りは歩兵やら物資もとなると倍の6日は掛かるのではないかと思える距離だ。


ホーキン村は遠目からでも小さな村ながらも建物はしっかりとしていて、領主館であろう建物は結構立派な作りをしているように見える。


町と村の境目ぐらいの規模に見える大きさに、民兵が結構集まるのではないかと少し期待してしまう。


村の近くにくると騎士達はゆっくりと馬を歩かせ、急いではないようなそんな素振りで村へと続く道を進む。


「おい、魔道兵。お前はお飾りでいるだけでいいからな、何も喋る必要はない」


「分かりました」


ファング卿が振り返り、僕に忠告するようにそう言う。ただギレルさんも言葉は選んでいたが、言っていた事はお飾りだと同じ意味の事を言っていた為にファング卿の言葉に納得して返事をした。


トコトコトコとゆっくりと監査をしているかのように、村周辺に植えられている作物を見ながら、時には作業している農民に労う言葉をかけて騎士は急いでいるかのような素振りは見せないようにしているようだ。


「いい野菜だな、色つやがすごいな」

「へへ、そうですかい、騎士様に褒めて貰えるなんて光栄ですぜ」


「ご苦労、炎天下の中、精が出るな」

「こんな暑さどうってことねーですよ」


高い身分の人から気にかけて貰えたり、褒めて貰えるのは喜ばしい事なのは僕も農民だった為に分かる。同じように、ここの作業している農民の人も騎士の言葉に喜んで返していた。


村の家が集まっている場所にはとりわけ門のような物は無く、柵や壁があったりなかったりのまだなら防衛施設しかない。


国境から少し離れたこの土地は、異教徒の襲撃を除けば魔物などの被害は少ないような、そんな防衛意識は高くない村のようだ。


そのままゆっくりと家が立ち並ぶ村の中心へと足を運ぶと、農民の人達は騎士が少し珍しい様子で家の中から出てくる者や、家の中から外の様子を覗きこちらの様子を伺っている人達の視線にさらされた。


僕はこういった人目にさらされる経験はあまりなく、グリモワールを持っている手前、そんな色んな視線だけで冷や汗が額に滲みこんでくる。


そんな怖気づいた僕とは違い、騎士は悠然と喋り出す。


「ホーキン村の諸君、我らは第四王子直属の騎士である。歴史的、大戦を前に義勇兵を募りに来た。我こそはという者は後で名乗りをあげてくれ」


騎士達の先頭の一人が口調は穏やかに、だが広場に集まる住民へ聞こえるようにいった。


いつもはいつの間にか村によった後に人が増えているなと感じていた為に、民兵に声掛けする所はこれが初めてみることだった。


もっと熱い言葉などで巧に、闘争心のような物に火をつけるのかと思ったが想像とは違い静かな勧誘だ。


「領主と話をしてくる為、興味がある者は考えておいてくれたまえ」


そして本当に短い言葉だけでその広場を後にし、領主館だと思われる大きな屋敷へと騎士達は歩を進める。


残された農民の人達は特段熱い声をあげることはなく、シラっとしたままだ。


僕はこんなので民兵なんて集まるのか不安に思いながらも、何も喋る事なくファング卿の背中を見つめるのみ。


「小僧、ここはお前のおかげで民兵が多く集められそうだわい」


「えっ」


僕の気持ちを悟ったようなタイミングでファング卿は僕にだけ聞こえるような声でそう言った。


「案ずるな、みな役割があるうえで。お前も今回はお飾りではないってことだな」


「・・・」


なんて返事をすればいいのか分からず、その後は黙ったまま領主館へと入って行った。


領主館に入ると、すぐに馬から降りて騎士達は手綱を、領主館の数人の使用人へと渡して、自分たちが何者なのかを伝えると馬の世話を頼んでいる。


「すまないが少々長旅でな、我々と馬に食事を頼む」


領主館の使用人に馬の世話と食事の用意を頼む先導者の騎士。兜を脱ぎながら、そういうと一人の使用人は慌てるように領主館へと入って行った。


しばらく待つと領主だと思われる、身なりのいい男性と女性が館から出てきた。男性は40~50代だと思われる髭を蓄えたふっとりとした体形。女性は20代前半ほどの若い美しい女性だ。恐らくこの人達は親子でなく夫婦なのだろうと思う、それがこの世界の身分の高い人の一般的な年齢差だと知っているからだ。


僕の出身のホーリーオーツ村の領主も同じような年齢差の婚姻をしていた。


「これは騎士殿、こんな辺鄙な村へとお立ち寄りになり歓迎いたしますぞ」


領主と思われる男性は、声を高くし僕らを歓迎しようと笑顔で前へと出てくる。


「ホニシス殿、感謝する。少々の長旅だったゆえに我らと馬へ食事を頼みたい。それと我らはグリード・マグヌス閣下の勅命にて馳せ参じた」


騎士がグリード・マグヌスの名を言うと領主は少し顔を引きつらせる。


「まっまぁ長旅でという事なら、落ち着いた食事の席で話はしませんか。ささ、アイシャ、騎士達を居間へと案内せよ」


「はい、あなた。ではこちらに」


領主のホニシスという男性よりも、アイシャと呼ばれる若い女性の方が毅然とした態度だ。


騎士達が中に入っていくのに続き、僕もビルドという馬に乗る若い騎士の後ろへと続いて館の中へと入っていく。僕はこの人を馬と喋れる騎士という事でホース卿と名付ける事に。


「あのおっさん領主、あんないい女をめとるなんて金持ちなんだろうな」


ホース卿が僕に言ったのか、それとも独り言なのか分からないが、ホース卿の言葉が聞こえる距離にいるのは僕だけだ。


返事をすればいいのか悩んでいると、ホース卿がこっちを見るので一応僕に声をかけていたようだ


「えっそ、そうですね」


「・・・つまらないやつだなお前」


「・・・」


なぜこの人との会話はだいたい一回のやりとりだけで、評価を下されなければならないのだと思いながらも、特段会話をしたい訳ではない為にそのまま黙って後ろに続いた。

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