第38話 魔導書と約束


「あの、サラさん。本当にこの魔導書、俺が貰ってもいいですか?」


 ダンジョンのボスを倒して、古代魔法の魔導書を手に入れた。


しかし、これはあくまで俺個人ではなく、パーティで依頼をこなして手にした物だ。


 そうなると、通常はパーティでそのお宝を山分けにするのだが、サラさんは当たり前のように魔導書を俺にくれると言った。


「もちろんだ。それはソータにしか扱えないだろうしな」


 サラさんは当たり前のことを言うようにそう言うと、優しく笑う。


「でも、これ売ったら結構な額いくかもしれませんよ? 本当にいいんですか?」


 古代魔法は絶滅した魔法だが、魔導書のコレクターが古代魔法の魔導書を集めているかもしれない。


 もしかしたら、一部のコレクターはこの魔導書に大金を払って買い取ってくれるかもしれない。


 そう考えると、そんな貴重な物を貰ってしまうのも悪い気がする。


「いいんだ。道具っていうのは使ってもらえることが喜びなんだと私は思うんだ。だから、コレクターの手に渡るより、ソータに持っていて欲しいな」


 サラさんはそう言うと、フフッと子供のような笑みを浮かべる。


「……いいんですかね?」


「むむ、まだ気になるか」


 少しくどいような気もするけど、この魔導書にはそれだけの価値がある気がする。


 俺がサラさんの言葉に頷けずにいると、サラさんは腕を組んで考えこんでいた。


 そして、妙案を思いついたかのように声を漏らしてから顔を上げた。


「それなら、これでどうだい? その魔導書をソータにあげる代わりに、これからも私とパーティを組んで欲しい。その、オリバたちとの勝負が終わっても……純剣士の私を仲間として受け入れてくれるかい?」


「え、もちろんです! むしろ、こちらからお願いしたいくらいですよ」


 そういえば、サラさんにはオリバたちを見返したいからという理由でパーティを組んで欲しいと言った。


 もしかしたら、オリバたちを見返したらパーティを解散すると言い出すかもと思われていたかもしれない。


 俺が焦り気味にそう言うと、サラさんは俺の肩にポンっと手を置く。


「そう言ってくれて嬉しいよ。それなら、魔導書はソータが持ってくれている方が、私にとってもメリットがあるよね? 私のいるパーティが強くなるんだから」


「あ、なるほど。もしかして、そのために……」


「それもあるけど、それ以上に私は行き場がなくてね。純剣士というだけで、煙たがられてしまうんだよ」


 サラさんはこれまで受けた仕打ちを思い出したのか、小さくため息を漏らした。


 でも、その顔は初めて会ったときの悲しそうな表情ではなく、思い出話でも話すような余裕がある表情をしている。


「そんな人たちよりも、私を必要としてくれる人と一緒にいたいと思ってね」


 そう言ってから髪を耳に掛けたエリさんは、優しい笑みを浮かべて俺を見る。


「サラさんは必要ですよ。サラさんもケルも大事なパーティの仲間ですからね」


 俺がまっすぐサラさんを見てそう言うと、サラさんは微かに瞳を潤ませて頷いた。


 そんな俺たちのやり取りを見ていたケルは、とててっと可愛らしくサラさんのもとに行くと、サラさんの脚に自分の前足をかけた。


 ケルもサラさんに何か言葉をかけてくれるらしい。もう俺たちは仲良しパーティなのかもしれないな。


 俺が微笑ましく二人を見ていると、ケルは尻尾をフリフリとしながらサラさんを見上げる。


「サラよ。オリバとか言う人間相手に今回の負けを教えるだけで終わらせるのはもったいない。行ける所まで成り上がって、もっとプライドをズタズタにしてやるのだ。そして、サラを追放したパーティの人間たちのプライドもズタズタにしよう」


 ヘッヘッヘッと可愛らしい子犬のような息遣いをしながら、ケルは瞳をキラキラとさせている。


 ……うん。やっぱり、ケルは子犬ではなくて、ケルベロスなのだろう。


 そんなことを考えながら、俺は相変わらずのケルの言動に少しだけ噴き出すのだった。



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