第35話 ケルベロスとは
「……えっと、何から聞けばいいのかな?」
俺とサラさんは倒したワイバーンの素材をはぎ取るよりも前に、三匹いるケルたちを見てなんて言葉をかければいいのか悩んでいた。
ヘッヘッヘッと子犬のような息遣いをして、尻尾をフリフリと振ってこちらを見上げている真っ黒な子犬たち。
ただのペットにしか見えないのだが、ワイバーンの動きを完全に封じ込めていたし、普通の子犬ではないことは明確だった。
「フフフッ、我の真の姿を前にして、ソータたちも驚いているみたいだな」
「うん、驚いてはいるんだけどさ。えっと、ケルベロスって、一体の体に三つの頭なんじゃないの?」
「良く気づいたな、ソータよ!」
ケルたちはそう言うと、俺の脚に自分たちの前足を掛けて俺を見上げる。
「我はケルベロスの中でも優秀でな! 三つの頭ではなく三体に体を分けることができるのだ!」
俺が三匹分の肉球のぎゅっとした柔らかさを感じていると、ケルはその姿勢のまま少しだけ胸を張る。
「もちろん、三等分に力が分かれることなどはない。それぞれが我一体分の戦闘力を持っている。魂を共有しているため、兄弟ともいえる存在だな」
ケルはふふんっと自慢げにそう言うと、前足を下ろして回れ右をした。
「さて、それでは最後に一仕事したらまた元の状態に戻るとするか」
「一仕事?」
「素材をはぎ取るのだろう? 真の姿になったのに、活躍の場がなかったからな。せめて、素材の回収を手伝おう」
ケルたちは振り向いてクゥンと小さく声を漏らして、俺の言葉を待っているようだった。
「どの部位をはぎ取ればいいのだ?」
「え、えっと……」
俺がワイバーンの討伐した証拠として必要な物をケルたちに告げると、ケルたちは頷く。
「了解した。行くぞ、兄弟たち」
ケルたちはちょこちょこっと可愛らしく倒れたワイバーンに向かうと、手や口を使って器用に素材の回収をしてくれていた。
ケルたちの見た目とは対照的な少し惨く見える解体作業を見て、隣にいるサラさんは複雑そうな表情をしていた。
「なんか凄いものを見ている気がするよ」
「ですね」
ケルベロスが真の姿を見せると言って三匹の子犬たちが出てきたり、素材の回収をすると言って簡単にワイバーンを解体していく様を見ていると、色々と反応に困ってしまう。
そして、何をしていても、どう見ても可愛い子犬にしか見えないのが不思議だ。
「……ワイバーンの翼って、あんな簡単に穴開かないよね?」
「……おそらくは」
ケルたちが簡単に穴を開けていたけど、普通に戦っていればワイバーンの翼があんな穴だらけになることはない。
それだけ、ケルたちがワイバーンに圧倒していたということなのだろう。
非常に心強いことこの上ない。
本来なら時間がかかりそうな素材の回収だったが、ケルたちのおかげですぐに終えることができそうだった。
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