瞬間移動がやりたくて〜魔導書編〜

ストレットフィールド

第1話 戦場に立つ

薄暗く、渇いた大地


鉄と鉄が打ち合う音


熱風とともに炎が撒きちらす轟音が、至るとこで鳴り響く


今、僕がたっている場所は戦場だった




僕に残っている前世の記憶。街並みが並び、人と車、工事の喧騒。


仕事は恐らくデスクワークをしていた記憶が微かに残る。


日々の業務に追われ、少ない休日の中で趣味に励む細々とした日々。


それが突然なくなり、新たにこの世界で転生した。


そこから、中世ヨーロッパのような世界感の街並みに転生したことに一時は胸を躍らしたものだ。


だが、神にも女神なんてものにも出会えていないし、手違いなどで死んだわけでもなさそうだ。


王様に召喚されたりだとか、そんな事も一切ない。


それにどこかの貴族の生まれでもない。辺鄙な農村の3男坊に生まれ、前世の知識を断片的に持ってうまれた平凡な生まれだった。


なんのために転生したのか分からないが、それでもこの世界に溶け込もうと必死に生き続けた16年間。


魔法やスキルなんて物があるらしいが、魔導書とよばれるものを持たないと人は魔法を発動さえ出来ない様だ。


そこは転生なのだから、「なぜ、魔導書もないのに魔法が使えるんだ!?」てきな事にはなっていない。


そういう世界なのだから。


そんな魔導書も貴重な物、ダンジョンでしか手に入らないものらしく、高価でたかが農民の僕には無縁の代物のようだ。


ダンジョンでさえ、剣や盾を持って挑む冒険者と呼ばれるものがいるようだが・・・僕は力は強くはない。それに10歳ぐらいの時にこの転生したこの世界に、冒険などの夢をみる事をやめた。


村の周りにも魔物とよばれる生き物ははびこり、何度も村の作物は荒らされては冒険者に依頼を出して退治をしてもらっている。


その冒険者の姿、戦う様子をみると・・・僕には出来そうにないと悟ってしまったのだ。


泥臭く戦い、怪我や死者をだしている様子に前世でのぬるま湯のような記憶が僕を戦う意思へと遠ざけた。




この世界は暗くて、冷たい。


毎日を必死に生きていくだけで精一杯だった。


だが・・・僕の生まれた王国と隣国の帝国との戦争で僕は徴兵制度のもとに戦場にたつことになった。


戦いとは無縁で生きていきたかったのに、僕は腰にナイフよりもすこし長いぐらいの刃こぼれした剣を持ち、左手には御盆ぐらいの盾、ボコボコにへこんだ誰かのお古の兜と鎧と小手・・・。


それだけを持って戦場に立たされているのだ。


今の戦場は王国内での内戦だ。帝国に情報や物資を渡しているというギズルモという反乱軍の領主率いる部隊を制圧するべく戦っている。




ドーン


走馬灯のように、この転生してからの記憶が駆け巡っていた時に、僕の真横に火柱があがる。


生ぬるい風が頬をなぞると同時に、意識が戦場へと戻った。


「おい!ぼさっとするな!」


「は、はい!」


先輩兵士に怒鳴られながら、火柱があがる場所をみると人が焼けていた。


右隣には同じ村のホイットニーがいたはずだ・・・同い年ぐらいで村でもたまに世間話をしていた、気のいい奴だ。


徴兵された時に絶望の淵にいた僕の心境を悟り、励ましてくれたりしていた彼。


最後に交した言葉は何だったか・・・。


「おい!ふんばれ!」


「はっ」


また僕の意識はそれて、棒立ちになっていたのだろう。先輩に小突かれて体がよろめいた。


敵の魔導書から出される魔法は、一発で人の命を刈り取っていく


味方の兵士が、杭のような丸太を打ち付けて門をあけようとしている。僕はその様子を遠目に見ていた


僕は大きな板のような物を壁替わりに支え、その後ろから弓兵が城門のやぐらにいる魔道兵や弓兵を撃っていた。


だが、こんな木の板なんて、隣の丸焦げになっている様子をみると魔法からは守ってはくれないようだ。


弓矢から守ってくれるだけで、相手の魔導兵の気分で狙われたら僕も同じように丸焦げになってしまうのだろうと、恐怖が体を包むと同時に悲観した頭はどこか冷静だった。


「おい、お前名前は。俺はロックベイのアルスだ」


一緒に板を支える隣の先輩が声を掛けてくる。


「あっ・・・ホーリーオーツのノエルです」


「ホーリーオーツか麦の村だよな、お前初陣だろ」


「は、はい」


「いいか、俺も大して場数は踏んでないがこれだけは言える。戦場では盾を離すな、下すな」


「・・・はい」


「いいか、この盾を降ろせば後ろの弓兵が死ぬ。俺だって一人でこの板を支えるのは無理だ」


「で、でも・・・こんな板じゃあ、魔法からは守ってもらえないんじゃ・・・」


先輩のアドバイスを反論するつもりはなかった。だけど、丁度思っていたタイミングの内容だったためについ口からでてしまった


「そうだけどよ・・・隣の連中は運が悪かった。魔法なんて連発できやしねーし、数もそれなりにしかうてねーはずだ。ましてや一領主が抱える魔道兵なんて数もいねーからよ、備えるのは弓兵だ」


