第45話 縋るロードたち


「古代魔法って、マジかよ」


「あの子がそんな魔法を使えただなんて……」


「『火球』を地面から出すなんて普通じゃ無理よ。普通なら、ね」


 ロード、ナナ、リリスは順々にそう言って、驚きを隠せずにいた。


 その目は古代魔法という現実離れしている言葉を疑っているようには見えなかった。


「それじゃあ、俺たちは街に戻るから」


 これ以上ここにいる意味はないよね。元々、ただこの道を通ろうとしただけだったわけだし。


 そう思った俺は、そのまま何事もなかったかのようにオリバたちの隣を通り過ぎる。


「ま、待ってくれ、ソータ!」


 すると、慌てたようなロードが俺の肩を掴もうとして、ピタリと止まった。


 おそらく、さっき手を払ったことを気にしているのだろう。


「……なに?」


 俺が振り向いてそう言うと、ロードは少しだけ躊躇ってから俺を見る。


「街まで戻るんだろ? その、俺たちも連れていってくれないか?」


「連れていく? ただ帰るだけなんだから、一緒に行かなくてもいいんじゃない?」


 ここからまたダンジョンに潜るというのなら別だけど、ただダンジョンの上層から街に帰るだけだ。


 別に強い魔物が出てくるわけでもないだろうし、今のオリバたちだけでも問題ない気がするんだけど。


 俺が首を傾げていると、ケルがとててっと俺のもとに近づいてきて、俺の脚に自分の前足をかけて、顔を上げる。


「魔力も体力も使い切って、まともな戦闘もできないのだろう。こやつらは小休憩ではなく、途方に暮れていたとみた」


 ケルが嬉しそうにそう言うと、オリバを除くロードたちは少し躊躇ってから、こくんと頷く。


「ソータの支援魔法がないと、魔物の群れが来たときに押さえこめる自身がない」


「私もいつもみたいな魔力がないから、戦い方分かんなくなってるし。魔力溜めるのに時間かかり過ぎる」


「私は魔力だけでなく体力ももう限界で、次魔物に遭遇したら逃げることもできません」


 ロード、リリス、ナナは順々にそう言ってから、俺に縋るような目を向けてくる。


 俺が頬を掻いてじっとロードたちを見ていると、ナナが一歩前に出て俺に祈るようなポーズをとる。


「ソータさん。今まであなたにしたことを正直に全部ギルドに話ます。だから、どうか……命をお助けいただけないでしょうか?」


 ナナに続いて、リリスも前に出てきて俺に両手を合わせる。


「お願いよ! 荷物持ちでも何でもするから、私たちも連れていって! これ以上……こんな奴と一緒にいると頭おかしくなりそうだから!!」


 リリスはオリバを指さしながら、感情をぶつけるようにそう言った。


 そして、そんな言葉を向けられたオリバは怒りのあまり強い歯ぎしりをしている。


「てめぇ、リリス……」


 オリバがこれだけ言われて癇癪を起さないということは、よほど体力の限界なのかもしないな。


 いや、それ以上にサラさんに軽くあしらわれてメンタルが限界なのか?


 そんなことを考えながら、俺はオリバたちをどうすればいいのか悩んでいた。


 ちらっとサラさんを見ると、サラさんは俺を見てニッと笑う。


「ソータの好きにするといいさ。私はソータの考えに従うよ」


 サラさんにそう言われて、俺はもう少しだけ考えてみることにした。


 オリバたちには数年ひどい扱いをされた。それに、何より俺を殺そうとした相手だ。


 悔しい思いもしたし、恨んだことだってあった。


 ……まぁ、それでも、オリバたちを本気で殺してやりたいと思うほどの殺意があるわけでもないか。


 俺はそこまで考えると、大きなため息を漏らした。


「分かったよ。ついてくるなら勝手にして」


 俺の言葉を聞いたロードたちは、わぁっと歓喜に沸いた。


 俺はそんなロードたちに勘違いされないように、言葉を続ける。


「でも、これまでのことを許したわけじゃないから。ただ、ここで死なれるのも目覚めが悪いから、仕方なくだからね」


 俺が目を細めてそう言うと、ロードたちは途端に大人しくなる。


 そんなロードたちを見て頷いてから、俺は再び街に戻るために歩き出した。


「さすがだな、ソータは」


 すると、俺たちのやり取りを見ていたケルが、すぐに俺の隣にやってきて、ヘッヘッヘッと可愛らしい子犬のような息遣いをしていた。


「別に、褒められるようなことでもないよ」


 俺がそう言うと、ケルは俺の脚に体を擦りつけながらニパッとした笑みを浮かべて顔を上げる。


「ここで魔物に食い殺されるよりも、このまま連れ帰ってS級パーティから転落、詐欺に殺人未遂をした罪人として扱われるほうがプライドもメンタルもズタズタにできる! 我もソータと同じ考えだぞ!」


 クゥンと甘えるような声を出して、ケルはしばらく俺の脚に体をスリスリとしていた。


 そんなケルの言葉が聞こえたのか、ピタッと足を止めたロードたちは青い顔をしていた。


……なるほど、確かにそういう考えもあるのか。


 俺が相変わらずのケルの思考に笑うと、ロードたちの顔がさらに青くなったような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る