第42話 姑息なオリバ


「それで、こんなところで何をしているんだ? まさか、ずっとここの上層にいたわけじゃないよね?」


「あぁ? 馬鹿にしてんじゃねーぞ、クソガキが!! 今は中層まで行って、少し引き返して休んでるだけだ!!」


 オリバはそう言うと、歯ぎしりを立てながら俺を睨む。


 ただ質問をしただけなのに、怒り過ぎじゃないか?


 そう考えていると、オリバのもとに駆け寄ったケルはこちらを振り返り、ニパッとした笑みを浮かべてとててっと戻ってきた。


「ソータ、小休憩なんて言うのは嘘だぞ! 見てみろ、疲れ果てた表情をしている!」


 ケルはそう言うと、嬉しそうに尻尾をブンブンと振っている。


 ケルの大声は当然オリバにも聞かれたようで、オリバはギリッと歯ぎしりの音を大きくさせて立ち上がる。


「このクソ犬がぁ……犬まで俺を馬鹿にしてやがって!!」


 オリバは何とか立ち上がると、引き抜いた剣を地面にガンッと叩きつけた。


「どうせ、ダンジョンのボスを倒したって言うのもハッタリだろ? こんなクソガキが俺よりも先にボスを倒せるわけがない!! そうなんだろ? 証拠でもあんのか? あぁ?」


「証拠ならあるけど。今回のボスはワイバーンだったから、牙とか鱗とか、爪とか色々取れたよ」


「は? なっ……」


 俺が背負っている荷物からワイバーンの素材を取り出して見せると、オリバは目を見開いたまま言葉が出なくなってしまっていた。


 どうやら、かなり衝撃を受けてしまったらしい。


 オリバは俺の言葉を聞いて、いよいよ俯いてしまったみたいだ。


 ……まぁ、これ以上オリバに掛ける言葉もないか。


 そう考えて歩きだろうとしたとき、オリバが自身の顔を片手でぺちんっと音を立てて覆った。


「は、ハハハッ! そうか、そうか。それなら話が早いな」


「話が早い?」


 一体何を言ってるんだ?


 俺が首を傾げていると、オリバは勢いよく顔を上げる。


「そうだよ!! 今ここでおまえたちを殺して、その素材を俺たちが奪っちまえば、ダンジョンのボスを倒したのも俺たちってことになるよなぁ?」


 オリバはそう言うと、俺たちに向かって剣を構える。


 どうやら、本気で俺たちとやり合う気らしい。


 ……いや、普通に考えておかしくないか?


オリバたちは殺人未遂の刑を軽くしたいと考えているはずなのに、今度は未遂じゃなくしようとしている。


 これって、どう考えても、ただ罪を重ねるだけにしかならないって。


「おい、構えろおまえら!! こいつら殺せば、罪が軽くなる未来が待ってんだからよぉ!!」


 怒り狂っているオリバは他のパーティメンバーに命令をするように大声を出す。


しかし、誰もオリバの声に耳を傾けようとはしなかった。


 それどころか、ロードもリリスもナナも『こいつ、大丈夫か?』といったような目をオリバに向けている。


「おい!! 何ぼさっとしてんだよ! あいつら二人しかいないんだぞ! どう考えても負けることはないだろうが!!」


 オリバが大きな身振りで説得を試みるが、リリスなどはため息を漏らしてオリバを相手にもしない。


 あれ? この四人ってこんなに仲悪かったっけ?


俺が抜けてから、何かあったのかな?


 どうやら、俺が知らない間にオリバはパーティ内で孤立しつつあるみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る