第37話 古代魔法の魔導書


「それは古代魔法の魔導書なのかい? また凄い物を見つけたね」


「多分、本当に古代魔法の魔導書みたいですね」


 宝箱に入っていた本を何ページか読んでみたけど、なんとなく書かれていることの意味が分かる。


 現代魔法の魔導書を読んでも分からない俺が分かるということは、これが古代魔法の原理に沿って書かれたからだろう。


「ふむ、何か使えそうな魔法はあったか? せっかく良い的があるのだから試して見ればいい」


 ケルはそう言うと、部屋の奥の方で倒れているワイバーンの方に上げた前足をピッと伸ばした。


 ヘッヘッヘッと子犬のような息遣いをしてはいるが、言っていることは要するに死体蹴りのようなものだ。


 ……でも、ケルも悪戯に言っている訳ではないのだろう。


 確かに、倒れているとはいえ、ワイバーン相手にどのくらいダメージを与えられるのかは今後参考になるかもしれない。


 俺は魔導書をパラパラとめくりながら、ふむと考える。


「そんなすぐに使える魔法なんてないと思うけど……あ、これならいけるかも」


 初めの方のページは分かりやすいかなと思って見ていると、結構面白いことが書かれている箇所があった。


 ひょこっとサラさんが魔導書を覗き込んできたが、すぐに難しそうな顔をしてサラさんはパッと魔導書を見るのをやめた。


 俺はそのまま目を逸らさず、むしろじっくりと魔導書を読み込む。


 ……なるほど、そういうことか。


俺はふむふむと小さく頷いてから、パタンッと本を閉じた。


「魔法の発射位置の移動とかならできるかも。ちょっとした応用技みたいな感じだけどね」


 俺を見上げながら尻尾をフリフリとさせているケルにそう言ってから、閉じた本を抱えながら地面に手のひらを置く。


「こんな感じかな? ……『火球』」


 俺が『火球』を唱えると、倒れているワイバーンと地面の間がボンっという破裂音が聞こえた。


 煙も上がっているし、無事ワイバーンに『火球』を当てることに成功したらしい。


「で、できた」


 ……それにしても、まさか一回目でこんなに上手くいくとは。


 自己流で色々と重ねがけとか試していたせいかな? 意外とうまくいくものだ。


「い、いま、どこから魔法が出たの?」


「魔法の発射位置を地面を通じて移動させただけですよ。まぁ、からめ手としてはありかもって感じですけど」


「いやいや、もっと凄いことだよ、これは。地面から高火力の技を出せるというのは凄いことだ。奇襲もできるし、相手の動きを制限させることもできる」


 サラさんはそう言うと、しばらくの間真剣な顔で『火球』を食らったワイバーンを見ていた。


 そんなに凄かっただろうか?


 俺がサラさんを見上げていると、サラさんは俺の視線に気づいたのかハッとしてから、俺の頭をなでながら優しく笑う。


「ソータは本当にすごい子だよ、いつも驚かされる」


それに合わせるように、ケルもクゥンと言いながら俺に体をすりすりとさせてきた。


「ふむ、少し魔導書に目を通しただけでモノにするとはな。素晴らしい主よ」


 ニパッとした笑みをケルに向けられて、俺も釣られるようにして笑う。


 パーティ仲間に褒めてもらえるという慣れない事態に照れながら、俺は嬉しい気持ちを抑えられずにいた。


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