第34話 やりすぎ初級魔法?


 俺はサラさんとケルがワイバーンの気を引いてくれているうちに、頭の中で『火球』を五つ重ねて発動させるイメージを膨らませていた。


 さっきまでは二つを重ねるだけだから、簡単にいったが五つとなると数が多く、重ねているうちに初めに重ねた『火球』が徐々に消えていってしまう感じがした。


 ……いきなりは上手くいかないかな?


 そんなふうに苦戦していると、前にケルに言われた言葉をふいに思い出した。


『ソータは支援魔法の強さをどう調整しているんだ?』


 そうだった! 支援魔法のときは一個ずつ重ねるよう感覚ではやっていなかった。


 一気に魔法を五つ展開させて、それをまとめて重ねる感覚でやっていた。


 慣れない攻撃魔法のせいか、いつもとやり方が違っていたせいで、中々上手く魔法を重ねることができなかったんだ。


 それに気づいた俺はすぐに支援魔法を使っていた時と同じように、脳内に五つの『火球』を発動させる。


 そして、それらを一気にまとめて重ねるイメージで……。


「いける。ケル! 準備できたから離れて!」


「っ……了解した!」


 ケルたちはこちらを見てハッとしてから、ワイバーンから距離を取った。


 すでに翼はボロボロで、先程のように俊敏に俺の魔法を避けることはできないだろう。


 それに、今の俺の魔法はいくらワイバーンでも避けられない気がする。


 いつになく魔力が手のひらに集中している感覚がある。


 ……この魔力が一気に放射されると思うと、ワイバーンが気の毒にも思えるな。


 ワイバーンは急にいなくなったケルの動きを不審に思いながら、きょろきょろと見渡して俺が構えていることに気づいたようだった。


 でも、今さら気づいたところでもう遅い。


「『火球』!!」


 俺が五つ重ねた『火球』を唱えると、五つの頭の大きさくらいの炎の玉が円を描くように手のひらの先に現れた。


 そして、それらはゆっくりと回りだして、徐々に小さくなっていく。


 その代わりに五つの玉の中心には、唸るような炎が徐々に形成されていく。


 二つの『火球』を重ねたときと違い、中心にある炎はどこかが禍々しいほど熱を溜め込んでいるように見える。


 ゴウゴウッと唸りを上げて燃え上がる炎は、周りの炎の熱を奪ってさらに熱く、大きくなっていく。


 そして、周りを囲んでいる炎が消えた瞬間、中央にある炎は爆発でもしたかのような勢いで直線状に走っていくと、ワイバーンを貫いた。


「ギィヤアア!!!!」


 胸元に円形の真っ黒に焦げた焼け跡を残して、ワイバーンはそれっきり動かなくなってしまった。


 これ、『火球』っていうよりも光線なんじゃ?


「ふむ。……高温すぎて、肌が少し溶けているな」


 ケルはワイバーンに近づいて、クンクンと匂いを嗅いでからそんな言葉を口にしていた。


 どうやら、ワイバーンを無事に討伐することができたみたいだ。


 ……それに、どう見ても『火球』ではない火球を打つこともできたし、成果としては十分だろう。


 そんなことを考えながら、俺はこちらに近づいてくるケルにそっくりな三匹の可愛らしい魔物を見るのだった。


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