「そうなんですね・・・」


片田舎の農村に本などもなく、魔導書なんて冒険者がちょろっと持っているだけで詳しい内容は知らなかった。


興味があっても知る術がなく、たまに冒険者から話を軽く聞いたぐらいだった為、魔導書というもの自体が身近になかった。


「それに俺たち後ろにいる弓兵の、スナイプとマールだがよ・・・下手くそだからわざわざ魔道兵が狙ってこない」


「おい!聞こえてるぞアルス!」


「そうよ!こっちは必死に狙っているのに!」


先輩のアルスと弓兵は知り合いのようで、恐らく僕を和ませようと後ろの弓兵の2人に振った。


「いやいや、お前らが下手くそなおかげで助かってるって褒めてんだ。ノエルだっけか?お前も礼いっとけよ」


「えっ、えぇありがとうございます」


「新人!お前も何をアルスに言われてのっかってんだよ!」


「ククク、まぁ何をぼけっとしてるかしらねーが。盾だけは下すなよ」


「分かりました」


兵士というのは強面、不愛想なえばりちらしたような奴らだけでなく、アルスさんのような、気さくな人もいるんだなと思った。




ギズルモの砦のような領主館だが、守りは300人ほど。対する王国兵は1,000人。


門さえ突破すれば時間の問題のようだ。アルスが言っていたように、気が付くと途中から敵の魔法は飛んでこなくなった。


アルスが言うように魔道兵の数は少ないようだ。多くて10人、少なくて5人といったところらしい。



プォーーーーーン


しばらく盾を支えていると、角笛が鳴り響く。突入の合図だった。


「おっ門があいたみたいだな」


その突入の合図で、王国正規軍は一斉に走り出し突入を始める。


我さきにと、一直線に走りだす様子は怖くはないのだろうかと、不思議に思える光景だ。


「あー・・・出遅れちまったな・・・今回も無理そうだな」


「今回も?」


アルスの言葉に何かひっかかり、聞いてみる。


「あ?グリモワールの奪い合いだよ。敵に魔道兵がいるってことはグリモワールがある、それさえ手に入れたら自分も魔道兵の一員ってこった」


グリモワール、魔導書の正式名称だ。なるほど、みんなそれが欲しくて我先にと突っ込んでいくのか・・・。


「アルス、お前そんななりして魔道兵はないぜ。どうせ使えねーだろうから、売ることになんだよ」


「は?俺みたいな知的あふれるやつが魔道兵だろうが」


「汚い髭面に、その暑苦しい筋肉のどこが魔道兵なのよ」


「ちっ好き放題いいやがって。まぁ今回も乗り遅れたことだし、のんびり行こうぜ。ノエル、はぐれないようについてこいよ、お前なんて味方にさえ踏み倒されそうだからな」


「あっはい、分かりました」


魔導書か・・・魔法には憧れるが、持ってたりしたら味方にも狙われかねない物なら欲しくはないか・・・。


板を浮かせ、スナイプさんも板を持つ役割に変わり僕らはゆっくりと扉に近づいていった。



僕らが砦に近づいた時には、すでに勝鬨があがり領主の首をとったという言葉があがっている。


「終わったな、何もする事なかったな。盾おろすぞ」


「はい」


「おう、何もしてないのはお前らだろ」


「そうね」


砦に入る前に僕の初陣は終わりを迎えた。結局焦っていた気持ちとは裏腹に、何事もなく戦いはおわったのだ。


「ふ~ん・・・お前ら何人やったんだ」


「・・・」


「・・・」


アルスの問に、スナイプとマールは黙りこむ。


その様子から、本当に下手なのかと思ってしまう。


「ほらな、ったく態度だけはでかいだからよ」


「・・・こいつに言われるとなんか癪なんだよな」


「・・・ほんとよ」


愚痴と軽口をいいながら砦前へとたどり着くが、壊れた門から大行列ができていた


一応、戦利品などは早いもの勝ちというのがこの王国の取り決めのようだ。


貧しい暮らしの徴兵された農民たちは、金品などを手に入れるチャンスな為、魔導書だけが目当てではないようだ。それが彼らの士気に繋がるということらしい。


ボロボロの兜やサイズの合わない鎧に刃こぼれした短い剣など、支給された武器では心元ない為、相手の装備を奪ってドンドンと自分の装備をより良い物にしていくのが基本のようだ。


