第67話 新技の問題点
そして、翌朝。
俺とケルは昨日男たちから聞いた捜索範囲をもとに、ケルビンの捕獲を行うことになった。
今回は俺個人で男たちの作業を手伝うことにしたので、サラさんとは別行動をすることにした。
多分、サラさんは剣士として別の修行をしたいだろうし、今回のは俺の修業のようなものだ。
サラさんやケルがいないことを想定して、魔物を捕まえなくてはならない。
本当はケルも別行動でも良かったのだが、ケルはついてきたがっていたので、魔物の捕獲には手を出さないことを条件に一緒についてくることになった。
「それで、拘束魔法でケルビンを捉えるらしいが、どんな魔法なんだ?」
ケルは軽やかな足取りで隣を歩きながら俺を見上げる。
フリフリと振っている尻尾から、俺の魔法を楽しみにしてくれていることが伝わってくる。
もしかして、ケルは俺の魔法見たさについてきてくれたのかな?
「じゃあ、ケルには見せておこうか」
俺がそう言うと、ケルはパァッと顔を明るくする。
俺はそんなケルの反応に少し笑いながら、地面に手をついた。
拘束魔法だから拘束をする対象が必要なんだけど、どこがいいかな?
そう考えながら辺りをキョロキョロと見ると、少し離れた所にちょうど良さげな木を見つけた。
狙う場所は……うん、あの木でいいか。
俺は魔法の発射位置を木のすぐ下に設定して、魔導書で見た魔法を発動させる。
「『黒影鞭』」
魔法を発動させると、木の下から四本くらいのぼやっとした黒い鞭のような物がゆらりと現れて、ビシッと木に巻き付いた。
そして、その鞭のような物は四方から動きを封じるようにグッと木を引っ張る。
「おお! いきなり成功させるとはさすがソータだな」
「魔法が発動できるのは確認済みなんだ。問題は、動く敵を拘束できるかどうかなんだよね」
隣で驚くケルの言葉に頷いてから、俺は『黒影鞭』で縛られた木をじっと見つめる。
……この魔法って見たこともないんだよなぁ。
オリバのパーティにいたとき、他のパーティの魔術師の魔法も見る機会はあった。
それでも一度も見たことがないということは、これは古代魔法の中でも『火球』のように現代魔法に受け継がれなかった魔法なのかもしれない。
古代魔法にしか存在しない魔法なら、これは俺にとって武器になる気がする。
「拘束魔法にしては、強度が読めないんだよね」
気のせいかもしれないけど、相手をあまり強く拘束する魔法には見えない。
まぁ、そこら辺は重ねがけを上手く使えばなんとかなるかな。
そもそも、強度がどのくらいなのか以前に、魔物を拘束できるスピードがないと話にならない。
「ねぇ、ケル。ケルならこの拘束魔法から逃げられるでしょ?」
「ふむ、我なら逃げることは難しくはないだろう。魔法が発動してから、あの黒い鞭が襲ってくるまでに時間があったからな」
「やっぱり、問題はそこだよね」
今の段階では拘束をするための魔法なのに、発動してからの動き出しが遅い。
これを何とか改善しないと魔物を捕まえることは難しいだろう。
多分、ケルビン相手でも逃げられてしまう気がする。
今回の修業の目的は、どうやって拘束速度を上げてケルビンを捕まえられるようにするのかだ。
むむっと考えていたると、ケルの体がぴくんっと小さく跳ねた。
「『魔力探知』に反応があるね。ケルビンかな?」
「早速行ってみようか、ソータ」
俺はケルの言葉に頷いて、今の『黒影鞭』でケルビンをどこまで追いつめられるのか試してみることにするのだった。
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