第44話 往生際の悪いオリバ


「ふざけんなよっ……まだ負けてねーぞ!!」


 オリバはそう言うと、懐から小刀を取り出した。


 そして、その小刀の刀身は魔力を帯びているせいか黄色に光っていた。


 あれって、確かオリバがたまに使っていた刀身を爆発させる魔法だ。


 投げナイフのように小刀を投げて使う魔法のはずなのに、オリバはその小刀を持ったままサラさんを襲おうとしていた。


至近距離であの魔法を使ったら、オリバだってダメージを負うはずなのに、そのことは頭にないらしい。


 そんな少し考えれば分かることも分からなくなるくらい、オリバは怒り狂っていた。


「魔法を使わない口約束なんて知ったことか!! 結局、おまえらを殺して、ダンジョンのボスの素材を奪えばそれでいいんだよ!!」


 オリバは勝ちを確信したかのようにニヤッと笑みを浮かべながら、そう言った。


 確か、あのオリバの魔法はすぐには発動しなかったはず。


 発動前に妨害をされると、小刀は爆発することなく、あの刀身の光は収まるはずだ。


 頼む、間に合ってくれ!


 俺は急いで地面をバンっと叩いて、魔導書で覚えたばかりの魔法の発射位置の移動を試みる。


「『火球』!」


 ゴワッ!!


「は? ……ぐわぁっ!!」


 俺の『火球』はオリバとサラさんの間の地面から突然現れて、オリバの小刀を弾いた。


オリバの手も少し弾いた気がしたが、今のは仕方がないだろう。


「あっちぃ!! この……く、クソガキがぁ!!」


 オリバは状況的に俺が何かをしたことを察したのか、俺を強く睨む。


 いや、どう考えても自業自得でしょ。


 そう考えながら、俺はサラさんの前に立つ。


「先に『魔法を使わない』っていう約束を破ったのはそっちだからね。これ以上やるなら、俺も魔法を使って参戦するけど、どうする?」


「クソッ、このぉっ……」


 オリバを見下し気味に見ながらそう言うと、オリバは地面を叩きながら何かを言うだけで、それ以上何かをしようとはしなかった。


 さすがに、今の一撃を受けて向かってくるほど馬鹿ではないらしい。


 俺が顔を上げてロードたちを見ると、ロードたちは一瞬体をビクンッとさせた。


「それで、ロードたちはどうする? 魔法ありでやってもいいけど?」


 サラさんを危険に晒そうとしたオリバに少し苛立ちながらそう言うと、ロードたちは勢いよくブンブンと首を横に振る。


 ただその中で、リリスだけが何か言いたそうな顔をしていた。


「なに? リリスは勝負したいの?」


「ち、違うから! 絶対にやらない、やらないから! そうじゃなくてさ……今、地面から『火球』出さなかった? 今のって何?」


 俺が首を傾げていると、リリスは慌てて俺の言葉を否定してから、そう言った。


 どうやら、魔術師としてどうしても気になったらしい。


 そういえば、まだオリバたちには俺の使っている魔法が古代魔法だって言ってなかったけ?


 そんなことを考えていると、ケルがちょこちょこっとリリスのもとに近づいてから、オリバたち全員を見渡した。


「古代魔法を普段から扱うソータからしたら、造作もないことみたいだぞ」


「「「「こ、古代魔法⁉」」」


 オリバたちが目を見開いたのを見て、ケルは目をキラキラとさせて尻尾をブンブンッと振る。


「まだ気づいていないみたいだな、愚かな人間たちよ。ソータは古代魔法の使い手だ。今まで馬鹿にしていたみたいだが、どちらが馬鹿かようやく分かったのではないか? ん?」


 ヘッヘッヘッと可愛らしい子犬のような息遣いをしながら、ケルは信じられない物を見たような顔をしているオリバたちを見て上機嫌になっていた。


 子犬に負かされているようなオリバたちの図が、あまりにも情けなく見えて、俺もみんなに気づかれないように少しだけ口元を緩めてしまったのだった。


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