「・・・こりゃ入れねーな」


「美味しい戦だったからな」


「まぁ支給されるご飯にだけ期待しましょうか」


砦前で立ち往生している様子を、アルスさん達と眺めていると後ろから馬にのった騎士達がやってくる。


「どけろ!道をあけろ!」


馬から兵士達を見下ろす騎士は、ゴミでもみるような蔑んだ目を僕らへと向けた。


あれが味方にする目だろうか・・・ああいうのが歴史で味方に寝首をかかれるのだろうなと、見本のような性格の悪そうな騎士が、声を荒げながら兵士の間を割って進んで行く。


その後ろを戦場なのに、綺麗な装飾の着いた甲冑に高貴そうなマントをつけた人が兵士の割れた道を進み砦へと入って行った。


チッ騎士がなんだってんだ・・・

なんだあいつは、いつか敵と間違えて殺すか。


そんな声が回りから聞こえる。


「アルスさん、先ほどの人は誰です?」


「この国の第四王子だろ。この反乱軍制圧部隊の指揮者だ・・・しらねーのか?」


「王子・・・。はい、何も聞かされないまま、いきなり武器を持ったらこの戦場にいましたから・・・」


「チッ本当に王国は人手不足かよ・・・俺たちの時はもう少し説明あったけどな」


アルスは見た目、20代前半。戦争が3年前から始まった為に、戦争初期の時に徴兵か志願したアルスたちとは少し様子が変わってきているようだ。


そこからスナイプさんやマールさん達とも改めて自己紹介をし、入口の人の波が収まるまで軽い会話をした。


アルスさんとスナイプさんは、同じロックベイの村出身のようだ。幼馴染の2人は、2年前に自ら兵士に志願しこれで6度目の戦のようだった


6度と行っても、帝国とたたかったのは1度だけだそうだ。内戦の領主同士のいざこざの介入から、反乱軍の制圧など各地を回るのがこの第四王子の部隊らしい


元から第四王子ということで、重要な戦を任せられていないような為、そういう役割という事がアルスさん達の考えのようだった


マールさんは北方のウィンストンの出身。第四王子が介入した領主同士の揉め事の際に、第四王子がつかなかった領主側にいた村の為、女性でも徴兵されたようだ


そこからアルスとスナイプと出会い、なんとなく同じように行動をしていたようだった。今の僕のような感じだろう


「そろそろ俺たちもいくか、道もすいてきたし煙が上がってるから飯の支給が始まってるだろ」


「そうだな、寝床も確保しなきゃいけねーよな」


アルスたちが歩きだした為に、僕はそのままついて行く。右も左も分からない為に、今はこの人達が頼りなのだ。


砦の中には、戦とは違った喧騒が広がっている。笑い声や大きな声は、上機嫌な勝った側特有のムードなのだろう。


「おい、あそこのやつ見てみろよ。グリモワール手に入れて自慢してやがるぜ」


砦を入ったすぐ広場の檀上に、グリモワールを片手に上機嫌に見せびらかしている男がいた。


「一番やりのこの、ウィロス様がグリモワールを手に入れたぞ!これで俺は魔道兵だ!ガハハハ!」


ずっとそう宣伝しているウィロスという大柄な男。


その様子に、僕はアルスへと思っている事を伝える。


「あの・・・あの人大丈夫なんでしょうか?グリモワールはみんな取り合いになるのに、それを見せびらかしたりして・・・命狙われたりは」


「それはあるけどよ。でもグリモワールを持ってるからってよ、みんながみんな魔法を使えるわけでもないしよ、魔道兵は軍から特別待遇されるからな・・・隠すよりはああいう風に宣伝するほうが安全なんだろうな」


やっぱり命が狙われるんだ・・・


うん?グリモワール持っていても魔法が使えるわけではないの?


また新たな疑問が生まれる。


「グリモワール持っていても、魔法使えない人もいるんですか?」


「らしいぜ、まぁ大体の奴は使えないんだとよ。生まれつきの魔力ってやつらしいが・・・詳しくはしらねーな」


「あぁ、貴族の連中や金持ちだけで回してる情報だからな。まぁ俺たち平民には戦なんて物がなければ無縁の代物だから仕方ないぜ」


「そうですか」


「なんだ?ノエルもいっぱしに欲しくなったか?」


「う~ん・・・味方からも命を狙われるのは怖いので・・・欲しいけど、いらないですね」


「そうか、お前みたいなガキは奪われるのが落ちだろうからな。そっちのほうがいいだろうよ」


しばらく砦内の様子を見て回ったが、僕らが入った時にはすでにものは何も残っていなかった。


ウィロスの他に、後3人ほど魔導書を手に入れた人がいたようで、貴族に呼ばれ、建物の中に入っていくのを見かけた。


僕らはいつもより、濃い味付きの麦がゆを支給されて、初めての戦は幕をとじたのだった。

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