第25話 調子の正体


「これで納得した?」


 何も言わなくなってしまったオリバを上から見ると、オリバはハッと思い出したようにサラさんを指さした。


そして、尻餅をついた情けない姿勢のまま、唾を飛ばしながら言葉を続ける。


「ま、まだだ! そこの純剣士も一瞬で魔物を倒しただろ⁉ お前は魔法もろくに使えない、『時代遅れの剣士』じゃなかったのかよ!」


 先程まで俺に不正していたと言っていたのに、今度はサラさんに標的を変えたらしい。


 サラさんは剣を鞘に収めながら、大声で怒鳴ってくるオリバを怪訝な目で見る。


「私が使ったのはただの剣技だが?」


「け、剣技?」


 剣技というのは、魔法などとは別の武術の型のようなものだ。


 さっき魔物を倒したサラさんの剣技は、オリバの剣士特有の魔法を上回るモノだった。だから、オリバはサラさんが魔法を使ったと思ったのだろう。


 オリバはまだ良く分かっていないのか、サラさんの言葉を聞いても眉間に皺を寄せるだけだった。


そんなオリバの反応を見て、サラさんは真剣な表情でオリバをじっと見る。


「魔法と剣技の違いも分からないって……君は本当に剣士なのか?」


「っ!!」


 サラさんは嫌味ではなく、本気で疑問に思ってそう聞いたのだろう。


 悪気がないだけに、その言葉は深く刺さってしまったのか、オリバは怒りのあまり歯をカタカタと震わせていた。


「ソータの支援魔法に助けられていたことにも気づかない連中だ。分からないのも、仕方あるまい」


 ケルは悔しそうなオリバを見た後、他のパーティメンバーを見てそんな言葉を口にした。


 そして、ケルは俺に目配せをすると、上機嫌そうにちょこちょこっとダンジョンの奥に向かおうとした。


「まってよ! どういうこと? そいつの魔法って基礎的なことしかできない雑魚魔法じゃなかったの⁉」


 俺とサラさんもケルに続くように歩き出そうとしたとき、リリスが俺を指さしながら大声でそう言ってきた。


 取り乱しているリリスを見てケルは嬉しそうな顔で俺のもとに戻ってくるとにぱっとした笑みを俺に向ける。


 どうやら、何か良い企みが思いついたみたいだ。


「ソータ、一瞬だけ支援魔法をかけてやったらどうだ?」


「そうだね。それが一番わかりやすいかもしれないね」


 ……なんとなく、ケルが何を言いたのか分かった。


 俺はこくんと頷いてから、オリバたちにいつもかけていた支援魔法をかけてあげた。


 すると、オリバたちは体の変化に気がついたのか、オリバ以外のパーティメンバーがおおっと感動するような声を漏らす。


「体が軽い! 良かった、やっと調子が戻ったみたいだ」


「本当じゃん! ずっと、調子が悪かったのにね!」


「どうやら、一時的に調子が悪かっただけみたいですね。安心しました」


 ロード、リリス、ナナは順々にそう言って浮かれていた。


そんな三人を見ながら、俺はフッと支援魔法を解除する。


 すると、浮かれていた三人は見て分かるくらいに困惑し始めた。


「あ、あれ? また体が重くなったか?」


 オードはそう言うと、おかしいぞと言いながら自分の腕などを揉んでいた。


 さすがに、ここまで来れば俺だって自分の支援魔法が普通ではなかったことが分かる。


 オリバたちがS級パーティなのに、魔物たちに苦戦していたのも、普段俺がかけている支援魔法がなかったせいだろう。


 純剣士のサラさんとの相性もかなりいいみたいだし、俺って本当に古代魔法使いだったみたいだ。


 しかし、そんな俺とは対照的に、ロードとリリス、ナナは未だ何が起きたのか分かっていない様子だった。


 そんな中、オリバだけが顔を俯かせて歯ぎしりを立てていた。


 ……どうやら、オリバは他のメンバーたちよりも先に気づいたらしい。

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